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(谷地平)
朝4時に携帯の目覚ましが鳴って起きる。他の人はまだ眠っているようだ。暗闇の中、寝袋などを仕舞って、朝食を取る。窓を見るとあまり天気は良くない感じがする。靴下は昨日新しいものを出したのだが、肝心の靴のほうはびしょ濡れのままだ。濡れた靴を履き、明星湖へと歩き出す。小屋の外は霧で真っ白だ。木道を歩き、湿原の中を進む。エアリアの冊子によるとこの辺りを弥兵衛平湿原というそうだ。そこかしこに大小の池塘がある。天気が良ければ、さぞ爽快な気分となる所であろう。霧の中を15分ほど進むと一際大きな沼が見えてくる。地形図との位置関係を考えるとこれが明星湖だろう。天気が良ければ長居したいところであったが、どうも先ほどから空がゴロゴロと鳴っている。雷が来るのかもしれない。
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(弥兵衛平湿原)
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(明星湖)
往路を戻り、水場へと寄って行く。珍しく誰も小屋からは来ていなかった。小屋へ戻ると三人組がちょうど出発するところであった。小屋に入ると関西からの二人組が出発準備を終えていた。関西からの二人組が出発すると間もなく強い風が吹き始めた。のんびりと準備していた会津若松の男性がラジオを点けると、宮城や山形は雷を伴う雨の予報だという。男性は「福島は天気が良いって予報だったんだけれどなぁ」などと言っている。確かにボクも天気が良くなるという予報だったからここまで来たのだ。まさかこんなことになるとは…。ラジオの気象予報が終わると同時に小屋の窓を激しく叩くように雨が降り出した。こんな中を歩く気にはならない。
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(コバイケイソウ)
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(金明水)
小屋で天候が回復するのを待っていると、小屋の中がかなり寒くなってきた。雨は降ったり止んだりだが、とにかく風が強い。その分寒くなっているのだろう。雨具を着込んだが、濡れた靴下を履いているせいか、お腹がおかしくなってきた。たまらずトイレに駆け込む。下痢だ。これ以上の体調悪化を防ぐため、下痢止めを飲んでおくことにした。小屋の外に出ると何とか携帯電話が通じる。そこで悪天候の旨を家人に伝えておいた。小屋の中に戻ると出発準備をしていた会津若松の男性が「今日中に谷地平まで下らないか?」と提案してきた。谷地平へ独りで下るのは心細いので、一緒に行ってくれれば、猪苗代駅までクルマで送って行ってくれるという。ここで一日待っていても天候が回復するという確信はない。だが谷地平まで下って浄土平へ戻るのはかなりの長丁場だ。一旦保留して、外で再び携帯の電源を入れる。米沢と福島の天気予報を調べたい。なかなか電波が入らないが、弄っているとネットにつながった。米沢の天気は明日も良くない。福島の天気は、今日は曇りのち晴れ。そして明日も天気は良い。これで心は決まった。
男性に一緒に谷地平へ下ることを告げて、天候の回復を待った。すると風は強いが、日が差してきた。このチャンスを逃すまいとすぐに出発する。風が強く、雨の心配もあるので、上下雨具を着込んだ。男性を先頭に歩き始める。男性のペースはボクよりかなり速く、付いていくのが精一杯だ。木道をどんどん進むと「暑い!」と男性が雨具を脱ぎだした。ボクも雨具の上だけ脱ぐ。そこから少しで東大巓の分岐に出た。普段の自分ならとんでもなく速いペースだ。写真を撮る暇もない。東大巓分岐から滑りやすい木道を下っていく。男性は木道下りが苦手なのか、ようやくペースが落ちる。もう来ることはないだろうと思っていた谷地平分岐に再びやって来た。ここで雨具の下も脱いだ。相変わらず天気は曇りだが、もう雨の心配は無いような気がした。
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(谷地平分岐付近を歩く ここまで来れば風はそれほど強くない)
谷地平へはまず急傾斜の下りから始まる。道の両側は凄まじい笹薮で、深く抉れた道を覆い隠している。下る分にはそれほど道が分かりにくいということもないが、登りだったら藪と急傾斜でさぞ難儀したことだろう。しばらく下ると傾斜が緩み、湿地帯に出る。男性は途中川を渡る所で水を汲みたいと言っていた。この湿地帯でも沢水が流れ出ている所がある。男性は朝水を汲みにいかなかったので、ここで水を少し汲んでいた。湿地帯には木道や飛び石は無く、乾いていそうな所を踏み込んでいくしかない。環境保護のためには何らかの整備をすべきではないだろうか。
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(最初に湿地帯 この後も何度か現れる)
