つらつら日暮らし

今は「禁煙週間」とのこと(令和5年度版)

先日、県庁前を通過していた時のこと、大きく「世界禁煙デー」と「禁煙週間」についての掲示があった。そこで、ちょっと調べてみた。

2023年世界禁煙デーについて(厚生労働省)

以上のリンク先の通りなのだが、1970年に世界保健機関(WHO)が「たばこ対策に関する初めての世界保健総会決議」を行って、その後、1989年には5月31日を「世界禁煙デー」と定めて、たばこ対策を講じてきたという。その上で、日本の厚生労働省では1992年から、「世界禁煙デー」に始まる1週間を「禁煙週間」(5月31日から6月6日まで)として定めたそうである。

よって、「世界禁煙デー」は終わってしまったが、まだ「禁煙週間」なので、関連する記事を書いておこうという話である。実は、江戸時代の或る仏教文献を勉強していた際に、たばこについての苦言が呈されていたので、それを学んでみたいと思ったのである。前提として、戦国時代くらいから、いわゆる南蛮船によって日本にたばこが入ってきたらしく、それ以降、あっという間に嗜好品としての地位を確立したという。

江戸時代には仏教寺院の中でも、僧侶の喫煙が行われると同時に、問題視する学僧が出始め、喫煙を批判する文章などが書かれるようになった。今日はその1つを見ておきたいと思う。

世に愚昧の輩ありて云、多婆古は梵網の五辛の内に入らず、仍て飲用して苦しからずと。公然として自ら用ひ、又人に教へて用ひしむ。五辛の内に一切の葷辛の類を摂ることを知らず。猥りに仏制を犯す、寔に悲むべし。
    諦忍妙竜律師『梵網経要解』巻5「食五辛戒第四〈七衆同犯、大小同制〉」項


こちらは、江戸時代の真言律系の諦忍妙竜律師による『梵網経』への註釈書から引用したものだが、多婆古(たばこ)について、同時代の僧侶の中で、飲用(喫煙)に対し、仏制には当たらないから問題無い、という見解を弄した者がいたため、それを批判したのであった。なお、この文章は『梵網経』巻下の「四十八軽戒」の一である「食五辛戒第四」への註釈であるが、元々の戒の条文は以下の通りである。

なんじ仏子、五辛を食することを得ざれ。大蒜と革葱と慈葱と蘭葱と興渠となり。この五種、一切の食の中に食することを得ざれ。もし、故(ことさら)に食すれば、軽垢罪を犯す。
    『梵網経』「第四食五辛戒」


上記の通り、本来の「五辛」は、明確に5つの項目を挙げて論じられるものだが、諦忍律師はこの解釈を拡大し、いわゆる臭いの強いもの全般を禁止対象と見ているのである。現代的な観点では、受動喫煙問題などで、禁煙を促すところ、当時は臭いの問題として扱われた場合があったのである(他の宗派での喫煙批判の場合、たばこにかかる費用や、火事の増加などを理由にすることもある)。

しかし、ここには、仏教寺院の中にいつの間にか入ってしまっていたたばこや喫煙者を、何とかして駆逐したいと願う学僧の切なる思いが見られる気がするのである。

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