gooブログはじめました!

プロジェクトマネジメントの一丁目一番地、「WBS」がもたらす7つの効果とは?

〇 今回は、プロジェクトマネジメントの一丁目一番地、「WBS」について解説する。一丁目一番地としたのは、WBSがプロジェクトの成否に直結する基盤となる大事な技術だからだ。

WBSはWork Breakdown Structureの略であり、その名前の通り、目的を達成するために必要な作業(Work)を、漏れなく分解(Breakdown)し、構造化して見える化(Structure)したものである(図1)。WBSの表記方法に決まりはなく、一般的には、図1のようにツリー形式で記述するか、図2のようにスプレッドシートなどを用いてリスト形式で記述する。リスト形式では、列をずらすことにより階層構造を表現する。よく見かけるのはリスト形式のWBSだろう。一般にプロジェクトのスケジュール表の左端に書かれている作業項目がまさにWBSであり、多くの場合WBSは作業項目としてプロジェクトメンバーの目に触れる。

図1 WBSとは
図1、WBSとは。
 
図2 WBSの表記方法<リスト形式>
図2、WBSの表記方法。

WBSを作成することによる7つの効果。

それでは、WBSがなぜ大事なのか見ていこう。きちっとしたWBSを作ることにより、プロジェクトの成功につながる7つの効果が得られる(図3)。

図3 WBSの7つの効果
図3、WBSの7つの効果。

① 作業の抜け・漏れを防げる。
WBSを作成する際に、ロジカルに作業をブレークダウンするという思考自体が気付きを促す。例えば、「作業1と作業3を洗い出してみると、作業3をやるには準備作業として作業2が必要だ」といったような気付きを得やすくなる。

② プロジェクトのスコープが決まる。
スコープは範囲のことであり、スコープを決めるとは「何を」「どこまで」やるかを明らかにすることを指す。プロジェクトでは、成果物と作業をWBSに記述することにより範囲を決める。つまり、WBSに書かれた作業はスコープ内だが、WBSに書かれていない作業はスコープ外である。最初にWBSを作成することにより、「今回のプロジェクトでやるのはこの範囲だよね」と決めてからスタートできる。

③ しっかりした計画が作成できる。
冒頭で「スケジュール表の左端の作業項目がWBSである」と述べたが、実際には、先にWBSを作り、それから各作業項目の開始日と終了日を決めてスケジュールを作成する。スケジュールだけではなく作業分担も、WBSの作業項目を基に誰がやるかを決めて作成する。ITプロジェクトのコストの大半を占めるのは人件費なので、コストもWBSに定義された作業を基に算出する。このようにWBSを基にスケジュールや作業分担、コストへ展開することにより、整合性の取れた管理しやすいプロジェクト計画を作成できる(図4)。

図4 しっかりした計画が作成できる
図4、しっかりした計画が作成できる。

④ 作業の標準化ができる。
WBSを作成することは、特にチームで作業をするときに効果がある。WBSで作業の仕方を明示することで動きやすくなる。

⑤ WBS資産の活用ができる。
WBS資産とは、過去のプロジェクトで作成したWBSや組織の標準WBS、公開されたWBSなどである。WBSは再利用性が高い。WBSをゼロから作るのではなく、WBS資産を再利用することで作業の効率化や品質向上につながる。過去のWBSはノウハウの宝庫だ。

⑥ 分解して管理する習慣が身に付く。
大きな問題をそのまま解決するのは難しい。小さな問題に分割し、一つひとつの問題を解決していくことにより全体の問題を解決する。「分割して統治せよ」は、プロジェクトマネジメントにとっても王道だ。WBSを使ってプロジェクトをコントロールしやすい大きさにまで体系的に分割し、分割した一つひとつの作業を仕上げていくことによりプロジェクトの成功につなげる。これはプロジェクトマネジメントに限ったことではない。WBSを継続的に利用することにより、分解して管理する習慣が身に付く。

⑦ 先を読む習慣が身に付く。
プロジェクトで最も大切なリソースは「時間」だ。お金は使わなければ減らないし、いざとなれば他から調達することもできる。しかし、過ぎ去った時間は取り戻せない。時間を無駄にしないためにも、プロジェクトマネジャーには「先を読む」ことが求められる。WBSは、プロジェクトを開始する前に、ゴールまでの道筋を考えながら作成する。WBSの作成がプロジェクトの「先を読む」第一歩になる。

WBSをきちっと作らないと。

では、WBSをきちっと作らないとどのような不具合が起こるか? 先に挙げた効果の裏返しとなる。①~⑦の項目ごとに具体的に見ていこう。

① 作業の抜け・漏れを防げる。
これは説明するまでもないだろう。作業の抜け、漏れがあるとプロジェクトの進捗やコストに影響を与える。

② プロジェクトのスコープが決まる。
WBSに書かれた作業はスコープ内であり、WBSに書かれていない作業はスコープ外である。これは追加費用が発生した場合、誰が負担するかに関わってくる。基本的に、スコープ外の作業を依頼する場合はユーザー側の費用負担であり、スコープ内なら開発側の負担となる。WBSがきちっと作られておらず、スコープ内かスコープ外か判断できない場合は、費用負担を巡って争うことにもなりかねない。