湿地帯を過ぎると再び笹薮の急傾斜だ。ただ歩き始めと違うのは沢が道を流れたり、あるいは寸断したりした。靴はずぶ濡れ、泥んこ塗れになりながら、只管下っていく。すると傾斜がまた緩やかになってきた。男性が言っていた水場というのはこの先じゃないんだろうか。笹薮を漕いでいくと水の流れる音が大きくなってきた。藪を抜けると小さな川が滝のように落ちている所があった。男性はここでも水を飲んでいた。ボクは首に掛けていたタオルを濡らしただけで、朝汲んだ水を飲むだけにしておいた。ここから道は川を離れたり、近づいたりしながら緩やかに下っていく。頭上が開けているので気分は良い。何度か渡渉を繰り返し、再び森の中へと入っていく。ここから谷地平までが長かった。森の中を二人無言で下っていく。赤テープが所々あるので、迷うことはまずない。むしろ川の上流に差し掛かるまでの傾斜の緩い所のほうが迷いやすいだろう(実際男性は一度道を間違った)。
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(道が沢の中を進むようになっている)
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(背丈ほどの藪 こんなのが最初は多い)
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(小さな滝 男性が水を飲んでいる)
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(川 これを渡渉したり高巻したり)
傾斜が緩くなる手前で一旦谷地平がチラっと見える一瞬があった。二人とも喜んだのだが、そこから谷地平までは長かった。傾斜が緩くなっても森歩きは続く。一見乾いた道でも、足首までスッポリ埋まるほどの泥濘になっている所が多い。男性はこうしたトラップを避けるため、道の端を歩こうとする。ボクは荷が重く、面倒なのでどんどん道の真ん中を進む。で、しっかりとトラップに嵌って遅れてしまう。道が沢の中を行くようになると、水の流れる音が大きくなってくる。谷地平はかなり近いはずだ。支流が合流してくる所で大きな沢を渡渉する。もう濡れるのは慣れっこになってしまった。但し川が長梅雨で増水しているので、対岸の赤テープを探すのに二人して手惑う。渡渉が終わると今度は完全に沢の中を進む道だ。石がツルツルなので、重荷だと上がるのに苦労する。
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(傾斜が緩やかになった 足首まで埋まる泥濘も多い)
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(川の合流地点 一旦川まで下る)
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(沢の中を上がる ツルツルで上がりにくい)
森が終わると視界に谷地平の湿原が入ってきた。男性はこれを見せたかったんだと嬉しそうだ。ボクのほうはとにかくここまで無事下りて来られたことだけで十分だった。ギボウシの紫色の花が咲く湿原は川によって幾つかに分断されている。流れの速い川を男性の指示で何とか渡渉し、木道の敷かれた湿原へと上がる。ここはギボウシなどの花は無く、池塘が点在している。やや草紅葉に成りかけている所もあり、山は季節が早いことを思い知らされる。男性はもう少し早い時期に来れば良かったかと悔やんでいた。男性は昨年紅葉の時期にここへ来たという。でもこれだけ花が咲いていたのだから、悔やむこともないだろう。
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(谷地平が見えてきた)
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(花は結構多い)
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(木道の敷かれた湿原)
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(池塘)
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(谷地平のパノラマ)
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(ギボウシなどが咲く)
木道にザックを下ろして休憩を取ろうとしたが、もう少し先に避難小屋があるというので、そこまで行くことにした。正直もう限界だったのだが、何とか渡渉もこなし、谷地平避難小屋へと辿り着く。三角形をした小屋は平家建だが、中は広く板張りになっている。収納スペースもあるので、かなり広く使える。ただ問題はトイレが無いことだ。男性はここに泊まるつもりだったので、携帯トイレを持参してきたという。まあ本来どこの山に行くのでも、携帯トイレくらいは持ってくるべきなのだろう。中でザックを下ろし、昼食の相談をする。ボクは調理しないと食べられるものがないのだ。男性は30分くらいなら時間を使っても大丈夫だというので、ラーメンを作ることにした。快適な小屋だったので、ここで泊まっても良いくらいだった。だがガス缶が切れる寸前だったので、今日中に浄土平へ出る必要があった。予備日だけでなく、予備のガス缶も用意しておくべきであった。
