青城澄作品集

詩人あおきすむの書いたメルヘンや物語をまとめます。

2024-12-27 03:29:36 | 月の世の物語

「まさか、こんなに早く、地球に戻ってくるとは思わなかったな」金髪の少年が言いました。「そうか、君は最近死んだばかりだったね」黒髪を長く伸ばした少年が、彼の横で腕を組みながら、目の前の池を見下ろしていました。ここはある山の中にある、小さな池の前でした。

「すんごく汚れてる。これをふたりで浄化しなくちゃいけないのか」黒髪の少年が鼻をつまみながら言いました。「中に、箪笥かなんか沈んでるね」「冷蔵庫だよ。きっと地球(ここ)の人間が捨てていったんだ」金髪の少年は頭をかきながら、どうすべきかしばし考えていました。

黒髪の少年は、周りの山を見回しました。木々の隙間から、池から少し上の方に、人間が造ったアスファルトの道が見えました。彼はふっと息を吐きつつ、少し口の傍をゆがめて言いました。
「昔ここは、すごくきれいな池で、白蛇の精霊が棲んでたんだ。その精霊が、ここらへんの山の天然システムを、みんな管理していたんだよ。でも人間が勝手に山を切り開いて、道を造ったりしたもんだから、池が汚れて、精霊は帰ってしまったんだ」金髪の少年はそれを受け、「うん、今だから言うけど、僕は生きてたとき、山に開いたトンネルを車で走ると、何だかいつも悲しい気持ちがしてた。すごく自分が罪深いような気がしてた」と、言いました。

「生きてても、僕らはやっぱり何か感じるんだね」黒髪の少年が言うと、金髪の少年はこくりとうなずき、「でも、どうやって浄化する?あの冷蔵庫とか、ほかのゴミとか、みんな掃除しなくちゃいけないよ。できないことはないけど、ここは人里に近いから、ここの人間にばれてしまうかもしれない」と、言いました。黒髪の少年はきっぱりと言いました。「なに、結界の魔法と、幻の魔法を組み合わせればいい。そしたら人間は簡単に近づいて来れないし、一見ここはとても汚れた池に見える」金髪の少年は口笛を吹き、「相変わらず、頭だけはいいね」と言いました。黒髪の少年は、なんだよそれは、と言い、金髪の少年の頭を小突きました。

黒髪の少年は呪文を唱え、先ず池の中にある冷蔵庫を取り出し、それを池の傍にどんと置きました。「ちょっと待てよ、このゴミはどうする?」金髪の少年が言うと、黒髪の少年は軽々と言いました。「日照界の浄化所に持ってけばいい。あそこなら物質界のものでも処理できる」「あそこは許可証がいるだろう? 事実上、地球上から物質を消してしまうことになるから、ものによっちゃ天然システムのバランスが……」と、金髪の少年が言いかけたとき、木々の間を何か四角い光るものが燕のように飛んできて、彼の指の間に挟まりました。

「何?」と黒髪の少年が聞くと、金髪の少年は、指に挟まった小さな紙を黒髪の彼に見せ、目を丸くして、言いました。「浄化所の許可証だ。しかも聖者様のサイン入り」。
黒髪の少年は、「わお」と言いました。

「よおし、じゃあ遠慮なくやるか!」黒髪の少年は力こぶをつくるように腕を曲げました。「オッケーイ!」と金髪の少年は答え、早速池の中のゴミをさらい始めました。

全ては夜のうちに、行われていました。彼らは池の中のゴミをすべてさらい、一緒に呪文を唱えて、許可証を添えてそれらを日照界の浄化所に送りました。ゴミの山は一瞬で消えましたが、ふたりは相当疲れた気がして、どちらかが長いため息を吐きました。
「邪気があるね。何だろう?」金髪の少年が顔をゆがめて言うと、黒髪の少年は最近覚えた魔法を使い、指で宙に眼鏡のようなものを描いて、それを透き見ました。「ああ、わかった。この近くで最近悪いことをしたやつがいる」「へえ?わかるの?」「うん、ゴミを捨てたんじゃない、とても汚いものを捨てたんだ」「何?それ」「愛の屍だよ。ここらへんで、どっかの男が女性の愛を裏切ったんだ。それで女性がこの池に心を捨てたんだよ」黒髪の少年は眼鏡を消し、ため息をつきました。そして何も言わずにふたりは顔を向けあい、よし、と同時に声をかけ、ふたりで同じ呪文を唱え始めました。最初彼らはかなり強い邪気の反発を感じました。瞬間、心の破れた女性の泣き顔が見えました。黒髪の少年は愛と慰めの呪文に切り替え、金髪の少年も続きました。

ふたりは汗をかきつつ、なんとか邪気を浄化に導き、その残り香を吹き消しました。はあ、と金髪の少年が、息をつき、背を丸めて膝をつかみました。「久しぶりの魔法だからね、君は疲れるだろう。あとは僕がやるよ」黒髪の少年も少し息を激しくしながら言いました。金髪の少年は前を見てきっと目を見開きました。「いや、僕もやる。これくらいできなかったら、僕じゃない」彼は光る金髪を風に踊らせて、言いました。

池の浄化には、ふたりでやって、二晩かかりました。


 
 
 
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