〇 「Wi-Fiセンシング」は、2025年3月に「IEEE 802.11bf」としてWi-Fi(無線LAN)の規格に盛り込まれる予定となっている新しい技術で、Wi-Fiの電波状況から人間や動物などの行動を取得する仕組みになっている。
Wi-Fiセンシングで取得した行動データをAI(人工知能)と組み合わせることで、さまざまなサービスで利用できると期待されている。今回はこのWi-Fiセンシングの特徴と、どのような用途で使えそうかを見ていく。
Wi-Fi電波が遮られたり反射したりすることを利用する。
Wi-Fiセンシングは、Wi-Fiの電波が人間や動物、金属といった物体に対し通りにくく反射しやすい性質を利用する。
Wi-Fiの電波は、物体によって弱まったり打ち消されたりする。金属やコンクリート、大理石、水には特に弱い。人間は水の割合が50~70%と多く、犬や猫といった一般的にペットで飼われる動物も、ほぼ同等の水分を持つ。そのため、人間やペットが途中経路にいると、Wi-Fiの電波は遮られてしまう。
Wi-Fiセンシングは、Wi-Fiルーターが発した電波が人物や物体、金属といった物体によって遮られたり、反射したりした電波の状況を取得することで、人間やペット、物体の動きや行動などをつかむことができる。
Wi-Fiセンシングは空間の変化を検出できる仕組みであるため、侵入者の検出にも利用可能だ。これは監視ではあるがカメラのように撮影はしないため、プライバシーは守られる。
既にある規格との違いは?
Wi-Fiには、Wi-Fi機器や電波によって位置を測定する規格として「Wi-Fi CERTIFIED Location」が既にある。
Wi-Fi CERTIFIED Locationは、Wi-FiルーターとWi-Fiで通信しているスマートフォンやスマートウォッチといった端末間の距離を、Wi-Fi電波の移動時間で測定できる仕組みである。機器間の距離を1メートル以内、状況によっては数十センチ単位の高い精度で測定できる。
ただし、Wi-Fi CERTIFIED Locationを利用するには、Wi-Fiの電波を受信できる子機があることが前提。もし、人間の行動を把握するために使うのであれば、スマートフォンやスマートウォッチを常に携帯しなければならない。
それに対してWi-Fiセンシングは、Wi-Fiの子機を必要としない点が違う。スマートフォンやスマートウォッチを持っていない高齢者や子供、ペットなどの行動監視にも活用しやすい。
Wi-Fiセンシングを使うには?
Wi-Fiセンシングが実用化するのはこれからだ。家庭内でWi-Fiセンシングを利用するには、Wi-Fiの電波を発し、電波状況を把握できる機器に、Wi-Fiセンシングの機能を盛り込むことになるだろう。上記の「機器」として、Wi-Fiルーターやテレビ、スマートスピーカーなどがその役割を担うとみられる。
Wi-Fiルーターやスマートスピーカーであれば設置も簡単だ。広い範囲で物体の動きや行動を監視するのであれば、Wi-Fiの電波を広範囲に届かせるためにそれなりの台数が必要にはなるが、Wi-Fiルーターやスマートスピーカーであれば導入コストも安価で済むだろう。
用途としては、スマートデバイスの制御や防犯、福祉用途の行動監視といったサービスが期待されている。例えば、スマートデバイスの制御に使ったとすると、Wi-Fiセンシングで特定の場所に人がいることを検知したら、その場所の電気を自動的に点灯するといったことが可能になる。
防犯用途だと、家に侵入者が入り込んでも、Wi-Fiセンシングによって人の気配を検出できるので早期発見につながる。福祉用途の場合は、人が倒れた、動かなくなったなどの行動をWi-Fiセンシングで検出できるので、不慮の事態にすばやく対応しやすくなる。監視カメラと違って、Wi-Fiの電波が届く範囲であれば行動が分からない場所は発生せず、常に監視している必要もない。
前述の通りWi-Fiセンシングの本格的な利用はまだ先となるが、日本国内では既にWi-Fiセンシングを利用したサービスのテストがいくつか実施されており、多くの利用者が満足または問題ないとしているというテスト結果もある。Wi-Fiセンシングは今から注目しておきたい技術だ。