例の葉室麟の流れで立花宗茂・誾千代夫妻を描いた「無双の花」。
立花宗茂については前に海音寺潮五郎の短編「立花宗茂」を読んだけど、こちらは史伝作家らしく「本多忠勝とともに“無双”、日本の武士の双璧」とまで太閤に評された立花宗茂の関ヶ原以降の浮き沈みを淡々と描いた物語。立花家の家付き娘・誾千代の婿養子ながら太閤から柳川一国を与えられた戦国無双の武将。夫婦間も世評通りの険悪な関係として描かれていた。
ところが葉室の長編「無双の花」は、関ヶ原以降を描いてるのは海音寺の短編と同じだけど、こちらはまるで将来の大河ドラマ化を想定しているかのように誾千代がいい人化し、険悪だった二人の仲が軟化していく。「必ずや返り咲いて、誰にも負けぬ“無双の花”を咲かせてくださりませ」の言葉で送り出した誾千代に対し、17年後、誾千代すでに亡き柳川に帰り咲いた宗茂に「いまにして思えば、わしにとっての“無双の花”とはそなたのことであった」と言わしめる。朝鮮の役後の伏見屋敷時代には細川所縁の八千子を側室に迎え、さらに誾千代の晩年に縁の出来た姫君(著者の先祖なのかどうかは知らないけど、藤原北家勧修寺流の葉室家の姫ということになっている)が宗茂の晩年には宗茂の若い側室になって、結果宗茂ばかりがウハウハで終わっている。
海音寺版では「忿怒と落魄のうちに死んだ誾千代の怨恨のために、宗茂一代の間はなにごともなかったが、」「その後様々な怪異や厄災が立花家にはつづいたので、宗茂の孫鑑虎の時、侍講安東省庵のすすめによって云々」と、三柱神社の縁起で結んでいるのだけれど。
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無双の花 葉室麟著 文春文庫605円 |
立花宗茂 海音寺潮五郎著 人物文庫902円 |