つらつら日暮らし

江戸時代の在家葬儀法の一例を学ぶ

以前から、江戸時代の学僧・面山瑞方禅師『施餓鬼作法』の、『続曹洞宗全書』「清規」巻に収録された本の詳しい名称が、『改正施餓鬼作法 甘露門 在家葬式法』であることが気になっていた。特に、「在家葬式法」と出ていることについては、具体的な式の内容に興味があったのだが、『続曹洞宗全書』所収本には、その部分が見えないのである。

しかし、明治期以降に刊行された同書(原大泉編、森江佐七出版、明治24年)に、その部分が見えるようなので、簡単に内容を検討しておきたい。

 ○在家葬式
○入棺諷経 大悲咒一辺
〈回向文は略す〉
○龕前念誦
〈念誦文は略す〉終わって十仏名
○回向
〈回向文は略す〉
○挙棺念誦
〈念誦文は略す〉終わって十仏名・大悲咒・出棺
○山頭念誦 霊棺三匝中は『大宝楼閣善住秘密根本陀羅尼』、終わって秉炬・度钁法語
〈念誦文は略す〉終わって十仏名
〈回向文は略す〉終わって楞厳呪か大悲呪
〈回向文は略す〉
○安位諷経


以上である。ここで指摘されている「回向文・念誦文」は、ほぼ現在通用の内容と同じであって、結果としてこの頃から明らかに在家葬式法については定式が、刊行物上に存在したことが分かる。しかし、今の方法と違うところは、現在は「入棺諷経」などを「内諷経」といい、そこに亡き人への「授菩薩戒」が含まれるものであるが、その部分は見えない。ただし、本来その部分は室内作法に属するところであって、斯様な文献で公開されるものではないのかもしれない(別の御老師の文献に、そのことを指摘する文脈を確認している)。

しかし、これが、来馬琢道老師『禅門宝鑑』(鴻盟社・明治44年)になると少し様相が異なっていて、以下の通りに指摘されることになる。

【授戒入棺】気絶え煙尽くれば寺に告げて一僧を請す。其家にては湯を沸し、浴亡し、僧は赴いて浄髮し、法名を与へ、三帰五戒を授く。其法は、「得度儀規」に示すが如し。
    『禅門宝鑑』「在家葬法」項・698頁


このように、入棺の時に際して、授戒を行うように示している。しかも、順番としては、「浄髮・安名・授戒」の順番である。来馬老師は、「得度儀規」との関係を指摘しているが、授ける戒が「三帰五戒」のみとなると、具体的にどの本を指しているのかは分からない。『禅門宝鑑』にも、「得度式作法」が見えるけれども、「浄髮」「安名」は共通するが、戒本が「三帰・三聚浄戒・沙弥十戒・十重禁戒」とあって、「在家葬法」と合わない。

よって、「得度儀規」に示すというのは、作法の全体を指していると思われ、具体的な戒本を指しているのではないのだろう、という推論のみ申し上げておきたい。

ところで、話を面山禅師の同本に戻すけれども、当方の手元にある『甘露門』版本を見ると、『続曹全』に収録されているものとは、各偈文や陀羅尼の名称が異なっている。そうなると、明治時代に改変があったと理解出来るのだが、その辺の詳細は【甘露門―つらつら日暮らしWiki】をご覧いただきたい。

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