○ 実業家のイーロン・マスク氏が買収して以降、一部サービスの有料化やツイートの読み込み制限など、大きな混乱が続いているSNSの「Twitter」。2023年7月下旬にはTwitterの名称を「X」に変更することが発表されるなど一層の混乱が続いている。だが競合サービスも決め手を欠いている。今後、元Twitterとそのユーザーはどうなってしまうのだろうか。
サービスの有料化にかじ。
短い文章で思っていることをリアルタイムに投稿できるSNSとして、長年にわたり人気を獲得してきたTwitter。その特徴から独特のコミュニティーや文化を生み出した。現在では企業だけでなく自治体や官公庁までもがアカウントを持ち、情報発信に活用している。
そのTwitterを巡って、ここ最近混乱が続いている。そのきっかけとなったのは、マスク氏による2022年の買収劇だ。マスク氏はTwitterの熱心なユーザーの1人でもあっただけに、マスク氏の買収でTwitterがどう変化するのか注目されてきた。
だがマスク氏の買収以降、混乱を招くような出来事が相次ぎ、ユーザーの不安が高まっているというのが正直なところだろう。その代表例の1つがサービスの有料化だ。
今までTwitterは、ユーザーだけでなく開発者に対しても多くのサービスを無料で提供しており、それが人気を高める要因の1つになっていた。とりわけ開発者向けには、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を通じたツイートの取得など幅広い機能を無料で提供していた。このためTwitterクライアントや、ツイートを活用したサービスなどが多数登場しサービスを盛り上げていった。
しかしマスク氏による買収以降、そうしたサービスのいくつかが有料化された。2023年3月にはAPIの内容が大幅に変更され、無料で利用できるのはツイートの投稿などごく一部に制限されてしまった。その結果、多くのTwitterクライアントなどがサービス終了に追い込まれた。
マスク氏の買収以降、ユーザー向けの対応にも変化が見られる。その一例が有料サービス「Twitter Blue」ユーザーの優遇の拡大である。例えばTwitter Blueユーザーであれば基本的に誰にでも認証バッジが付与されるようになった。一方Twitter Blueユーザー以外には2023年7月21日、ダイレクトメッセージ(DM)を1日20件しか送れないといった制限が課せられた。
サービス名も「X」に変更、SNS色は薄れるか。
2023年7月初頭に発生したツイートの読み込み制限も混乱に拍車をかけた。事前の告知なく突然ツイートを読めなくなったため、多くのTwitterユーザーが困惑した。
騒動を受けてマスク氏は、読み込み制限はスクレイピング(Webサイト上の情報を機械的に取得する行為)対策のためで一時的なものと説明。その後徐々に制限は緩和されていった。だが事前告知なしの制限だったため、サービスの信頼性に対して多くのユーザーから疑問の声が上がった。
そして2023年7月24日、マスク氏はついにTwitterという名称そのものを「X」に変更することを明らかにした。同日中にTwitterのWebサイトから青い鳥のロゴが消え、「X」のロゴが表示されるようになった。この記事執筆時点ではTwitterという名称がまだ多くの箇所に残っているが、2023年7月末から8月初頭にかけてスマートフォンアプリの名称やロゴも順次「X」に変更されている。そう遠くないうちに、Twitterの名称もなくなっていくと考えられる。
実はTwitterという企業は既に存在していない。マスク氏らが設立したXという企業の一サービスという位置付けになっている。Twitterの名称を企業名と同じにすることで、マスク氏らが今後展開したいサービスの基盤にする考えなのだろう。
では、Xに名称が変わったTwitterは今後どうなっていくのだろうか。マスク氏に代わって同社の最高経営責任者(CEO)に就任したリンダ・ヤッカリーノ氏が2023年7月24日に投稿したツイートによると、Xはオーディオやビデオ、メッセージング、ペイメント/バンキングを中心に、アイデアや商品、サービス、そして機会を提供するマーケットプレイスをつくるとされている。
このツイートを額面通りに受け取るならば、Xに変わったTwitterは今後、コンテンツの提供や決済機能などを備えたマーケットプレイスへと変化し、よりビジネス色が強くなることが予想される。その一方でヤッカリーノ氏のツイートは、Twitterの軸となっているコミュニケーションについてあまり触れていないことが気になった。
決定打に欠ける競合サービス、ユーザーの悩みは続く。
多くの人にとってTwitterを利用する動機はコミュニケーションだ。従来のTwitterは収益性が高いとはいえなかったので、やや強引な形で有料化を進めるというのはまだ理解できる。だが突然のツイート読み込み制限のようにコミュニケーションの利便性を損ねてしまっては魅力が大幅に失われ、ユーザーは離れていってしまうだろう。
実際、コミュニケーションの軸を別のSNSに移す動きが最近広がっているようだ。そうした動きに合わせて、競合企業はTwitterの特徴を取り入れた「Twitterキラー」というべきサービスを相次いで投入している。
中でも注目を集めたのが、SNSの大手でもある米Meta Platforms(メタ)が2023年7月6日に提供を開始した「Threads」だ。Threadsは「Instagram」のアカウントで利用できるサービスということもあり、サービス開始から短期間のうちにユーザー数を拡大。2023年7月10日にはユーザー数が1億人に達するなど急成長を遂げている。
またショート動画投稿サービスの「TikTok」も2023年7月24日、テキストだけを投稿できる機能の提供を開始。従来対応していなかったテキストの投稿機能を取り入れることで、Twitterから流出するユーザーを取り込もうとしている様子がうかがえる。
とはいえ、それら競合サービスがTwitterと全く同じ機能を提供できているわけではない。例えばThreadsには当初、フォローしているユーザーの投稿だけを表示する機能がなかった。Twitterの基本的な機能といえるその機能が実装されたのは日本時間の2023年7月26日だった。
そして何より、Twitterは独自性の高いサービスを長く提供してきたおかげで独特のコミュニティーや文化を確立している。そのコミュニティーが競合サービスに丸ごと移るとは考えにくい。XとなったTwitterから本格的にユーザーを奪えるかというと、そこは未知数だ。
マスク氏がサービス内容を元のTwitterに戻すことはないだろう。Twitterを愛用してきた人たちには今、「Xとなったサービスを使い続けるか」「他のサービスに移るか」「SNSそのものをやめるか」といった選択が突きつけられている。それは個人だけでなく、情報発信にTwitterを活用してきた企業や官公庁などにも当てはまる。Twitterを巡る混乱は、今後より大きく広がることになりそうだ。