PLEASE PLEASE ME(1963年)
発売日から2日遅れで届いた『ザ・ビートルズ BOX』。
届くまで知らなかった(気にしてもなかった)のだが、中身はなんと片観音・紙ジャケ仕様。
おまけに、もとからそうだったのかどうかは知らないが(なにせ初期のアルバムはパチモンで買ってるので)、ラベルはアナログ盤の復刻デザイン。
初版限定オマケのドキュメンタリー映像は、先日NHKで放送したBBC制作の『THE BEATLES IN THE STUDIO』(NHK版は『よみがえるビートルズ~THE BEATLES Reborn~』)と同様のものだった(ただし字幕は別もの)。
僕はいわゆるビートルズ世代ではなく(生まれはこのアルバムが発売された年)、聴き出したのはビートルズが解散してからなので、まともに聴き始めたのは中後期の曲から。
だから初期のアイドル時代の曲、特に『FOR SALE』あたりまではオリジナルじゃない曲(要するにカバー)も多いし、なんだか音楽的に幼稚に感じられて、長いこと真剣には聴いてなかった。
CDで揃えるときも、前述の通り初期のアルバムはパチモンの廉価盤でヨシとしたくらいだ。
もちろん、後の音楽性につながるような片鱗は窺えるし、当時メンバーはまだ20代前半。
スーパーアイドルとして年間アルバム2枚にシングル4枚(だっけ?)の契約、ステージにラジオ、TV出演をこなしていた頃の話である。
後期の作りこんだ音楽といっしょにしちゃ酷といものだけど、そんな訳で、リマスターされて発見したというよりは、ちゃんと聴いてみてようやく気づいた、ということの方が多かった。
さて、本題の『PLEASE PLEASE ME』。
'60年代にステレオで聴くなんて人はよっぽどのオーディオマニアだけだったそうで、レコードはモノラル、ステレオの両方がリリースされていたけど、ビートルズ自身もレコーディングの際にステレオミックスまでは聴いてなかったらしい。
これが、マニアがモノミックスを“正当”とする理由。
さらに、モノ盤とステレオ盤では違うテイクが使われることもあり、この違いがちゃんと言えないようではマニアとは言えない(僕は言えない)とされている。
当時はジョージ・マーティンですらステレオミキシングをテキトーにやってたみたいで、後年、ステレオ全盛となり、CDまで出る世の中になって、マーティン先生「しまっティン」と思った。
だから、全オリジナルアルバムを全世界統一フォーマットでCD化された際(ビートルズの現役時代、『SGT. PEPPER'S』までは米Capitolなどからタイトルは同じでも勝手に曲を削られたり入れ替えたりされたものが出されていた)、この『PLEASE PLEASE ME』から『FOR SALE』までの4枚は、モノラル盤で出しちゃったのだ(その後の『HELP』と『RUBBER SOUL』はステレオミックスをやり直した)。
今回ステレオ盤が出たことで、CDでモノとステレオの両方が聴き比べできるようになったのである(でもモノの旧盤は店頭から引き上げられちゃったのかな?)。
ただ、このアルバムに関して言えば、だいたい右からボーカル・コーラス、左から楽器といった大雑把な分かれ方しかしていない。
これは当時のテープが2トラックで、ジョージ・マーティンがモノミックスのときにボーカルが埋もれないようにと便宜上そうしたものが、まんまステレオになったようなものらしい。
「ライヴをスタジオで再現」という当初のコンセプト(というほどのものでもないが)からいえば、いっそのことポールの声とベースは左、ジョージの声とギターはやや左、リンゴの声とドラムスはやや右、ジョンの声とギターは右…といった具合にメンバーごとに配置すればよかったのにと思うのだが、ないものはない。そこまで戻れる訳もない。
それにしてものビートルズ。
もちろん、4人の才能やセンス、ハンブルグでの下積み時代の努力はあったんだけど、ワルガキどもをアイドルに仕立てたブライアン・エプスタイン、自分たちとは違う音楽世界をもっていたジョージ・マーティンとの出会いがなければ、こうもうまくはいかなかった。
僕にも才能とセンスはあったが、いかんせん、努力と出会いがなかったもんなあ(はいはい。相手にしないでね)。
時に、ジョンとリンゴが22歳、ポール20歳、ジョージ19歳の冬である。
