つらつら日暮らし

『唐招提寺戒壇別受戒式』に於ける『遺教経』について(6)

ここ数回の記事の続きであるが、この回で一応終えておきたい。恵光『唐招提寺戒壇別受戒式』では「第五講遺教経」とあって、比丘へ具足戒を授ける前に、『遺教経』を講義していたことが知られている。そこで、今日はその講義が終わって、講義という善行を「回向」するための「回向文」が出ていたので、確認しておきたい。

 抑そも講経する所生の惠業を捧げ、伝戒鑑真和上の威光を奉飾す。
 登壇受具の仏子、上品清浄の戒法を円満し、
 并びに、
 金輪聖王御願成弁し、国土泰平・万民快楽ならんことを。
 一天の雲晴れて堯日の光高く輝き、
 四海の浪穏やかに舜雨の恵み竭きること無し。
 乃至、
 鉄圍・大鉄圍、同じく三聚浄戒の法水を浴び、
 沙界・恒沙界、共に一実真如の覚山に登らんことを。
    恵光『唐招提寺戒壇別受戒式』「第五講遺教経」


回向文である。なお、先行する実範上人『東大寺戒壇院受戒式』では、回向を唱えること自体は書いてあるが、回向文は見えない。そこで、上記内容を簡単に見ていくと、まず講経自体を善行として捉え、その功徳を伝戒和上たる鑑真和上に対して奉っている。

そして、登壇し具足戒を受けた仏子達は、上品にして清浄なる戒法を円満し、金輪の聖王(天皇のことか)が御誓願を成し遂げ、国土が泰平で万民が楽に生きられるようにと願っている。

更に、一天の雲が晴れて、日の光が高く輝き、四海の波が穏やかで雨の恵みが尽きることが無いようにと願っているが、その際に、「尭・舜」という中国古代の伝説の帝王の名前を読み込むことで、天皇の徳が高まることを願っている。

そして、この世界の全てが三聚浄戒の法水を浴び、更に、一真実の悟りの山に登ることを願っている。

「三聚浄戒」が出ているため、この受戒自体は、菩薩戒に準じて授けていることが分かる。後の「第十三受戒法」を見ると、「我れ今、発心し受戒す。為に、三聚浄戒を成じ、三解脱門に趣く」とあることからも、まずは「三聚浄戒」を基本に、その後、いわゆる具足戒(比丘戒)を授けているのである。

そうなると、南都に於ける鎌倉期の戒律復興以降の思想に基づいているといえるのだろうか。この辺は、当方はまだまだ勉強が足りない部分であるので、更なる学びに繋げていきたい。

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