つらつら日暮らし

第十四条・任僧綱条(『僧尼令』を学ぶ・14)

連載は14回目となる。『養老律令』に収録されている『僧尼令』の本文を見ているが、『僧尼令』は全27条あって、1条ごとに見ていくこととした。まずは、訓読文を挙げて、その後に拙僧なりの解説を付してみたい。なお、『令義解』の江戸期版本(塙保己一校訂本・寛政12年[1800]刊行、全10巻で『僧尼令』は巻2に所収)も合わせて見ていきたい。

 凡そ僧綱に任ずることは〈謂わく、律師以上〉、必ず徳行ありて、能く徒衆を伏し、道俗欽み仰ぎて、法務に綱維たらん者を用いるべし。挙す所の徒衆、皆連署して官に牒せよ。
 若し阿党朋扇して、浪りに無徳の者を挙すること有れば、百日苦使。
 一任の以後、輙く換えることを得ざれ。若し過罰有らん、及び老い病して任えざるは、即ち上法に依りて簡び換えよ。
    『日本思想大系3』220頁を参照して、訓読は拙僧


まず、本条で問題となっている「僧綱」だが、これは、日本に於ける僧尼統制のための最高機関を指し、具体的には「僧正・僧都・律師」からなり、「三綱」ともいった。よって、冒頭の「僧綱」の定義の時に「律師以上」という割注が見えるわけである。

そして、そのような最高機関の役職に就く者は、必ず徳行が無ければならず、更には、徒衆(大衆に同じ)を抑えることが可能で、出家からも在家からもその徳望が仰がれ、統率するための法務に対して、「綱維」であるべきだという。なお、「綱維」という言葉について、『令義解』では、「綱維とは、之を張るを綱と曰ひ、之を持つを維と曰ふ。言は、法務を張り持て、其れをして傾き弛まざらしむをいふなり」(『令義解』巻2・10丁表、原典に従って訓読)とある。要するに、規則などをしっかりと行わせる人、ということになるだろう。

それから、自分を推薦する僧衆の名簿などを届け出る必要もあるようだ。

これほどに重大な役目であるから、本条後半では、その任命方法についても定められているが、この「阿党朋扇」について、『令義解』では、「謂わく、阿党とは、阿曲朋党なり。朋扇とは、朋党相扇ぐのいいなり」(前掲同著・10丁表)とあって、要するに阿曲だから、おもねり媚びるような、信念の無い連中が徒党を組んで、自分達で煽って好き勝手振る舞うことをいう。つまりは、正常な状態では無いのだが、そのような者達が挙って、徳の無い者を僧綱に推挙することがあれば、罰するとしている。

末尾の一節は、一度この役職に就けば、容易には換わらないとしている。実質的な任期は無かったようだ。一方で、本人に過失があった場合や、老齢となり病を得て役職に堪えられないような場合には、本条前半部分の定義に従って、換えるべきだという。この辺は、役職を機能させるとすれば、当然の対応だといえよう。つまり、当初の僧綱は、(当然だが)名誉職ではなく、しっかりとした実務を伴うものだったのである。

【参考資料】
・井上・関・土田・青木各氏校注『日本思想大系3 律令』岩波書店・1976年
・『令義解』巻2・塙保己一校(全10巻)寛政12年(1800)本
・釈雲照補注『僧尼令』森江佐七・1882年

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tenjin95
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