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雑感録

これもビートルズだ! その5『HELP!』

 
HELP!(1965年)

『FOR SALE』までの4枚は、当初ジョージ・マーティンですらステレオミックスをテキトーにしかやっておらず、'89年の全タイトルCD化の際も、もはやミックスのやり直しも不可能だったため、「こんなステレオミックスをCDで出されては私の名が廃る」と、モノでしかCD化されなかった(結局リマスターでテキトーな仕事がばれちゃった訳だが)。
続く『HELP!』『RUBBER SOUL』もまだテキトーなミックスではあったが、幸いこちらはレコーディングテープが残されていたため、マーティン先生、慌ててミックスをやり直したらしい。
今回のステレオ盤リマスターは、このときのリミックスが基になっているそうな。
しかし! なんかこのリマスター盤、まるで銭湯で聞いてるような気がするのは僕だけだろうか。
特に前半の方、リバーブは例によって深めに聴こえるんだけど、なんか音が湯気に遮られてるか吸収されてるかのような、もわもわした感じがする。
でも、クルマで聴くとそれほど気にならないし、奥行きがあっていい感じなんだよなあ。ヘッドフォンがへたってきたのかな?

映画の方は前作『A HARD DAY'S NIGHT』と同じ監督とは思えないしょーもないアイドルコメディでかつ『Mr.ビーン』にありそうな(観たことないけど)“英国風”くだらないコメディで、ビートルズ本人たちも乗り気ではなかったらしいが、自分たちの好きなところでロケしていいという条件を取り付けて、バハマやアルプスで「わーいわーい」とはしゃぎまわっている。
さらに当時はボブ・ディランの影響でメンバーみんなマリファナにはまっていて、撮影中はだいたいラリってたのだとか。
まあ、映画としてはトホホだが、音楽シーンはカッコイイので、それだけでも見る価値はある。
おまけに当時の人たちには画期的な“総天然色”だったのである。
よく『MAGICAL MYSTRY TOUR』がMTVの先駆として挙げられるが、『HELP!』の音楽シーンも十分その先駆けと言ってよろしいかと思う。

アルバムの方に話を戻すと、今回特徴的なのは、『You've Got to Hide Your Love Away』のフルート、『Yesterday』の弦楽四重奏と、初めてビートルズとジョージ・マーティン以外の外部ミュージシャンを起用。
また、ポールがリードギターを弾いたりみんなでピアノを弾いたりと、必ずしもバンド本来の構成にこだわっていないこと。
つまり、この頃からコンサートで演奏することにとらわれない、自由な曲づくりを始めたということではなかろうか。
意図していたかどうかは知らないが、ビートルズはアイドルから脱却しようとしていた。
(幸いなことに、これまた耳にしたことのない「4人はアイドル」という邦題は、リマスター盤から消えているではないか)
わざわざ線を引く必要はないのだが、このアルバムをもってビートルズの“初期”は終わりとなる。
疑問なのは、なぜまだカバーを入れたのか?
しかもたった2曲なんなら、全曲オリジナルにすることも不可能ではなかったと思うのだが。
リンゴの『Act Naturally』については、くそ忙しいのにわざわざリンゴのために曲を作りたくなかったといわれても不思議ではないが、実は『If You've Got Trouble』というLennon-McCartney作品をレコーディングしていたにも関わらず、いくらリンゴ用の曲にしてもひどすぎてボツになったというオチ。
『Dizzy Miss Lizzy』は、この時期アメリカ用に『Bad Boy』とともにレコーディングされたもの。『If You've Got Trouble』に続いて、ポール作と思われる『That Means a Lot』もボツになり、『Wait』も放棄したため、さすがに曲数が足らなくなってこのアルバムにも収録されたということなんだろうか。
それにしても、わざわざアルバムのラストに持ってこんでもよかったろうにと思うのだが、あらためて考えてみると、全曲オリジナルの『A HARD DAY'S NIGHT』を除けば、過去3作はすべてラストはカバーなんだよね。
LPの内側は針の接触速度が遅いので、いい曲はあまり持ってこないとも言うけど、念のため過去3作のA面ラストを見てみると、既発曲、カバー、カバーとなっている。
ちなみにこの時期、シングルでは、『Ticket to Ride』をリリース。
偶然だろうと意図的だろうとそんなことどっちでもいいじゃんのフィードバックを取り入れたことで有名なA面は映画で使われたのでアルバムにも収録。
タイトルナンバーもアルバムに先行してシングルが出されたが、どちらもB面の『Yes It Is』『I'm Down』はアルバムには収録されなかった。
既発シングルB面曲で曲数を補おうとまでは考えなかったのだろう。

