さて、鈴木棠三氏編『中世なぞなぞ集』(岩波文庫)を入手したので、それから適宜「仏教に関わるなぞなぞ」を採り上げて、見てきた連載記事ですが、今日は連載33回目、2年半以上の連載になりました。しかし、これで全てのネタを使いきったので、この連載は終了でございます。お付き合いいただいた皆さま、大変にありがとうございました。
そこで、この記事は、「問い」と、編者の鈴木氏による解説を部分的に紹介(全てを紹介すると、分かっちゃうのでそれはしません)し、後は拙僧自身のヒントを掲載したいと思います。解説やヒントを見たくない人のために、反転文字(反転文字←読みたい人は、空白の部分をマウスで範囲指定してください)にしておきます(携帯電話、一部のスマホには未対応です)。
なお、解答については、一番下に書いてありますので、挑戦してみてください。よろしくお願いいたします。
問1:諸仏はつそう
解説:はつそうは、八相。釈迦八相といい、釈迦牟尼は現世に現れて衆生に八種の相を示したといわれる。
ヒント:答えですが、当時、布地の染色や洗濯などに使っていた桶のことです。
問2:かせうハかミをそりて山に入
解説:迦葉の上を消してセウ。これをヤ・マの間に入れて、〈以下略〉
ヒント:答えですが、文字が分かったらそのまま分かります。動物ですね。
問3:ほていかうべをさつていづくのなかのろうゑいにうたなし
解説:布袋の上を取り去るとテイ。朗詠集から和歌を取りのけると詩。「いづくのなか」は、五・九の中であろうか。
ヒント:答えですが、このなぞなぞ、鈴木氏の解説によれば、失敗作らしくて、解けなくても気にしないで下さい。最終回の、最終なぞなぞなのに、ちょっと残念な感じです。よって、1つ追加します。
【なぞなぞについて】
最後に、ちょっとしたまとめ記事を書いてみます。拙僧自身は、「なぞなぞ」についても、中世の日本文学についても素人の域を出ませんので、今回の連載記事の土台になった『中世なぞなぞ集』(岩波文庫)の編者である鈴木棠三氏の見解に依って話を進めてみます。
なぞなぞの世界には、「二段謎」と「三段謎」というのがあるそうです。これまでの連載で取り扱ってきたのは、「斯く斯く然々という、これ何ぞ?」と聞く内容ですので、「二段謎」になります。中世から近世初期にかけては、基本的にこの形式が「なぞなぞ」の基本だったそうです。そして、中世の頃に作られたこの「二段謎」を集成して出版するという方法が江戸時代に採られました。『中世なぞなぞ集』に収めたのは、そういう書籍だそうです。
ところが、1700年代中頃になると、「斯く斯く然々とかけて、云々かんぬんととく、その心は・・・?」という「三段謎」に爆発的人気が集中することになりました。ちょっと前まで、或る芸人がテレビで「三段謎」を披露していたので、憶えている人も多いことでしょう。その文字の形や、ちょっとした言い回しを駆使してかける「二段謎」に比べ、様々な単語・文脈の組み合わせで形成されるバリエーションの豊富さから、やはり「三段謎」の方が受けたようです。
【『徒然草』に見るなぞなぞ】
そして、これが、当連載、最後の1問になります。実は、兼好法師『徒然草』には、或るなぞなぞが入っていることで有名です。1319~1336年頃にかけて成立したといわれる同著は、時代的にも、当連載、「中世のなぞなぞ」の先駆的業績といえますので、見ていきたいわけです。その一段は第一三五段です。ここで出るなぞなぞについて、鈴木棠三氏は、平安期のなぞなぞとは、明らかに一線を画した問題であると評し、ここでいわれるようななぞなぞの問題が出た理由にも言及され、「連歌における賦物(ふしもの)」の影響が大きいとされています。
賦物というのは、連歌で用いられた技法で、毎句一句ごとに所定の語を読み入れることになることだそうです。これにより、一句の中で文字の移動があって、別の用語になったり、逆に二字が三字や四字になったりすることがあったとのこと。これらを複数用いることで、複雑ななぞなぞに発展したそうです。連歌作者が常日頃行っていたような、文字や語句に対する鍛練が無いと、難しいみたいです。
さて、その上で、『徒然草』第一三五段を見ていきたいと思います。
資季大納言入道という人が、具氏宰相(参議)中将に会った際に、「あなたが質問される程度のことは、お答えできないことはないですな」といわれた。
具氏は、「さて、どうでしょうかね」と答えた。
資季は、「それでは、試してご覧なさい」と促した。
具氏は、「難しい学問のことは、大して学んでおりませんから、お尋ねすることも出来ません。どうでもないような、他愛も無いことで、良く分からないことをお尋ねいたします」といった。
資季は、「そんな卑近なことのお尋ねであれば、どんなことでもハッキリしたお答えをいたしましょう」と答えた。
すると、院のお側に仕える人たちや女官は、「これは面白い問答です。どうせなら、院の御前で争われると良いでしょう。負けた人は、(勝った人に)ご馳走しなければならないこととしましょう」と決めた。
そこで、院の御前で問答するように命じられたのだが、具氏は、「幼少の頃から聞き慣れているのですが、意味が分からないことがあります。『うまのきつ、りやうきつにのをか、なかくぼれいりぐれんどう』というのは、どんな意味なのでしょうか、承りたいと思います」と尋ねた。
資季は、「これは、他愛も無い言葉だから、説明する価値もない」と答えたが、具氏は、「元々深い学問など分からないので、最初から他愛も無いことをお尋ねしますと約束いたしました」といったので、大納言入道の負けとなり、罰として大いにご馳走したという。
拙僧ヘタレ意訳
さて、ここで「なぞなぞ」が使われていることが分かりますね。「うまのきつ、りやうきつにのをか、なかくぼれいりぐれんどう」がそれに当たり、実際にこの解についてもこれまで色々といわれてきたようなのですが、『中世なぞなぞ集』を編集された鈴木棠三氏は、伴高蹊『閑田耕筆』巻四を紹介しながら、こんな説き方を促しています。
右の謎の構造は、「馬退きつ」「中凹れ」「入り」「ぐれんどう」によって、上部消去、中央部消去、挿入、倒置を指示したもので、平安期の謎の構成にはまったく見られない手法であった。
『中世なぞなぞ集』、445頁
このように指示しています。よって、「うまのきつ」で、この部分自体が無くなります。そして、「りやうきつにのをか」が残りますが、「中凹れ」で「り」「か」となり、これを「挿入」して、「りか」となりますが、最後「ぐれんどう」で「倒置」となり・・・まぁ、ここまでいえば分かりますよね。
連載第33回目(最終回)の答えです。答1:あくおけ、答2:やせうま、答3:さんていし。『徒然草』答:かり(雁)これで、この連載を終わります。次の連載を楽しみにどうぞ。一応、来月からは、江戸時代の大乗非仏説論の原典ともいわれる冨永仲基『出定後語』を読み解いていこうと思っています。
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