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佐野正弘 が 斬る!ニュース な アプリ の 裏側。①

◯ 普及しない「5G」の法人ソリューション、企業が求めるのは高性能ではなかった。

 5G(第5世代移動通信システム)を活用した法人ソリューションの需要開拓が全く進んでいない。モバイル通信の需要は旺盛であるものの、高性能である5Gを有効活用する事例はとても少ない。

 なぜ企業は5Gに魅力を感じていないのだろうか。

企業の5G活用は今なおPoC止まり。

 5Gのサービス開始当初、法人向けソリューションの利用が大きく拡大すると期待されていた。高速大容量通信や低遅延といった5Gの高い性能を生かし、企業のデジタル化に向けたニーズが開拓されていくと予想され、多くの法人向けソリューションの事例や実証実験の様子などが披露されていた。

 だがそれから4年が経過してもなお、企業向けの5Gソリューションは普及が進んでいるとはとても言い難い状況が続いている。様々な取材を通じて話を聞いても、その大半は依然としてPoC(概念実証)や実証実験の段階にとどまっている。企業が全面的に5Gを取り入れて活用している事例はごくごく少数のようだ。

 一例を挙げよう。NTTドコモの子会社で法人事業を担っているNTTコミュニケーションズは2024年4月19日、新しい法人向けの5Gサービス「5Gワイド」の説明会を実施した。説明会では、同社が5G関連のビジネスソリューションを2000件以上受注したと明らかにした。

 だがその内容を聞くと、大規模な工場を建設した際に工場内や周辺に5Gのネットワークを構築したり、スポーツイベントなどで臨時の5Gエリアを構築したりした案件も、その件数に含まれるという。

NTTコミュニケーションズは5G関連のビジネスソリューションを2000件以上受注したというが、その中には工場のネットワーク整備なども含まれていた。写真は2024年4月19日に同社が実施した「5Gワイド」の説明会から
画1、NTTコミュニケーションズは5G関連のビジネスソリューションを2000件以上受注したというが、その中には工場のネットワーク整備なども含まれていた。写真は2024年4月19日に同社が実施した「5Gワイド」の説明会から。

 5Gの大容量通信を生かした電車内の監視カメラでの活用など、5Gのネットワークを活用した本格的なソリューションの事例もいくつか示していた。だがその数はあまり多くないようだった。実証実験から先の具体的なビジネスにはあまり進んでいないようだ。

 では、携帯電話会社以外が自営の5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」の活用はどうか。2024年5月29日から実施されていた無線技術やソリューションの展示会「ワイヤレスジャパン2024×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2024」で、ローカル5Gを扱うシステムインテグレーターや商社に話を聞いてみた。その回答は芳しくないというのが正直なところだった。

 各社の話で共通していたのは、PoCのためローカル5Gを導入するケースはいくつか出てきているものの、それ以上の導入拡大が進んでいないということだった。PoCの延長線上の取り組みとして、企業の一部でローカル5Gが使われ続けるケースはあるようだが、やはり本格的な拡大には至らず停滞が続いているようだ。

「ワイヤレスジャパン2024×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2024」の京セラみらいエンビジョンのブース。ローカル5Gのネットワークをブース内に構築するなど展示に力を入れていたが、実際の導入事例はまだPoC段階のものがほとんどとのことだった。写真は2024年5月29日、同ブースにて
画2、「ワイヤレスジャパン2024×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2024」の京セラみらいエンビジョンのブース。ローカル5Gのネットワークをブース内に構築するなど展示に力を入れていたが、実際の導入事例はまだPoC段階のものがほとんどとのことだった。写真は2024年5月29日、同ブースにて。

IoT向けモバイル回線のニーズは圧倒的に「安さ」。

 だからといって、企業がモバイル通信を必要としていないのかというとそうではない。活況を呈しているソリューションもある。4G(第4世代移動通信システム)をベースとしたIoT(Internet of Things)向けの通信サービスである。

 実際、IoT向けの通信サービスには携帯各社も力を入れている。KDDIは自社だけでなく、傘下のソラコムもMVNO(仮想移動体通信事業者)としてIoT向けの通信サービスを提供している。ソラコムは2023年に契約回線数が600万を突破し、2024年には上場を果たすなど順調な成長を遂げている。

 ソフトバンクも、ドイツ1NCEが提供するIoT向け通信サービスを販売するなどしてこの領域に力を入れている。NTTドコモも2024年6月4日、LTE通信で利用する新しいIoT向け料金プラン「ImoT」の提供を発表。4G通信の利用拡大に注力していることが分かる。

 IoT向け通信は小容量かつ低速でも対応可能で、最先端の通信技術が求められるわけではない。他のMVNOもこの領域にはかなり力を入れているようだ。その1社が、MVNO大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)である。

 同社が提供する個人向けモバイル通信事業「IIJmio」は、携帯大手との低価格競争の激化により伸びが不安定になっている。一方、法人向けのモバイル通信事業は、ネットワークカメラやGPS(全地球測位システム)デバイスなどでの利用で堅調な伸びが続いている。契約数だけでいえば、IIJmioの倍近い規模に達している。

IIJの2024年度決算説明会資料から。IoT向けを中心とした法人向けのモバイル回線契約数は235万と、個人向けとなるIIJmio(127.4万)と比べて倍近くに伸びている
画3、IIJの2024年度決算説明会資料から。IoT向けを中心とした法人向けのモバイル回線契約数は235万と、個人向けとなるIIJmio(127.4万)と比べて倍近くに伸びている。