01 Help!
これがメッセージソングだどうだとかいう話はどうでもいい。イントロなしのいきなりの“Help!”といい、テロリラタラリラのギターといい、自然にキャッチーなメロディといい、追いかけっこのようなコーラスといい、ちょっと捻ったエンディングといい、初期ビートルズの魅力を集約したような1曲ではないか。モノラル盤はタンバリンが入っていないらしいが、聴いた記憶がない。というか、あの裏打ちタンバリンも『Help!』のシンボルのひとつ。僕もときどき友だちとこの曲のマネをしたが、いくらヘタクソな演奏でも、あのタンバリンを入れればそれなりに聴こえてくるというキモ的な要素だと思う。

02 Night Before
ポールのやっつけのような曲。ノリと、ポールの凄みをきかせたボーカルがすべて。おまけで、4トラックにピンポンを加えた録音技術を生かして、ポールはダブルトラックのボーカルとベースに加え、リード・ギターも担当している(ジョージの演奏をボツにしてまで)。もともとポールはギター志望で、ベースを担当したのは当初のベース担当であるスチュアート・サトクリフがバンドをやめたため、止むなくベースを引き受けたまでのことではあるのだが(スチュとて急造ベーシストで、ヘタなのがばれないよう後ろを向いて弾いてるくらいなんだけど)。ちなみに使用したギターは名器Epiphone Casino。Epiphoneのギターはビートルズではブームだったようだ(関係ないけど僕のベースはEpiphone New Portだ)。

03 You've Got to Hide Your Love Away
『悲しみをぶっとばせ』という、つけたヤツをぶっとばしたくなるような邦題付き。まあ、ディラン風といえばそういうことになるのかな。本人(ジョン)もそう言ってるらしいし。「愛は隠さなければならない」って言葉はディランが言ってたとか言ってないとか、何かでそんなことを読んだような気もするけど、まあ、どうでもいいや。

04 I Need You
ジョージ自作曲2曲目でいきなり開花。なんちゃないけど、けっこうシャレてるじゃないですか。さりげないコーラスも素敵だし、「ア、ジャス・キャン・ゴ、オ・エ・ニ、モー」の3連もイカしてるよ。ちなみに既発シングルのB面『Yes It Is』と同様のボリュームペダルを使ったギターは、実は同じ日にレコーディングされたもの。

05 Another Girl
02同様、ポールのやっつけで、腰クネクネのリードギターも披露。しかし、本人は意外とこの曲を気に入っていたらしいコメントが残されている。Cメロの工夫しましたって感じの展開がよかったのかな。

06 You're Going To Lose That Girl
『恋のアドバイス』という邦題はまあ置いといて(気持ちは分からんでもない)、タイトルナンバーと並ぶ、このアルバムのハイライト。たたみかけるようなコーラスも転調転調の息をもつかせぬ展開もいい。リンゴのボンゴ(語呂合わせじゃないよ)も効いている(途中、ガンバレ!と言いたくなるところもあるが)。何より映画でタバコを吹かしながら演奏するリンゴがカッコイイ!

07 Ticket to Ride
言うまでもないけど『涙の乗車券』。基本はジョンの曲でジョン曰く「初期のヘヴィメタル」らしいが、ポールが考えた(自称)というドラムパターンにルートで引っぱるベース(エンディングはオクターブ絡み)、それにコーラスと、ポールの貢献度高し。ジョンのボーカルも相当気合い入ってるけどね。

08 Act Naturally
バック・オーウェンズとかいうカントリーシンガー(知らん)のカバーで、映画の主役・リンゴが歌うということでのベタな選曲。
ジョン「リンゴ、すまん。『If You've Got Trouble』はボツだ。代わりにカバーを歌え』
リンゴ「いいよお」
ジョン「そういう訳でポール、おまえフォローしてやれ」
ポール「え″~」
という訳で、ポールがやけにがんばってコーラスをつけている。

