上堂。
火雲天を蒸し暑威烈烈たり。
嘉州の大像通身に汗流る。
陜府の鉄牛苦熱に喘ぎ、
別別の富士山頭長雪有り、
払を撃ちて下座す。
『夢窓正覚心宗普済国師語録』巻上
こちらは、南北朝期から室町期にかけて活躍した夢窓疎石国師(1275~1351)の語録から引用してみた。意味としては、火雲(夕焼け雲)が天を蒸し上げ、その暑さは非常に激しい。そのため、嘉州(現在の四川省)にある大仏は、その暑さで全身に汗が流れ、陜府(河南省)に置かれた鉄牛も、その暑さに喘いでいる。
しかし、富士山の山頂には多くの雪があり、何とも涼しそうでは無いか、というと、払子を禅床に撃ち、法座を下りられた。
だいたい以上のような意味である。おそらくは、まだギリギリ雪が山頂部にある富士山と夕焼けの様子を対比的に述べた上堂であると思われる。なお、語録の掲載順からすれば、時期的には端午よりも後で、中夏上堂よりも後なので、6月に入ったくらいでの上堂だったことになる。
富士山の山頂だが、旧暦6月(現在の7月)は、一年でもっとも雪が少ない時期でもある。よって、ここで夢窓国師が上記のように仰ったのは、実際にその年、かなり冷え込んでいたのか、或いは、夏場の暑さと、富士山の冠雪のイメージとをもって、対比を際立たせたか、の何れかであろう。
なお、いうまでもないが、夢窓国師の時代はまだ、富士山に宝永火口が存在しないので、ちょっとだけイメージが違っていたことだろう。
#仏教
最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2016年
人気記事