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(谷地平避難小屋)
食事も終わり、姥ヶ原へ最後の登りに取り掛かる。男性は大体2時間くらいは掛かるだろうという。小屋前の川を渡渉すると森の中の登りがスタートする。といっても最初のうちは緩やかだ。道は依然として泥濘が多く、男性はその度に道の端を歩いていく。ボクは面倒なので、泥に嵌りながら歩いていく。沢のそばを歩いているせいか、やけに崩壊地が多い。崩壊地を覗くと沢からあまり離れていない。なかなか高度を稼げないなぁと思っていると、大きく下って渡渉する。う~ん、もったいない。渡渉が終わると傾斜がやや急になってきた。大きな石がゴロゴロとする道で、体を持ち上げるのが大変だ。男性がたまらず休憩を取ると前から若者グループがやって来た。おそらく谷地平で泊まるのだろう。福島の山はあまり若者が目立たない感じだが、こうして渋いルートを歩きに来る人達もいるのが何だが嬉しい。
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(姥ヶ原への登り)
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(やはり渡渉がある とはいえ以後はないのだが…)
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(やや傾斜が急な辺り それほどのきつさはない)
厳しい登りに何度も男性が立ち止まってくれるので、それほど息は上がらない。前が明るくなってきたなどと男性を励ましているうちに、本当に前方が開けてきた。樹林帯を出ると姥ヶ原の縁に出た。二体の石像があり、一体はお地蔵様。もう一体は見たことがない像だ。男性に聞いてみると姥神様の像だという。確かにちょっとお婆さんっぽい。整備された笹薮の道を行くと木道が現れた。ここからは観光地だと男性が言う。木道を少し歩くとベンチがあるので、ここで少し休憩を取ることにした。安心感からか疲れがどっと出る。木道の上は風が強く、帽子が飛ばされそうだ。見ると周りの樹が皆一方向に倒れている。
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(姥ヶ原のお地蔵様)
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(姥神様)
姥ヶ原は縦横に木道が敷かれているのだが、男性は東吾妻山分岐を通って、真直ぐ浄土平へと下りるらしい。ボクの電車の時間を心配してくれているようだ。ボク自身は親類の家に寄っていくつもりだったので、それほど急ぐ必要もなかったのだが、そうは言い出せなかった。木道はとても歩きやすく、瞬く間に姥ヶ原を過ぎていく。ここは次の機会にじっくり歩くことにしよう。しばらくすると丸い形容をした山が見えてきた。一切経山の南にあるピークだという。東吾妻山の分岐を過ぎると道は少しずつ下っていく。途中鎌沼が一瞬だけ見えた。あそこもじっくりと歩きたいなぁ。蓬莱山の脇を過ぎると深く抉れた道を下っていく。周囲は笹薮なので見晴らしはあまり無い。ただ少し下ると正面に吾妻小富士が見えてきた。浄土平も視界に入り、山歩きの終わりを予感させる。一切経山の噴煙を見上げる位置に来た時、男性が「昔は噴気孔は一つだったはずなんだけれどなぁ」と言う。今は二筋の噴煙が上がり、活動もかなり活発なように感じる。男性は噴火するのではないかと恐れていた。
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(正面は東吾妻山だろうか)
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(一切経山のピークの一つ)
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(東吾妻山分岐)
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(一切経山)
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(姥ヶ原のパノラマ)
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(鎌沼が見える)
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(右に見えるのは高山かな?)
