I~これが私~

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『楽園の薔薇』13.ライガールの薔薇<1>

2011-12-15 20:24:07 | 小説『楽園の薔薇』
楽園の薔薇

13.ライガールの薔薇

<1>

「…イザベラ?」
順調に勝ち抜いたイスフィールは、見事フレイルの側仕えとなった。
簡単な自己紹介をし、さぁ出立……というわけにもいかない。
「もう一回言ってくれる?」
「いや、ですからあの…私を住まわせてくれている方にそのことを伝えてから行きたいのですが。」
私を住まわせてくれている人=ユニゾンたち。
「兄様にも伝えないと…。」
兄様=レイアースという役回りである。
フレイルは少し困った顔をしつつ了承してくれた…のだが。

「へぇ~っ、ここがイザベラの家?」
「家っていうか、まぁ、その……。」
なぜか、フレイルもついてきた。
邪魔以外の何者でもない。
「…兄様…。」
小さく声をかけて家の中にはいると、当然のようについてくるし。
きょろきょろと見回す様は、イスフィールよりも年下に見える。
「…どうしたんだよ、家の中でも兄様な、ん、てっ!?」
出てきたレイアースが、フレイルを見て固まる。
首だけを動かして、目でイスフィールに聞いた。
『誰こいつっ!?』
イスフィールは思いっきり目をそらした。
フレイルがレイアースににっこりと笑いかける。
「君がイザベラの兄上さん?」
レイアースは答えられなかった。
兄様なんてイスフィールがイザベラになるために渋々頷いたことだ。
しかも咄嗟のことで頭がついていけてない。
3人中2人が冷や汗をかいている状態で、会話が進むわけもなく、気まずい沈黙が続いた。
ややあって出てきたユニゾンの反応は、大人だった。
「おや、お客人かい?イザベラ。」
すげえ。
レイアースとイスフィールは心の中で盛大に拍手を送った。
「あぁ、おじゃましております。ライガール・フレイルです。」
貴人の微笑みで受けるフレイル。
「北からいらっしゃったのですか。長い道のりでしたねぇ。」
和やかに応じるユニゾン。
…なんというか、大人のやりとりだ。
イスフィールとレイアースはついていけずに顔を見合わせる。
と、ユニゾンが笑顔をイスフィールたちにむけた。
「私はフレイル様と話しているから、2人で部屋に行っていなさい。」
有無を言わさないその口調に、2人の答えは一つだけ。
「はぁい…」
そして最後にユニゾンは、大事なことを一つ注意した。

「ドアの開閉は静かにね。」

エプスタイン家の日常の中で、一番大切なことだった。


written by ふーちん


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