〇 Wi-Fi電波を届きやすくするメッシュネットワークと中継器、どこが違うのか。
日常的にPCやスマホを使うのがWi-Fiルーターから離れた場所で、通信速度や電波状況が思わしくなければ、「メッシュネットワーク」などと呼ばれる仕組みに対応するWi-Fi機器か、「中継器」と呼ばれる機器を導入するとよい。メッシュネットワークと中継器はどちらもWi-Fiルーターの電波が届く範囲を広げるものだが、仕組みは大きく異なる。今回はこの違いを整理していく。
複数のWi-Fiルーターで網目状の無線ネットワーク構築。
メッシュネットワークは複数台のWi-Fiルーターを配置し、網目(メッシュ)のような電波網を作る。一方、中継器はWi-Fiルーターと端末の間の途中経路に設置し、電波を中継して遠くまで届かせる。つまりメッシュネットワークの場合は、構成するWi-Fiルーターの台数が多いほど通信経路も増える。
メッシュネットワークは通信のスループットや信号強度、利用可能な帯域幅などの状況をそれぞれのWi-Fiルーターが把握し、それを元に経路を決めて通信する。3台以上のWi-Fiルーターでメッシュネットワークを構成している場合、1台に故障などの問題が発生しても迂回(うかい)して通信するため障害にも強い。また、1つの周波数帯でデータの送受信が同時にできるのもメッシュネットワークの特徴だ。中継器の場合、同じ周波数帯で中継をする場合はデータの送受信が同時にできないため、通信速度はメッシュネットワークよりも低くなる。
このメッシュネットワークでは、1台のWi-Fiルーターをコントローラー(親機)として設定し、ほかのWi-Fiルーターをエージェント(子機)として接続する。コントローラー、エージェントとも、メッシュネットワークに対応しているWi-Fiルーターが必要だ。現在売っている中位から上位クラスのWi-Fiルーターであれば、メッシュネットワークに対応する機種が多い。低価格帯のWi-Fiルーターの中には、メッシュネットワークに対応しない機種もある。
接続方法は機器によって異なるが、コントローラーに設定したWi-Fiルーターでメッシュネットワークを有効にして、エージェントに設定したWi-Fiルーターの設定画面からコントローラーに接続する仕組みだ。その際、WPSを使って設定画面を開くことなく接続し、簡単にメッシュネットワークを構築できる機種もある。
メッシュネットワークに対応した製品が登場した当初、構築できるのは同一メーカーで同一製品群という制限があった。その後「Wi-Fi EasyMesh」という統一規格が策定されており、それに対応する機器同士であればメーカーや製品を問わずメッシュネットワークを構築できる。
製品によっては、1つのパッケージに複数のWi-Fiルーターが同梱(どうこん)されたメッシュネットワーク向けのセット製品もある。その場合、最初から設定を済ませた状態で出荷されており、箱から出すだけで利用できるので面倒な設定は不要だ。メッシュネットワークは最低2台から環境を構築できるため、従来の中継器のような使い方もできる。
メッシュネットワークには弱点もある。複数台のWi-Fiルーターが必要になるため、導入コストが中継器と比べるとはるかに高いことだ。現在使っているWi-Fiルーターがメッシュネットワークに対応していなければ流用もできない。その場合Wi-Fiルーターの買い替えが必要となりさらにコストがかさむ。
安価だが別の弱点がある中継器。
中継器は、メッシュネットワーク対応のWi-Fiルーターより本体価格が安い。またWi-Fiルーターのメーカーや機種に関わらず接続できるため、機器の組み合わせで悩むこともない。つまり導入コストが低く、どのWi-Fiルーターとも組み合わせられるのが魅力である。
一方、ほかの部分で弱点がある。まず中継器は親機にぶら下がるようにしか接続できないため、通信経路は1つだけとなる。つまりメッシュネットワークよりも障害に弱いと言える。また先ほど述べた通り、中継器は同一周波数帯で送受信を同時にできない仕組みになっている。電波状況は良くなる一方で、中継器を介したために通信が遅くなる可能性があるのだ。それを補うため、5GHz帯と2.4GHz帯を併用し、送信と受信で周波数帯を分けて高速通信ができることを特徴とする中継器もある。
現在販売されている中継器のなかには、従来の中継器としての機能とは別に、メッシュネットワークに対応している機種もある。少々高価となるが、将来を見越してこうしたメッシュネットワーク対応の中継器を選ぶのもありだろう。
子機は追加設定不要で使い続けられる。
メッシュネットワークや中継器を導入しても、親機の設定を変えないのであれば子機に追加設定をする必要はない。メッシュネットワークのエージェントや中継器は、コントローラーや親機のESSIDや暗号キーをそのまま引き継ぐからだ。子機側に親機の接続設定があれば、何も設定せずにそのまま接続できる仕組みになっている。また子機は現在位置から電波状態の良いアクセスポイントに自動接続するため、親機と中継器の違いを特に意識することなく利用できる。
試しに、同じ場所でメッシュネットワークを介した通信速度と中継器を介した通信速度を比較してみたところ、メッシュネットワークのほうが2倍以上高速だった。ただ中継器も、端末を接続している場所の電波環境を良くしているため、親機との間に何も設置しない(なしの)ケースよりは高速という結果になった。この結果から、手軽に導入できるのは中継器だが、親機と子機が離れている環境での速度を重視するのであればメッシュネットワークを選ぶほうがいいと言えるだろう。