つらつら日暮らし

摩訶迦葉尊者の自誓受戒について

以前、何かの文献を読んでいたときに、摩訶迦葉尊者が自誓受戒だった、というような記述を見たことをあったのだが、あれは中国成立の文献だったかな?いや、どうだったかな?と気になったので、簡単に調べてみた。

長老摩訶迦葉、自誓し即ち具足戒を得る。
    『十誦律』巻56「毘尼誦」


・・・意外なことに「律蔵」にも出ていたか。ということで、後で採り上げるように中国成立の仏教関係の典籍にも見られることではあったが、インドの部派が伝えていた『十誦律』にも出ていたようである。しかし、この部分だけでは、何故、自誓受戒(具足戒を、だが)になるのか見えてこない。

よって、少し、この辺を掘り下げてみようと思う。

次に大迦葉、仏の所に来詣して言わく、「仏、是れ我師なり、我れ是れ弟子なり」と。世尊、伽陀を修し、「是れ我が師なり、我れは是れ弟子なり」と、是れを自誓受戒と名づく。
    『薩婆多毘尼毘婆沙』巻2「七種得戒法」


以上の通り、「律蔵」への註釈書では、摩訶迦葉尊者が釈尊に弟子入りしたときの様子をもって、「自誓受戒」としているようである。とはいえ、これを見ても、何故これで「具足戒」まで得られたとする「自誓受戒」になるのかは、今一つ理解が出来ない。しかし、これは迦葉尊者と釈尊の会話が、理解するための鍵であるような気がする。

と思ったが、この辺が良く分からない。ただし、先に挙げた迦葉尊者が釈尊を師と呼ぶ場面は、『雑阿含経』などに見られた。

 爾の時、尊者摩訶迦葉、久しく舎衛国阿練若の床坐の処に住し、鬚髪を長くし、弊納衣を著けて、仏の所に来詣す。爾の時、世尊、無数の大衆、圍繞し説法す。
 時に、諸もろの比丘、摩訶迦葉の遠きより来るを見る。尊者摩訶迦葉を見已りて、軽慢心を起こす所に言わく、「此、何等の比丘なるや。衣服麁陋にして、儀容有ること無くして来たる、衣服佯佯にして来たる」。
 爾の時、世尊、諸もろの比丘心の所念を知りて、摩訶迦葉に告ぐるに、「善来、迦葉よ、此の半座に於いてあれ。我れ今、知り竟んぬ、誰か先の出家なるや、汝なるや、我なるや」。
 彼の諸もろの比丘、心に恐怖を生じ、身毛皆な竪ち、並びに相い謂いて言わく、「奇なる哉、尊者よ。彼の尊者摩訶迦葉、大徳大力、大師の弟子、半座を以て請す」。
 爾の時、尊者摩訶迦葉、合掌し仏に白して言わく、「世尊、仏、是れ我が師なり、我れは是れ弟子なり」。
 仏、迦葉に告ぐ、「是の如し、是の如し。我れ大師為り、汝、是れ弟子なり。汝、今、且らく其の安ずる所に随って坐せ」。
 尊者摩訶迦葉、仏足を稽首し、退いて一面に坐す。
    『雑阿含経』巻41


要するに、これは、摩訶迦葉尊者が釈尊から「半座をもって請される」場面について論じたものである。つまり、この段階で、既に摩訶迦葉尊者が釈尊の弟子として、頭陀行に励んでいたと思われ、見た目もボロボロであった。そのため、他の釈尊の周りにいた比丘達に侮られたのだが、その心を知った釈尊は、敢えて自分の半座を分かち、そこに摩訶迦葉尊者を招いたのであった。しかし、摩訶迦葉尊者は、敢えて、釈尊が自分の師匠であると告げ、ただ弟子の礼拝を行い、その正面に坐ったとしている。

つまり、師弟の関係をしっかりと付けたとするのが、この一節になるが、『別訳雑阿含経』巻6では、この辺、もう少し詳しく説かれているようだが、内容は重複するので、ここでは割愛する。それで、中国では、以下のようにも表現された。

自誓と言うは、大迦葉の仏の出世を聞きて、要期を自誓す。仏を我が師と為し、我を弟子と為す。此の言下に於いて具足を発することを得るを名づけて自誓と為す。
    『大乗義章』巻10「三聚戒七門分別」


以上を参照しつつ、この記事の問題意識の部分に戻るのだが、どうも、冒頭で挙げたような摩訶迦葉尊者による発言をもって「自誓受戒」としているようなので、当方の疑問は直接は、解消出来なかった。とはいえ、今後もまた、別の文献などを探りつつ、明らかにしておきたいと思う。ただし、「自誓受戒」とするのは、部派の「律蔵」であったり、その註釈だったりするので、後代の解釈であることに間違いは無かろう。

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