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僕の小芝居と母の贈り物

2021年02月03日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

    焼き芋みたいな
    エッセイ・シリーズ  (26)

    『僕の小芝居と母の贈り物 』

 以前、当時まだ4才だった息子がデパートでオモチャをせがみ、床に転がりダダを
ね始めた。「ワアーンワアーン、買って!コレ買って!」「駄目よ!家に帰ったら似た
オモチャがいっぱいあるでしょ!我慢しなさい」と妻。「ドウわーん!カッテカッテ!
もうホントにこれで最後だからあー! 大事にからー買って!」と必死ですがりつく
息子。その光景を傍で見ていた僕は、分もこうやって母を困らせたっけなあと、しみ
じみ思っていた。

 小学校に入った頃、よく一緒に遊んでいた友達の一人にテッちゃんがいた。大きな製
麺工場を営むテッちゃん家に遊びに行くと、目を見張る様なものが何でもあった。まず
、そいつの部屋があった!(自分だけの部屋なんだあ。すごいなあ。)おまけに当時で
は珍しいピカピカのフローリングの床だった。それだけで僕はTVで見る外国ドラマのお
洒落な家に来たような感覚に襲われしまった。テッちゃん家って凄いなあ。お金持ち
なんだなあ。

 テっちやんはある日、僕の家の近所に越して来た。どことなく品があってしい奴で
、テっちゃんの両親も僕らが遊びに行くといつも温かく歓迎してくれた。テっちゃんの
西洋風の部屋には、知らない本や小物などが所狭しと棚に並んでいたし、何よりもオモ
チャが一杯あった。鉄人28号などの人形や怪獣シリーズ、でかいロボットや車や船や
飛行機などのプラモデル、ボウリングゲームやガガガガっ!と鳴り光るマシンガン。当
時の子供なら誰もが欲しがりそうな物が夢のように揃っていた。
 おかげで僕らは、たいていのオモチャを手に取り遊ぶ事が出来た。しかし最も驚いた
のは、本物の光り輝くラムセットが置いてあった事だ。

えっ!テっちゃんってドラム習ってんのおー!先生が時々教えに来るの? 
すっげえなあ!カッコいいなあ!この部屋で叩いてるんだア!すっげえなあ! 
えっ!テっちゃん家クリスチャンだから今度のクリスマス、外人が来るのオ!?
パーテーやるのー?へーすっげえなあ!だけどさ、クリスチャンって何?
僕外人なんて見た事ないモンなあ! ねえ、テっちゃん家ってさ、アメリカ人な
??

 そのテっちゃんがある時、ピカピカした本物の腕時計をしていた。そして僕は何故か
その時だけ、僕もテっちゃんと同じ腕時計が絶対に欲しい!と思ったのだ。何がなんで
も、僕も本物の腕時計が絶対に欲しくなった。

                                                                                                                      

 ある日、僕は母が働いていた駅前の会社に行き、腕時計をどうしても買って
しいと
訴えた。仕事中の母は僕を外へ連れ出し、我慢してと一生懸命になだめた。しかし僕は
言う事を聞かなかった。最後にはワアーッと泣き出し母に背を向け走り出した。そうし
てちょっと行った所でわざとつまづき転んでまた立ち上がり、再び走りだしそのまま家
に帰ったのだ。そうなんだ。子供ながらの必死の作戦で芝居を打ったのだ。そうすれば
母も僕を可哀想に思って買ってくれるに違いないという算段があった。(なんという子
!コイツは!)

 それから数日しての事だった。テっちゃんと同じ物ではなかったけれど、母は
細長い
プラスチックケースにきちんと仕舞われてある銀色の腕時計を、僕の机の上に置いてく
れていた。それを見た時、やったあ!という喜びはあったものの、その後すぐに僕は後
悔の念に襲われた。その頃、我が家は父が体を壊し入院生活を送っていて、子供にそん
な立派な腕時計を買ってあげられる経済的な余裕など全く無かっただろう。

 その事は子供の僕にも分かっていた。しかし母は、相当な無理をしてその腕時計を買
ってくれたのだきっと色々と借金もあったにちがいない。しばらくの間は、僕はその
腕時計をしていたが、やがて机の引き出しにしまいこんでしまった。母を困らせた事
のやるせない気持ちがそうさせたのだ。あの時、僕が泣きながら走り出した芝居も、母
はきっとお見通しだっただろうそれでも買いに行ってくれた。無理をしてでも子供の
願いを叶えようとしてくれた。僕がダダをこね、せがみ続けた時の母の辛そうな顔を思
い出す度に胸にこみ上げる何か。ごめん、母さん。

 今も元気で健在だったならば、僕はどこかで頃合いを見て、あの時の事を何気に母に
謝ったはずだ。母は、「そうよ、あの時は大変だったんだから」などと、きっと優しく
笑って言ってくれただろう。僕を産んだ後、心臓の大手術をして、その後遺症で右手が
半分マヒしたままで、料理なんかも大変だったろうに、いつも一生懸命作ってくれてい
た母だった。 

 そうそう。結局その日、我が息子、小さなおもちゃ大好き戦士は、
妻とのデパートで
の激しい攻防に敗れた。僕はちょっと可哀想になり、帰りにコンビニで200円ほどの
玩具付きお菓子を買ってあげた。意気消沈していた小さな戦士、大いに復活する!!む
はは。よかったよかった。





             星空Cafe、それじゃまた。               
               皆さん、お元気で!                


             
















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2 コメント

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山さまへ (S.Y)
2021-02-04 23:59:39
ああ~、そうですか。ああ~、うんうん、何となく。(^^)
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Unknown (山さま)
2021-02-04 23:37:34
何故だか、なぎら健壱さんの「フォークシンガー」という曲が頭に鳴りました。
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