〇 市場拡大にブレーキの恐れ。
新型コロナウイルス禍により非接触がニューノーマルとなった結果、国内でスマートフォン決済の普及が加速している。
キャッシュレス推進協議会が2021年5月に発表した調査結果によれば、スマホ決済の代表格であるQRコード決済の2020年取扱高は2019年に比べて約4倍の約4兆2000億円に達した。
調査会社のMMD研究所が2021年7月に18~69歳の4万5000人に実施した調査では、52.1%がスマホ決済を「普段の支払い方法」としていた。2021年1月調査から半年で10ポイント以上増えたことになる。スマホ決済が日常の決済手段として急速に浸透し、「止められないインフラ」となっていることを色濃く示した格好だ。
だが足元では、社会インフラとしての信頼性を揺るがすトラブルが続出している。市場拡大へのブレーキとなりかねないばかりか、スマホを起点とするデジタル社会への変革が遅れる恐れすらある。
LINE Payと楽天ペイで顧客資産に影響及ぼす重大トラブル。
「(電子マネーの)残高がマイナス表示になっている」「スマホで決済した覚えはないのに、残高が不足しているとアプリに通知が来た」「こんなことなら、支払いは現金にしたほうがよさそうだなあ」――。
2021年11月26日夜、Twitter上にこうした嘆きの声が広がった。投稿者たちが訴えたのは、LINEのスマホ決済サービス「LINE Pay」で生じた二重決済だ。
二重決済は、利用者が一度決済した支払額と同じ金額を再び決済してしまうトラブルである。LINE Payでチャージした金額をジェーシービー(JCB)加盟店で使えるプリペイドカード「LINE Payカード」における決済の一部で、2021年11月26日午後8時半ごろに発生し、約1万8000人のユーザーが被害を受けた。約2万5000件が二重決済となり、影響額は約7400万円に上った。
直接の原因は運営会社LINE Payのシステム障害だった。同社によるとLINE Payカードではカード会社からの売り上げのデータを1日に1回取り込み、支払い時のデータと突合してチャージ残高の増減処理を実施している。本来であれば2021年11月26日には、前日の25日に計上された売り上げデータを取り込んで処理する必要があった。
ところがネットワーク機器の一時的な不具合による通信障害が発生したことで、2021年11月25日分の売り上げデータの取り込みが失敗。そのリカバリー処理の過程で、取得済みだった2021年11月24日分の売り上げデータの取り込みを誤って再実行し、残高の増減処理を実施したことで二重決済が発生したという。
取り込み処理は2021年11月27日の昼ごろに正常化した。退会者を除き、返金処理を同日午後6時20分ごろに完了。LINE Pay社は「お客様にご迷惑をお掛けしたことを心より深くおわびする。今後同様の事態が発生することのないよう、再発防止に努めていく」と謝罪した。
スマホ決済の重大トラブルを起こしたのはLINE Payだけではない。2021年12月2日夜には、楽天グループ傘下の楽天ペイメントが運営するスマホ決済サービス「楽天ペイ」で、利用者が決済やチャージできていないにもかかわらず、その金額が楽天銀行の口座から引き落とされるトラブルが起こった。
原因は、楽天銀行のシステムが高負荷になり、影響を受けて楽天銀行と楽天ペイとの連携機能がタイムアウトしたことだ。その結果、楽天銀行の口座と楽天ペイをひも付けて決済・チャージしている一部の利用者は、決済・チャージに失敗したとのエラーがアプリに表示されているにもかかわらず口座から自動的に引き落とされた。楽天銀行は影響を受けた利用者に個別連絡して2021年12月3日午前3時ごろまでに返金処理を完了した。