〇 「AI PC」が持つ意味。
2023年12月、米インテルはノートパソコン用SoC「Core Ultra」の発表とともに「AI PC」という新たなPCプラットフォームを発表した。AIの基本となる推論処理をより効率的に実行するための機能をSoCに内蔵し、プラットフォーム全体でAIに最適化しようというコンセプトだ。
もっとも、技術トレンドに明るい人の中には、「何を今さら?」と感じた人も少なくないだろう。
推論アルゴリズムを効率良く実行する処理回路、いわゆる「推論エンジン」は、「iPhone」などで使われている米アップルの「Neural Engine」が広く知られている。中国ファーウェイ・テクノロジーズも、かつて独自の推論エンジンを開発し、スマートフォンの内蔵カメラ画質を大きく向上させた。その後、米AMDや米クアルコムも専用処理回路を用意し、英ARMも顧客が利用できる汎用の回路設計を提供している。
では、今回のインテルによるAI PCの提唱には、どのような意味があるのだろうか。
画1、「AI PC」の登場は業界をどう変えるのか?
米ラスベガスで開催された「CES 2024」では、Core Ultraを搭載した新型パソコンが各社から一斉に登場した。写真は米デル・テクノロジーズの新「XPS」シリーズ。
PCの新しい価値創造を狙う。
インテルの発表は、Core Ultraと名付けられたSoCアーキテクチャー「Meteor Lake」に、高性能なNPU(Neural Processing Unit)を搭載したという内容だった。
同社がAI PCを訴求する理由は、これから登場するパソコンがもたらす新しい価値や将来ビジョンを提案するため。狙いは、パソコンを評価する上での視点、切り口を変えることにある。参考になるのが、アップルがiPhoneや「iPad」「Mac」「Apple Watch」や「Apple TV」などで試みているNeural Engineの応用だ。
OSに機能として組み込んだ上で、APIから推論エンジンを利用する手段をいくつかのレイヤーで提供する。それによって、Neural Engineはさまざまな場面で活躍している。
写真の中から文字をテキスト情報として抽出したり、特定の人物や物を写真から選び出したり、あるいは毎日のパソコン操作の中で、利用者の習慣に寄り添った提案を自然にしてくれる、などがそうだ。被写体をタップ&ホールドするだけで自動的に切り抜いてくれる機能なども、Neural Engineの強化によって、より高品位に切り抜けるようになる。
このトレンドは、時間差こそあれ、Android端末にも広がっている。今回、インテルは自社SoCにNPUを整えたことで、Windowsパソコンにもこのトレンドを取り入れ、アプリケーションでの利用を広げようと狙っている。
パソコン分野で多数派を占めるインテルがプラットフォームとして提唱し、AI PCをプロモーションする意味は小さくない。
今後は、パソコンの評価においてもCPUやGPUの直接的な処理性能の向上を問う意味は薄れ、実際の製品への実装や、どのような機能がどのような品質で動いてくれるのかといった方向へ評価軸や製品価値の引き出し方が変わっていくだろう。
NPUの性能は演算スループット(1秒当たりの演算回数)で表現されるが、スループットが2倍になれば2倍の価値を引き出せるかというと、そうはならない。より的確な推論結果が導きやすくなる(結果の質が高くなる)形で製品価値が高まるのだ。
画像生成やオーディオ生成用のAIがあっという間に結果を出すといった事例も出てくる一方で、ユーザーに寄り添う形で日常の使い勝手の違いを演出する製品の登場が期待できそうだ。