つらつら日暮らし

出家した日時の確定(義浄『南海寄帰伝』巻3「十九受戒軌則」の参究・6)

6回目となる連載記事だが、義浄(635~713)による『南海寄帰伝』19番目の項目に「受戒軌則」があり、最近の拙ブログの傾向から、この辺は一度学んでみたいと思っていた。なお、典拠は当方の手元にある江戸時代の版本(皇都書林文昌堂蔵版・永田調兵衛、全4巻・全2冊)を基本に、更に『大正蔵』巻54所収本を参照し、訓読しながら検討してみたい。前回は、出家時に於ける持鉢の問題を採り上げたが、今回は、出家受戒が成立した日時の確定に関する決まりである。

 然して後に法に依て受の為に、其の羯磨師、文を執て読み、或る時は暗誦す、倶に是れ聖教なり。既に受戒し已るを、鄔波三鉢那〈鄔波は是れ近、三鉢那は是れ円、謂く涅槃なり。今、大戒を受は、即れ是ち涅槃に親近す。旧に云く具足とは、其の汎意を言ふなり〉と名づく。
 然も羯磨亦た竟らば、急に須く影を量て五時の別を記すべし。其の影を量るの法、預め一木條の細箸の如ば、長さ一肘を許可し取て、其の一頭を折ること、四指、竪ならしめて、曲尺の形の如くし、竪著を相い離れしむること勿れ、日中の時、地に杖を布き、其の竪影をして臥杖と相当せしむ。方に四指を以て其の臥影を量て、一四指に満るを、一布路沙と名く、乃至、多布路沙、或は一布路沙余の一指半指、或は但だ一指等有り。
 是の如き加減、意を以て測るべし〈布路沙と言うは、訳して人と為すなり。四指の影を一人と名る所以は、即ち是れ四指竪杖の影、長さ四指の時、此の人と立て日中に在るに、影量と身量と相似たり。其の八指は遂に身量両影を相似たり。斯れは中人に拠るなり。未だ必ずしも皆な爾らず。自余の長短の義、之に准ずべし〉。然も須く其の食前・食後を道ふ。若しく天陰及び夜、即ち須く准酌して之を言ふべし。若し神州の法に依らば、或いは尺を日中に竪て、影の長短を量り、或いは復た其の十二辰の数を記すべし。
    『南海寄帰伝』巻3・3丁表~裏、原漢文、段落等は当方で付す


まず、引用文の最初の段落では、受戒し終わった者の呼び方を確認している。それは、「鄔波三鉢那」というものだが、これを意訳すれば、「親近涅槃」であるという。意義についても、比丘戒を受ければ、涅槃に入る状態に近付くため、このように呼ぶという。また、旧訳では「具足」であるというが、これはこの通りであろう。

さて、問題はその次の「然も羯磨亦た竟らば、急に須く影を量て五時の別を記すべし」の部分である。これは、和上から受戒した時間を記すことをいう。何故この手続きを要するかといえば、受戒した順番は同時に、比丘になった順番で、それでもって比丘としての前後の順番を定めているのである。例えば、他の文献などでも以下のように示している。

受戒し已りて、応に歩影すべし。歩影とは、正に立住して住脚を取るを初と為し、身に随う影の長短、歩影す。歩影し竟らば、其の時を教う。其の時とは或いは冬時、或いは春時、或いは夏時なり。竟りて、日月、日月の時を教う。
    『善見律毘婆沙』巻17


このように、受戒したら、影の長短でもって、季節や日時などを計測し、それを受者に教えるべきであるという。結局、古代は時計が無かったわけで、日時計でもって時間を知ったのである。このようなところに、それを用いていることを理解すべきであろう。そこで、上記の引用文では、日中に於ける正確な時間の計り方について、決まっていたことを詳しく論じたのである。

ところで、義浄は「神州の法(中国での方法)」について論じており、もちろん日中であれば日時計を用いるべきだというが、同時に「十二辰の数」を記すように求めており、日常的に時間を知られる状況であったので、それをそのまま用いるべきだという。

なお、「記す」とあるが、これは「戒牒」に書かれたものである。

それから、「若しく天陰及び夜、即ち須く准酌して之を言ふべし」とあるが、夜間の受戒などもあったということなのだろう。ただし、現代のような照明機器が無い時代、実施は困難だったと思われる。ただ、一応決めてあるということなのだろう。

そこで、実は先に引いた文章に続いて、「五時の別」の詳細が書かれているのだが、それはそれで結構ややこしい問題であることが分かったので、次回の記事として分けて採り上げたい。

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