09 It' s Only Love
ジョン曰く「歌詞が気に入らない」だそうだが、英語の分からない僕でもそう思う。アコースティックも含め各ギターがやけにクリアに聴こえるが、よく聴くとジョージ(?)、とちったのをごまかしながらやってねえか? あと、このアルバム、タンバリンの使用率高いけど、どれもいい味出してるなあ。

10 You Like Me Too Much
おっとお、ジョージ、調子に乗って2曲目を披露。しかし『I Need You』はやっぱまぐれだったのか? 調子に乗りついでに、ジョージはピアノも演奏。
ジョン「この曲でピアノ弾きたい人』
ジョージ、ポール、マーティン先生「は~い」
ジョン「じゃあ、みんなで弾け。オレだけエレピ弾くから」
ジョージ、ポール、マーティン先生「ずる~い」
という訳で、ポールもジョージ・マーティンもピアノを弾いてるそうだが、そこまでピアノが多いようには聴こえないんですけど。交代で弾いたのかな? ジョンのエレピはいい味出してて得役。

11 Tell Me What You See
またまたまたポールのやっつけ。やっつけ過ぎて本人の記憶にも残ってないほどだとか。わざとリズムをずらしたような歌い方がミソといえばショウユかな。今回初めて気づいたけど、拍子木と「ぎいぃっ」てこするいうアレ(何ていう楽器だっけ?)が効果的に入ってるぞ。

12 I've Just Seen a Face
出た~! ポールの醍醐味のひとつ、“小品”(掌品)。その中でもけっこう特殊な例だけど、片鱗をうかがわせるには十分な名曲。「アイジャスシーンナフェイサイキャ~ンフォーゲッダタ~イムオープレイスウェーウィジャ~スメッシージャスタガーフォーミーアナイウォンノーダーワートゥシーウィ~メッ!」って、我慢大会か!? 3台のアコースティックギターはポール、ジョン、ジョージ。今回パーカッションではマラカスががんばっている。当然この曲はお気に入りなんだろう、ポールは後に『UNPLUGGED』でも取り上げている。ちなみに『夢の人』ってのは、ウイングスの『夢の旅人』とこんがらがりそうなのでやめてください(まあ、こっちが先だけど)。

13 Yesterday
ファンならずとも知っている、少なくとも聞いたことない人はいない耳タコの名曲。それも元々は単なるアルバム中の1曲だったのである。もはやファンとしては口に出すのも気恥ずかしい曲で、こっちがビートルズファンだからと相手が気を使ってコレしか知らない『イエスタデイ』を話題にあげたりすると、殴り倒してやろうかという感情を必死に抑えなくてはならなくなるから困りものだ。しかし、客観的に見れば、確かにいいものはいい。このあと盛んにストリングスやオーケストラを取り入れアレンジ的にはどんどん洗練されたものになっていくが、ここでは初めてのトライだからこそのぎこちなさと瑞々しさが感じられて微笑ましい(何をエラソーに!)。
ポール以外のメンバーはレコーディング不参加。ポール自身ロックバンドには不似合いな曲と思ってたらしく、当然ライヴは想定してなかった思われるが、意外にも(?)人気曲になってしまった。ライヴではジョージが「リバプールのポールが凄い曲を書きました~」とかなんとか言ってジョンとともに下がっていき、ポール一人で演っていた。
ついでに言えば、ビートルズのコンサートは頭から最後まで観客の狂騒で埋め尽くされていたが、日本公演ではこの曲が始まるとピタリと静かになり、日本のファンは曲を聴く姿勢があると好感をもたれたらしい。

14 Dizzy Miss Lizzy
前述の通り、ラリー・ウィリアムズとかいうテニスの女王みたいな名前のメリケンロッカー(知らん)のカバー。全編鳴り止まぬリンゴのシンバル。ミミミミイミミミ~ンのギターは途中で恐る恐るになったりとちったり。ず~っと同じことやってたら途中でなんだか不安になるその気持ち、分かる分かる(笑)。ちなみにビートルズがカバー曲を取り上げるのは、特例を除いてこれが最後となる。めでたしめでたし。

つづく
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