 「mineo」ブランドでMVNOによるモバイル通信事業を展開するオプテージも、法人向けの事業開拓に力を入れ始めている。2024年5月末時点での法人契約回線数は18.9万と、間もなく20万回線に達する規模だという。当初はスマートフォンで活用するニーズが多かったが、IoTの市場拡大に伴いそちらの契約数が急増しているという。IoTでの利用が主とみられるデータ通信専用回線の契約が9割を占めているとのことだ。

オプテージが提供する「mineo」の法人契約数は1万社に上る。当初はスマートフォンの契約が多かったが、現在はIoT向けが非常に大きく伸びているという。写真は2024年6月3日のmineo10周年記念懇話会から
画4、オプテージが提供する「mineo」の法人契約数は1万社に上る。当初はスマートフォンの契約が多かったが、現在はIoT向けが非常に大きく伸びているという。写真は2024年6月3日のmineo10周年記念懇話会から。

 なぜ企業向けのIoTでは4Gのニーズが高いのか。様々な企業の話から見えてきたのは、コストである。企業はネットワークの性能より、圧倒的にコストの低さを求めているようだ。

 IoT機器は各種センサーなど通信量が少ないものが多い。通信速度も低速でよいので省電力であることの重要性が高い。通信に高い性能を求めないことが、通信やデバイスに対して低コストであることを強く求める要因となっていることは間違いない。現状、5Gが入り込む隙は「ほとんどない」という声が、取材を通して少なからず聞こえてきた。

5Gの現実を受け入れた施策が増加。

 ただ最近では、企業が活用するIoT機器の代表格ともいえるネットワークカメラの高精細化が進むなど、徐々に大容量通信が必要になってきていると感じる。いずれどこかのタイミングで5Gが必要になってくるだろう。

 そうした状況を考慮し、モバイル通信の標準化団体である「3GPP」が2022年に仕様策定を完了させた「Release 17」では、4GのIoT向け通信規格より高速ながらも省電力を実現できる、軽量版5Gというべき「RedCap」(Reduced Capability)という仕組みが導入された。

 だがRedCapを利用するには、ネットワークとデバイスの両方が対応する必要がある。また企業が求める低コストを実現するには、デバイスの低廉化が進まなければならない。かなりの時間を要することになるだろう。

 ではそれまでの間、どのような施策で企業に5Gネットワークを活用してもらおうとしているのか。各社の取り組みを見ると、既存の5Gネットワークの性能を最大限生かすことが大きなポイントとなるようだ。

 例えば先に触れたNTTコミュニケーションズの5Gワイドは、ネットワーク側の制御によって一般回線より多くの通信リソースを割り当て、企業が求める安定した通信を実現している。

 携帯各社の5Gネットワークは現状、5Gの性能をフルに発揮できるスタンドアローン運用への移行がほとんど進んでいない。ネットワークを仮想的に分割して用途に応じた専用線のような仕組みを提供し、通信の安定化を実現する技術「ネットワークスライシング」も活用できない。

 そこでNTTコミュニケーションズは5Gワイドの提供により、既存の5G環境の中で可能な限り、企業が求める安定した通信を実現して顧客開拓につなげようとしている。

NTTコミュニケーションズの「5Gワイド」は、ネットワークの制御により安定した通信を実現する。写真は2024年4月19日に同社が実施した「5Gワイド」の説明会から
画5、NTTコミュニケーションズの「5Gワイド」は、ネットワークの制御により安定した通信を実現する。写真は2024年4月19日に同社が実施した「5Gワイド」の説明会から。

 そしてもう1つ注目されるのが、無線機器メーカーのアイコムが提供する「IP50G」である。こちらは5Gのネットワークを通じて様々な機器をネットワークに接続する法人向けのゲートウエイデバイスである。こうしたデバイスとしては珍しくローカル5Gに対応せず、携帯大手の5Gネットワークを用いることが前提になっている。

 それ故IP50Gでは、スマホなどと同様に5Gの高速大容量通信しか利用できない。だが用途は多い。例えば、工場内にネットワークカメラを10台以上設置して通信するとなると、4Gでは対応できず5Gの大容量通信が必要になるという。こういった用途に向いている。

 5Gに過度な期待をせず「高速大容量通信が可能なモバイルネットワーク」と割り切ることで、ネットワークに詳しくない企業が工場などで手軽にネットワークを導入できるようにしている。これにより、販売を拡大しようとしていることが分かる。

アイコムの法人向け5Gゲートウエイ「IP50G」は、携帯電話会社の5Gを高速大容量通信ができるネットワークとして手軽に導入できるようにする。写真は2023年12月6日、アイコム社内にて撮影
画6、アイコムの法人向け5Gゲートウエイ「IP50G」は、携帯電話会社の5Gを高速大容量通信ができるネットワークとして手軽に導入できるようにする。写真は2023年12月6日、アイコム社内にて撮影。

 こうした各社の企業努力は今後も続けられるだろう。だが明確なユースケースが開拓できていない現状、5Gの法人活用は進展を見通すのが難しいというのが筆者の見方である。

 ただ一方で、ワイヤレスジャパン2024×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2024ではローカル5Gに関する講演に多くの人が集まるなど、依然5Gには高い関心が寄せられている。高い関心と現実的なニーズのギャップが埋まる日がいつ来るのか、その見極めは非常に難しい。


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