つらつら日暮らし

「導引」という方法(益軒先生の「養生だけが人生さ」4)

江戸時代の儒学者・貝原益軒先生の『養生訓』を読んでいく連載記事ですけれども、前回は「五官」ということで自分の感覚器官を鎮めながら、毎日安楽に生きるコツを紹介しました。今日はその続きで、「導引」であります。まずは、以下の一節をご覧下さい。

『医学入門』でいうには、「導引の法は、保養する方法の1つである」。人の心は、常に静寂である。身は常に動かすべきである。一日中安坐しているのは、病を生じやすい。長い時間立ち、長い時間歩き、長い時間寝て、長い時間坐るのは、もっとも人に害があるのである。
    貝原益軒著・石川謙校訂『養生訓・和俗童子訓』岩波文庫、104頁、拙僧ヘタレ訳


そもそも「導引」とは何のでしょうか?この『医学入門』というのは、中国明代の医書だそうですが、それによれば、全身を順番にマッサージすることにより、気の巡りを良くする方法のようです。つまり、気の滞った状態を止め、全身に導引することを指しています。具体的な方法は、益軒が以下のように示しています。

 導引の法を毎日行えば、気を巡らし、食べたものをよく消化して、積聚(腹部の異常のこと)を生じなくなる。朝に、未だ身体を起こさない時点で、両足を伸ばす、(夜の間に体内に貯まった)濁気を吐き出したら、起きて坐り、頭を仰向けにして、両手を組んで前に突き出して、それを上に向かって伸ばすのである。歯を数回叩き、左右の手でうなじをかわりばんこに押す。
 その次に、両肩を上げて首を縮め、目を塞いで、素早く肩を下に三度下げる。
 次に顔を、両手でたびたびなで下ろし、目を目頭から目尻に向かってしばしばなでて、鼻を両手の中指で6~7回なでて、耳輪(耳たぶのこと)を両手の両指で挟み、6~7回なで下ろし、両手の中指を耳の穴に入れ、探り、しばし塞いで両側に開き、両手を組み左に引くときは、頭を右向きにし、右に引くときは、頭を左向きにする。これを各々3回行う。
 次に手の甲で、左右の腰の上、京門(脇腹の一番下の肋骨の前端の直下にあるツボとのこと)のあたりをすじかいに、下に十数回なで下ろし、次に両手をもって腰を押す。両手の手のひらで、腰の上下をしばしばなで下ろす。これで食気を巡らし、気を下ろす。
 次に手で尻の上をやわらかに十数回打つ。
 次に股と膝をなで下ろし、両手を組んで三里(膝頭の下あたり)のあたりを抱えて、足を前に踏み出し、左右の手を前に引く。左右の足をともにしばしばこれを行うのである。
 次に左右の手をもって左右のふくらはぎの表裏を数回なで下ろす。
 次に足の裏の湧泉の穴(つちふまずの中心部)を、片足の五指を片手で握り、湧泉の穴を左手で右足のをなでて、右手で左足のをなでることを、各々数十回行う。また、両足の親指をよく引いて、残りの指もひねっておく。
 これらが、術者が行う導引の術である。時間に余裕がある人は、日々このように行うのである。
 また、従者や子供に教えて、ふくらはぎをなでさせ、足の裏をしきりにこすらせ、熱が出て来たら止めさせる。また、足の指を引かせる。朝晩にこの様にすれば、気が下り、足先まで気が巡り、足の痛みを治すのである。大きな利益がある。遠方に歩行するとき、または、歩行した後、足の裏をこの教えのように揉むのである。
    貝原益軒著・石川謙校訂『養生訓・和俗童子訓』岩波文庫、104~105頁、拙僧ヘタレ訳


文中にしばしば出てくる「なでる」という表現ですが、いわゆるマッサージということのようで、揉みながら揉む部位を上下させるように行うもののようです。それで、この「導引」という方法ですが、上記の通り、全身マッサージすることを意味しています。しかも、朝に行う導引と、それから、簡略化された足だけのマッサージと、2種類書いてあることが分かります。

これが実際に効果があるのかどうか?ということで、拙僧自身も試してみました。ただし、拙僧はこれまで、食べ物の消化で苦労したことが多くないので、その最初の効果の段階で、普段と変わりないという話になっているのですが、まぁ、正確な方法かどうかも分からないので、アテにはしないで下さい。ブログ読者向け、ということで一応結果を発表してみます。

それで、結果ですが、拙僧は身体が堅いので、部分的にはやや痛い想いをして行う動作がありました。多分、益軒的にはダメな場合であるように思います。しかし、身体を触ってみるというのは、悪くないですね。普段、油断していると、身体を洗うときに触れるくらいで、自分で自分を触るという経験は、そんなに多くなかったことを実感しました。

その結果、自分の認識が全身の隅々に行き渡ったような気がしまして、実際の「導引」の結果よりも、そちらの方が大きいかな?と思った次第です。何だか、余り良い記事ではなかったように思うのですが、とりあえずの紹介までということで、以上といたします。

※この連載記事は、「かつて養生に関わる説でいわれていたこと」を、文献的に紹介しているのみであり、実際の医学的効能などを保証する目的で書いているのではありません(それは、医師ではないので出来ません)。その辺は能く能くご理解の上、ご覧下さいますようお願い申し上げます。

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