「ファニーゲームUSA」という映画を観ました。ハネケ監督がハリウッドに乗り込んでセルフリメイクした作品です。
暴力をゲームとして楽しむ二人の青年が、別荘地で暴力と殺人を繰り広げる作品です。青年たちは、礼儀正しく、教養にあふれています。しかし、暴力を心の底から楽しむのです。ただ、直接的な暴力シーンはほとんど出てきません。アングルを変えたり、殴る音や被害者のうめき声だけで暴力を表現しており、二人が美青年であり、別荘地の美しい自然とあいまって、映像的には極めて美的です。だからこそ、この映画は震え上がるほど怖ろしいのです。
人間の内に潜む野獣を、尖鋭的に描いています。暴力を娯楽にしてしまったハリウッドへの、強力なアンチテーゼです。
これほど美しく、怖ろしいバイオレンス映画を観たのは、1973年の映画賞を総なめにした、キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」以来です。
おそらく、この映画は長く映画史に名を残すでしょう。
人類史上、まず健康的な美を求める芸術がうまれ、やがてそれは腐敗した美を求める耽美主義へと進み、さらに19世紀にいたって神経症的な、不愉快な芸術に到達しました。
この五十年は、暴力を人間の根源的な欲求として描く芸術の時代であると、私は思っています。
私自身は神経症的は芸術も、暴力を描く芸術も、やがては健康的な美を求めるものに回帰していくだろうと思っていますが、時代の要請というものは如何ともしがたいものです。
早くも18世紀には、サド侯爵が、幻想的とさえいえる極端な暴力を描く文学を著し、高校時代、私はそれに熱狂しました。しかしサド侯爵の文学をよく読むと、暴力を描くことで、キリスト教的な価値観にアンチテーゼを表明した、思想性の強い文学であることがわかります。
それは、宗教は阿片であると断じた、マルクスにまで連なるものと考えられます。
私の願いは、様々な時代の要請による芸術が、時の流れとともに忘れ去られ、真に美しい、人間の生を賛美するものに収斂されていくことです。
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