01 I Saw Her Standing There
不思議なのは、兄貴分で、ビートルズ前半期を仕切っていたジョンが、なぜファーストアルバムのトップをポールに譲ったのか。クレジットも、このアルバムではLennon - McCartneyではなく、McCartney - Lennonである(CD TEXTのクレジットはジョンの曲はジョン、ポールの曲はポールと別々になっている)。ワンマンバンドではなくグループであることを強調したかったのか、兄貴分らしく寛容なところを見せたのか…。まあ、曲順に関しては、「ライヴ」というコンセプトであれば、中山康樹先生のおっしゃる通り、収録曲の中ではオープニングにいちばんふさわしい曲ではある。
リマスターで期待したことのひとつがポールのベース。セミアコでフラットワウンド(たぶん)のヘフナーの音はモコモコして他の楽器に埋もれがちだったのだが、だいぶ聴き取りやすくなったような気がする(もっとも、この曲はベースがキモなので、もとから聴き取りやすい方ではあったが)。ストレートだけどちょっと捻ったベースのリフは、実はチャック・ベリーの曲のパクリだそうな(まあ、リフをマネするのはよくあること。マネされるようなカッコいいリフってことで本望だけどね)。それにしても、よくまあこんなリフを弾きながら歌えるもんだと感心していたが、よく聴くとけっこう苦労してるのが分かる。
それと、演奏全体だけど、エンディングで最後の音が減衰しきらないうちに曲が切れるのは目立つようになってしまったかな。
ちなみにこの曲、ミックス段階まで「Seventeen」というつまらないタイトルがついていたらしい。また、昔の歌本には「その時、ハートは盗まれた」とかいう邦題がついてたと思うが、幸いジャケットにもライナーノーツにもそんなものは見当たらなかった。
02 Misery
他人に提供するために作ったせいか、カバーのような印象を受ける曲。贈られたヘレン・シャピロとかいう娘っコに「歌詞が暗いからイヤよ」と言われて憤慨したのか、妙に元気に歌っている。レコーディング当日、ジョンがひどい風邪をひいていたというのは有名な話で、リマスターで聴くと、なるほど風邪ひきさんの声だという気がするが、この曲ではポールのユニゾンがあまりにジョンの声に溶け込みすぎて、まるで鼻声のように聞こえてしまう。
03 Anna (Go To Him)
カバー曲で、オリジナルは甲斐バンド、もとい、アーサー・アレキサンダーとかいう偉大そうな名前のおっさん(知らん)。マニア的目線、いや耳線(?)で聴けば聴きどころは多いのかもしれないが、リマスターされても僕にはこの手のカバーはちょっと…。ビートルズなら何でもOKという訳ではござらん。
04 Chains
ジョージのボーカルで、オリジナルはクッキーズとかいうガールズグループ(知らん)。以下同文。
05 Boys
シュレルズとかいうガールズ・グループ(知らん)のカバーで、おまけにリンゴのボーカル。あまり好きではなかったのだが、よく聴くとリンゴがえらい気合い入れて歌っている(特に「あ″~」「お″~」のところ)。おまけに後ろではジョンとポールが叫び回ってる。意外と愉快な曲ではないか。
06 Ask Me Why
ジョンのオリジナルで2nd.シングル『Please Please Me』のB面だが、ビートルズには珍しい、いかにもB面な曲。僕にとっては、印象の薄いビートルズのオリジナル曲トップ3に入る。
07 Please Please Me
言うまでもなくビートルズ初のナンバーワンヒットとなった2nd.シングル(2nd.シングルで“初”!)で、モノとステレオでテイクが違う曲の代表格。今回、伝説の「ジョンが歌詞を間違って吹き出す」というのを初めて聴いた(具体的には1分28秒あたりでコーラスのポールは「ワイノー“ユー”」と歌っているのに、ジョンは“アイ”と歌ってしまい、サビの「カモン」で吹き出している)。まあ、吹き出してると言われる「カモン」の方は単なる歌い損ねのような気もするけど、それにしても、フツーならわざわざミステイクなテイクを使わんやろ。ビートルズがふてぶてしいのか、ジョージ・マーティンのイタズラなのか、それほどステレオ盤がどうでもいいものだったのか…。
あと、エンディングに向かって急に深くなっていくリバーブ、ありゃちょっと変じゃない?
