胃腸が弱く、生野菜を嫌う人は、乾し野菜を煮て食べるべきである。冬になったら、大根を薄く切って、生のまま天日乾しをする。レンコン・ゴボウ・山芋・ウドの根なども、薄く切って乾しておくのだ。椎茸・松露・いわたけも乾したのが良い。松茸の塩漬けが良い。ユウガオを切って塩に一晩漬けて、重しをかけておき、乾したのが良い。かんぴょうも良い。白芋の茎に熱湯をかけて日に乾す。これらは皆、(胃腸が)弱い人が食べるのに良いのである。
クコ・ウコギ・ヒユ・菊・ちぐさ・昼顔の葉など、若葉をむしって、煮て干した物を羮として、味噌で和え物にするのだ。菊花は生のまま乾す。皆、(胃腸が)弱い人に良い。老葉は堅い。海藻は冷えの元である。老人や、(胃腸が)弱い人は食べない方が良い。昆布を食べ過ぎると、気が塞がれてしまう。
岩波文庫『養生訓・和俗童子訓』75頁、拙僧ヘタレ訳
胃腸が弱い人への食事として考慮すべきなのは、消化の善し悪しということらしいです。そのためには、生野菜のような筋張った物は避けるべきだということは分かります。しかし、野菜を摂らなければ、栄養的に偏り、益軒が目指す養生生活にとって大きな矛盾となります。よって、その問題点を解消しながら、同時に野菜を摂らなければならないというので、幾つかの方法が考えられています。
まず、野菜を乾すことについては、栄養価を高めることと、保存が利くようにするためです。特に、冷蔵庫(氷室)が一般的ではなかった時代に、生野菜を大量消費できるわけではない胃腸の弱い人にとっては、乾し野菜が効果的だったと見るべきです。そして、さらにそれをそのまま食べるのではなくて、柔らかくして食べる必要があり、そこで乾し野菜の煮物が出て来ます。大根は、乾し大根を食べる機会もありますから分かります。しかし、レンコン、ゴボウ、山芋・・・この辺乾して美味しいんでしょうかね。キノコを乾したのなら、良く見ますから、現在でも風味として残っていますがね(そういえば、【椎茸典座-つらつら日暮らしWiki】なんていう話もありますね)。
で、問題の「松茸の塩漬け」でありますが、余り良く分からず、更に『養生訓』の解説書などを見ても、これについて詳しく書いていないので、ネットに頼ってみました。そうしたら、こんな記事が
【にっぽん食探検(京都新聞)】
どうやら、井原西鶴(1642~1693)の『昼夜用心記』には「北山マツタケの塩漬けがあったら、買いたい」というセリフが出てくるように、収穫したものを塩漬けにしたり、乾したりして全国に出荷していたようですが、そう考えてみると、西鶴と益軒は、時代的には重なりますので、当時の食べ方として一般的だったと見るべきですね。それから、秋の季節に大量収穫できるキノコは食べても余る場合があったようですが、これも乾したようです。そして、乾した食材は日本以上に中国で重んじますけど、それは当然旨味なども増すからで、日本でもそれを好んだ人はいるでしょう。
益軒はそれを、胃腸の弱い人向けであると見出したわけです。また、当然に歯が弱くなりがちな高齢者向けでもあります。益軒の考え方は、常に一定の思想を持ち続けます。自分で過重に努力する前に、十分に環境を整えておくということです。胃腸や歯が弱いのなら、柔らかい物を食べれば良いという発想です。しかし、その中に松茸の塩漬けがあるというのは面白いですね。今ならかえって高級食材かもしれませんが、中国産ならネットの通販でも買えるようですね。でも、松茸ご飯も作りやすそうですし、何やら今年はこの「松茸の塩漬け」を試してみても面白そう・・・とかって、そもそもこれからの季節、松茸を食べられるかが分からないのに、何を妄想しているのやら(汗)
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