具体的にいうと、本書の冒頭では日本仏教の各宗派について、その沿革や教義などを紹介しているのだが、宗派の数は12宗派となっている。出てくる順番で宗派名を挙げていくと「法相宗・華厳宗・天台宗・真言宗・融通念仏宗・浄土宗・臨済宗・曹洞宗・黄檗宗・浄土真宗・日蓮宗・時宗」となっている。
以前【日本の仏教は八宗?十宗?十二宗?十三宗?】などという記事にもした通り、明治時代の一時期には「十三宗」という数え方もあったとされるのだが、その場合、本書では1宗派が欠落している。具体的には「律宗」である。
そこで、本書に於ける宗派の数え方について、その見解を見ておくこととしたい。
(七)問、日本現在の宗派如何
答、時に依て盛衰存亡あり、現在の宗派を挙ぐれば、十二宗三十派なり、
『仏教事物問答五百題』10頁
以上である。どうも、十二宗で全く問題が無いように論じている。そこで、何故、律宗が無いのかを調べてみると、非常に単純な理由であった。
明治初頭より真言宗の所轄に編入されていた唐招提寺は、明治33年(1900)8月9日、再び律宗としての独立を果たします。
一般財団法人律宗戒学院
以上の通りで、どうも、律宗は真言宗に編入されており、本書が刊行された明治31年はまだ、宗派として独立していなかった、ということのようである。なお、奈良西大寺を総本山とする真言律宗も、やはり真言宗に編入されていたが、こちらは明治28年に独立を果たしている。ただし、本書では真言律宗についても言及していない。
ということで、これらから、本書の立場について理解出来たのと同時に、そのため、本書には律関係の記載がやたらと少ないという弊害をもたらしているとも感じた。
例えば、日本仏教略史のような記述もあるのだが、鑑真和上来日について論じておらず、当然に戒壇の設置などにも配慮されていない。一部では、作法や服制などに関連して『律蔵』からの引用は見られるものの、決して多くは無いのである。しかも、仏事についてかなりの記事を書いているにも関わらず、『律蔵』への言及がほとんど無いというのは、かなりの問題で、中国以東の註釈書であるとか、他の引用物からの孫引きが目立つとも言える。
つまり、律宗への言及が無く、その研究がされていないが故の弊害、要するに日本仏教に於ける戒律軽視ということと平行的な見解だとも思われたのである。これこそが、当方が本書に感じた違和感であった。そして、もし、明治33年以降、律宗が独立した後であれば、本書の編者である安藤師は、同宗派を加えて編集されただろうか?それを期待したいと思うとともに、本書がこっそり参照している大内青巒居士『釈門事物紀原』(鴻盟社・明治16年)だと、律宗が独立していなかった時代にも、しっかり鑑真和上のことを記しているので、ここまでいうと、やはり戒律に対する立場の相違があると見なくてはならないように思う。
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