08 Love Me Do
中山康樹先生が“駄曲凡演”と言い切る、ビートルズのデビューシングル。これとシングルB面の『P.S. I Love You』だけステレオのマスターが存在せず、ステレオ盤ながらモノで収録されている。まあ、“疑似ステレオ”なんてとんでもないことをされなくて、よかったよかった。
ジョージ・マーティンが急遽ピート・ベスト入れ替わったリンゴの腕を信頼せずにスタジオ・ミュージシャンのアンディ・ホワイトを起用(リンゴはタンバリンを演奏)した話は有名だが、実はシングルの初版はリンゴのバージョンが使われていたというから訳がわからん。訳の分からんことをするもんだから、「紛らわしいけん、リンゴのマスターは捨てとき」とか言って、間違って全部捨てちゃったんだろう。なお、このリンゴのバージョンは、後にレコードから起こすという荒技を使ってPAST MASTERS vol.1に収録されている。
ちなみに大半がポールのボーカルとなったのは、
ジョン「サビにハーモニカを入れようと思う」
ポール「おっ、いいねえ」
ジョン「でも、ハーモニカ吹きながら歌は歌えん。おまえ歌え」
ポール「え″~」
という経緯から。
09 P.S. I Love You
シングル『Love Me Do』のB面。もともとA面候補だったが、同名の曲がすでにあると判明した時点でB面に決定したのだとか。A面の『Love Me Do』よりははるかにイキでしゃれているが、いささかしゃれ過ぎてるので、リバプールのファンにとってはちっとはブルージーな『Love Me Do』でよかったのかも。
ボーカルにだんだんと絡まっていくコーラスも面白いが、今回、「アイ、ラッヴュ~」のところのジョンの低音コーラスに初めて気がついた。こんなのあったけ?と思ってモノを聴いてみたが、ちゃんと聴こえるではないか。
なお、ポールは後に、このシングルの両面を合体させた『P.S. Love Me Do』という曲をライヴで披露。来日記念の『フラワーズ・イン・ザ・ダート -スペシャル・パッケージ-』にはスタジオ録音されたものが入っている。
10 Baby It's You
これまたシュレルズのカバー。コーラスで「tit, tit…」(膣、もとい、おっぱい)と言ってると思ってたら、歌詞カードには「Cheat, Cheat…」(嘘つき)と書いてあった。これって『Girl』の話だっけ?
11 Do You Want to Know a Secret
ジョンにしては(?)こじゃれた曲。最初はビリーなんとかタコがどうしたいうグループに提供したが、やっぱビートルズでやろうと思い直した際も
ジョン「ちょっとコジャレた歌を作ってみた」
ジョージ「へえ、いいねえ」
ジョン「でも、こっぱずかしくて自分では歌えん。おまえ歌え」
ジョージ「げろげろ~」
ってな訳でジョージに歌わせている。
なんだか潜水艦で海の中にいるような深いエコーがかかっていてで、だんだん沈降していくかのように、エコーはさらに深くなっていく。途中から入るリンゴのスティックも効果的。
12 A Taste Of Honey
ミュージカル・ナンバーのカバーで、ポールの趣味。ジョンはこの曲を「A Waste Of Money」ともじっていたそうだが、まるでブルース・ブラザーズが『ロー・ハイド』をやってるような雰囲気だ。随所にドラムが共振している音が聴こえる。
13 There's A Place
ちょっと捻った展開で工夫してあるんだけど、曲が短いので、おやと思ってるうちに終わってしまう。ワンデイレコーディングで時間がなくて、はしょっちゃったのかな?
14 Twist and Shout
トップ・ノーツとかいうソウル・グループの曲(プロデュースはフィル・スペクター!)のカバー。この曲では、なぜか間奏のツインギターが左右から(といっても2本のギターが左右に分かれているのではなく、2本あわせて左右から、つまりギターだけセンター)で聴こえる。
まったくの余談だが、直訳カバーの「王様」が、ビートルズがカバーした曲のカバー集『カブトムシ外伝』というものを出していて(ビートルズの曲は英語以外のカバー不可というお約束があるらしい。じゃあ、金沢明子の『イエローサブマリン音頭』はどうなるんだ? 歌詞が全然別モノだからいいのかな?)、『Twist and Shout』は『ひねってワオ』。これをクルマで何度も聞かされていたウチの子どもたちは、先日の『Reborn』で本家の『Twist and Shout』が流れてくると、いっしょになって「ああ~、こしふり赤ちゃ~ん(こしふり!) ひねって、ワ~オ(ひねって、ワオ)♪」と歌っていた。困ったもんである。
(つづく)
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