【疑問7】サポート終了の影響は?

【答え7】ユーザー企業は法改正に準拠した修正プログラムを得られなくなる。何の手立ても講じず既存バージョンを使い続けるのは難しい。

2027年を迎えて標準サポート期限が切れた場合、対象業務に関する法改正に準拠するためのシステム改修用プログラムが提供されなくなる。さらには、未知の不具合でシステム障害が発生しても、不具合を修正したり障害を復旧したりする支援をSAPからは得られなくなる。

日本でSAP製品を利用しているユーザー企業は2000社以上いるとされる。対象の業務は基幹系であることも手伝って、システム障害で業務が滞れば影響は甚大と言わざるを得ない。

【疑問8】ユーザー企業はどうすればいい?

【答え8】後継製品「S/4HANA」への移行を含め、何らかの決断を下す必要がある。

開発元であるSAPが推奨する選択肢が、後継製品「S/4HANA」だ。S/4HANAは同じくSAP製のインメモリーデータベースのHANAを採用したERPパッケージである。

ただしS/4HANAへの移行は単なるバージョンアップというより、別の製品の導入と捉えたほうがよい。データベースのアーキテクチャー変更など、新たな技術を大幅に取り入れているからだ。

移行方式は3つある。データやカスタマイズしたプログラムなど、既存システムの内容を原則としてそのままS/4HANAに移行する「Brown Field(ブラウンフィールド)」。コンバージョン方式とも呼ぶ。第2はS/4HANAを使った基幹システムを新規構築する「Green Field(グリーンフィールド)」。既存システムとは別に基幹システムをつくり直すため、リビルドとも呼ぶ。最後はユーザーが選んだ設定やデータだけをS/4HANAに移行する「Blue Field(ブルーフィールド)」だ。

企業はコンバージョンかリビルドかどちらかを採用する場合が多い。リビルドはS/4HANAの新機能を利用できるようになるが、作業工数や費用がかさみやすい。業務プロセスの見直しを伴うケースも多く、移行には数年かかるのが一般的だ。一方、コンバージョンは移行期間が比較的短く、現場の負担を減らすこともできる。ただS/4HANAに実装された新機能が利用しづらく、移行の価値を実感しづらい。

【疑問9】SAPジャパンはどういった支援策を打ち出している?

【答え9】クラウド版「S/4HANA Cloud」への移行を前提に、方法論や支援ツールの拡充を急ぐ。

SAPの日本法人であるSAPジャパンはSAP ERPユーザー企業の受け皿として、「S/4HANA Cloud」を推奨する。同社はS/4HANA Cloudに移行することで、ユーザー企業はバージョンアップの手間から解放される上に新機能をタイムリーに利用できるようになるとする。

SAPにとってはクラウド版により、継続的な収益が見込める。従来のオンプレミスで売り切り型のライセンス販売から、継続的に課金していくサブスクリプション型の収益モデルに転換を目指す。SAPジャパンによれば、S/4HANAの新規ユーザー企業の9割がクラウド版だ。

S/4HANA Cloudは複数のユーザー企業が共同利用する「パブリッククラウド版」と、ユーザー企業が占有する「プライベートクラウド版」がある。SAPジャパンによれば、既存ERP製品から移行する企業の圧倒的多数がプライベートクラウド版を選ぶという。SAPは共同利用型でより収益性の高いパブリッククラウド版を推す方針だ。

S/4HANA Cloudの拡販へ、SAPジャパンは2023年1月ごろに顧客の製品活用を支援するポストセールス業務の組織を設けた。従来は製品ごとに対応していたが、横断した組織を新設し、2027年問題の解決に対処する。「営業部隊と同規模以上にしていきたい」とSAPジャパンの稲垣利明バイスプレジデントEnterprise Cloud事業統括は今後の目標について語る。

製品と導入方法論や支援ツールのセット商品の拡販にも力を入れる。その1つが「RISE with SAP」だ。S/4HANA Cloudを中心に、移行ツールやアドオン開発プラットフォームなどから成る。

SAP2027年問題に関するIT業界全体の課題が人材不足の解消だ。タイムリミットが近づくにつれてS/4HANAへの移行プロジェクトが立て込み、エンジニアやコンサルタントといった人材の需給が逼迫する恐れがある。

SAPのパートナー企業でもある日本IBMは人材不足を解消するため、オフショアやニアショアの開発体制増強に注力する。海外ではフィリピン、国内では北海道、沖縄県、広島県などに拠点を開設。2023年9月には長野市に開設する予定で、ニアショアの人員は2倍以上に増やしていくことを目指している。2027年問題に関わる人材不足の解消の一助とする。

【疑問10】サポート終了後も使い続ける方法はないの?

【答え10】今まで通り使い続けたい場合は、「第三者保守」というサービスを利用する手段がある。

SAPが提供する保守サービスの代わりに、サポートを専業としているベンダーが提供する「第三者サポート」がある。主な企業は米リミニストリートの日本法人である日本リミニストリートだ。

システム障害発生時のサポート、法規制対応や不具合を修正するパッチの作成といったSAPが提供してきたサービスを、日本リミニストリートが代わって受け持つ。とりわけコストが安い点がメリットとして挙げられる。日本リミニストリートの場合、従来の保守料金と比べて50%程度の費用で保守サービスを提供しているという。

第三者保守を選ぶ上では、特有の検討事項がある。第三者保守ベンダーのサービス内容やサービスレベルはもちろん、事業の継続性やSAPとのライセンス契約との兼ね合いなどを調べ、問題なしと納得できた上で利用すべきだろう。