また、WBSに書かれた作業内容が曖昧だとトラブルに結び付きやすい。よく問題になるのが「支援」という言葉だ。書いた方はちょっとしたお手伝いのつもりでも、受け取った方は多くの作業を期待して、齟齬(そご)が生じるケースがある。これを防ぐためには、作業をもう一段ブレークダウンして、「支援」として行う作業を明記するとよい。

ユーザー側で気を付けなければいけないのは、「やってくれる」あるいは「やってほしい」と思っていた作業がWBSに書かれていないケースだ。その作業がスコープ外となっていれば、依頼するのに追加費用を請求されるかもしれない。

③ しっかりした計画が作成できる。
WBSを基にスケジュールや役割分担、コストに展開することにより計画全体の整合性が保たれる。ところが、スケジュール作成時にこのWBSを使わず、前のプロジェクトのスケジュール表を書き直しているケースが見受けられる。モダンPM(PMBOKガイドをはじめとしたお手本となるプロジェクトマネジメント手法)の導入初期には、WBSが大事ということでWBSを作成しているにもかかわらずだ。これでは何のためにWBSを作成したのか分からない。

また、WBSがしっかり作られていないとスケジュールや役割分担もうまく作れないし、コストの根拠も怪しくなる。プロジェクトが始まって、プロジェクトマネジャーが最も使うドキュメントはスケジュール表だろう。このスケジュール表がいい加減だとプロジェクトの成功がおぼつかなくなることは容易に想像できると思う。

なお、計画の整合性は容易に崩れる。崩れ始めるのは仕様追加や作業追加など、スコープに変更が入った時である。作業依頼を口頭で済ましたりしていると、いつの間にかスコープやコストが増えていて、気付いた時には手遅れということになりかねない。スコープに変更が入る時はWBSを修正し、それを基にスケジュール表や作業分担、コストを見直すという一連の手続きを決めて、整合性を保つことが必要だ。

④ 作業の標準化ができる。
 1人で作業するならよいが、チームで作業する場合、「○○をやってください」と包括的に指示するだけだと問題が起こりやすい。分担ややり方が分からず、作業を進められなかったり、各自が思い思いに作業をして手戻りが発生したりする場合がある(図5)。WBSを使って、よりかみ砕いて(分解して)「○○をこうした手順でやってください」と具体的に示すようにしたい。

図5 作業を標準化し、具体的な指示をしないとチーム作業ができない
図5、作業を標準化し、具体的な指示をしないとチーム作業ができない。

⑤ WBS資産の活用ができる。
プロジェクトの経験は企業にとって門外不出の大事な財産だ。同じような業務、同じような製品構成、同じような技術を使うなど、過去に似たようなプロジェクトを実施した経験があるなら、そのノウハウを生かさない手はない。

図6の場面を見てみよう。プロジェクトを担当することになったAさんが、似たようなプロジェクトを経験したBさんとCさんにどう進めたかを聞いた。Bさんはその時の記憶を頼りに、CさんはそのプロジェクトのWBSを基に説明している。どちらが望ましいかは明白だ。もちろんCさんである。

図6 WBS資産の活用
図6、WBS資産の活用。

記憶に頼っていては肝心なことが抜け落ちてしまう可能性がある。問題が起きてから、実はBさんのプロジェクトで同じようなことがあったと気付いても遅い。過去の経験を参考にするときには、WBSの現物を見ながら何が起こったかを把握することが大事だ。

⑥ 分解して管理する習慣が身に付く。
プロジェクトがまったく問題なしに完了することはまずない。何らかの問題が起こったとしても、WBSにより作業が細分化され構造化されていると、問題を局所化しやすくなるし、影響範囲も特定しやすくなる。

逆にWBSがしっかり作られていないと、問題を局所化できず、大きな問題となることが懸念される。構造化されておらず影響範囲が見えていないと判断を誤りやすくなる。

⑦ 先を読む習慣が身に付く。
ゴールまでの道筋が頭に入っていると軌道修正がしやすくなるし、何か起こった時にも迅速に対処できる、いくつかの選択肢がある場合、判断しやすくなるなど、意思決定の質が向上する。

WBSには不具合を防止したり軽減したりする効果もあるが、それにも増して重要なのは先を読む習慣が身に付くことだ。これは、大規模あるいはよく定義されていなくて困難なプロジェクトを進めるときにリーダーシップを発揮するうえで大変重要である。このようなプロジェクトを率いるには、ゴールまでのシナリオを描いて、プロジェクトメンバーをはじめステークホルダー(利害関係者)のベクトルを合わせることが要求される。ベクトルを合わせるために先を読む力が必要になる。

これは一朝一夕に育つものではない。先を読む力を身に付ける努力をしているかどうかで、プロジェクトマネジャーとしての力量に差がつく。

今回は、WBSを中心にプロジェクト計画を作ることで大きな効果があること、その裏返しでWBSをおろそかにするとプロジェクトの成功にも大きな影響を与えることを説明した。そして、WBSはプロジェクトマネジャーとして成長するためにもマスターすべき技術であることを解説してきた。プロジェクトマネジメントの一丁目一番地とした理由がお分かりいただけただろうか。


ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「〝 たぬき の 「 スマホ ・ パソコン 」 ワールド 〟」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事