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(吾妻小富士と浄土平)
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(一切経山の噴火口)
周囲が低い樹林帯になる辺りで若い男性が後ろから下りてきた。若い男性を先へ行かせる。男性は神奈川から来た人で、ボクらの縦走の感想を聞いてきた。ボクは酷い道だったことだけを伝えた。樹林帯を抜ければ、昨日の朝歩き出した浄土平へと下り立つ。会津若松の男性が乗ってきたクルマも見えてきた。最後の力を振り絞ってクルマのそばにやって来る。これで山旅も終了だ。ザックからサンダルを出して履き替える。この登山靴には随分お世話になったが、そろそろ買い替えよう。荷物をまとめているとレストハウスの従業員らしき地元のご婦人に声をかけられる。縦走路の話をすると30年以上前から今のような状態だったという。やはり昔からタフな東北の山なのだ。帰りは約束通り猪苗代駅までクルマで送ってもらう。途中温泉に寄ったので、料金だけはこちらで払った。そのくらいのことはしても良いだろう。猪苗代駅に着くとちょうどあいづライナーがやって来たところであった。運良く席を確保でき、座って郡山に出ることができた。その後親類の家に泊めてもらい、墓参りなどを済ませてから所沢に帰った。
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(浄土平ビジターセンターへ向かって)
DATA:
明月荘8:41~9:14東大巓分岐~9:35谷地平分岐~12:31谷地平避難小屋13:00~14:36姥ケ原~15:36浄土平(好意同乗)猪苗代駅
湯郷布森山温泉 700円
地形図 天元台 吾妻山
歩数 21,170歩
朝4時に携帯の目覚ましが鳴って起きる。他の人はまだ眠っているようだ。暗闇の中、寝袋などを仕舞って、朝食を取る。窓を見るとあまり天気は良くない感じがする。靴下は昨日新しいものを出したのだが、肝心の靴のほうはびしょ濡れのままだ。濡れた靴を履き、明星湖へと歩き出す。小屋の外は霧で真っ白だ。木道を歩き、湿原の中を進む。エアリアの冊子によるとこの辺りを弥兵衛平湿原というそうだ。そこかしこに大小の池塘がある。天気が良ければ、さぞ爽快な気分となる所であろう。霧の中を15分ほど進むと一際大きな沼が見えてくる。地形図との位置関係を考えるとこれが明星湖だろう。天気が良ければ長居したいところであったが、どうも先ほどから空がゴロゴロと鳴っている。雷が来るのかもしれない。
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(弥兵衛平湿原)
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(明星湖)
往路を戻り、水場へと寄って行く。珍しく誰も小屋からは来ていなかった。小屋へ戻ると三人組がちょうど出発するところであった。小屋に入ると関西からの二人組が出発準備を終えていた。関西からの二人組が出発すると間もなく強い風が吹き始めた。のんびりと準備していた会津若松の男性がラジオを点けると、宮城や山形は雷を伴う雨の予報だという。男性は「福島は天気が良いって予報だったんだけれどなぁ」などと言っている。確かにボクも天気が良くなるという予報だったからここまで来たのだ。まさかこんなことになるとは…。ラジオの気象予報が終わると同時に小屋の窓を激しく叩くように雨が降り出した。こんな中を歩く気にはならない。
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(コバイケイソウ)
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(金明水)
小屋で天候が回復するのを待っていると、小屋の中がかなり寒くなってきた。雨は降ったり止んだりだが、とにかく風が強い。その分寒くなっているのだろう。雨具を着込んだが、濡れた靴下を履いているせいか、お腹がおかしくなってきた。たまらずトイレに駆け込む。下痢だ。これ以上の体調悪化を防ぐため、下痢止めを飲んでおくことにした。小屋の外に出ると何とか携帯電話が通じる。そこで悪天候の旨を家人に伝えておいた。小屋の中に戻ると出発準備をしていた会津若松の男性が「今日中に谷地平まで下らないか?」と提案してきた。谷地平へ独りで下るのは心細いので、一緒に行ってくれれば、猪苗代駅までクルマで送って行ってくれるという。ここで一日待っていても天候が回復するという確信はない。だが谷地平まで下って浄土平へ戻るのはかなりの長丁場だ。一旦保留して、外で再び携帯の電源を入れる。米沢と福島の天気予報を調べたい。なかなか電波が入らないが、弄っているとネットにつながった。米沢の天気は明日も良くない。福島の天気は、今日は曇りのち晴れ。そして明日も天気は良い。これで心は決まった。
男性に一緒に谷地平へ下ることを告げて、天候の回復を待った。すると風は強いが、日が差してきた。このチャンスを逃すまいとすぐに出発する。風が強く、雨の心配もあるので、上下雨具を着込んだ。男性を先頭に歩き始める。男性のペースはボクよりかなり速く、付いていくのが精一杯だ。木道をどんどん進むと「暑い!」と男性が雨具を脱ぎだした。ボクも雨具の上だけ脱ぐ。そこから少しで東大巓の分岐に出た。普段の自分ならとんでもなく速いペースだ。写真を撮る暇もない。東大巓分岐から滑りやすい木道を下っていく。男性は木道下りが苦手なのか、ようやくペースが落ちる。もう来ることはないだろうと思っていた谷地平分岐に再びやって来た。ここで雨具の下も脱いだ。相変わらず天気は曇りだが、もう雨の心配は無いような気がした。
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(谷地平分岐付近を歩く ここまで来れば風はそれほど強くない)
谷地平へはまず急傾斜の下りから始まる。道の両側は凄まじい笹薮で、深く抉れた道を覆い隠している。下る分にはそれほど道が分かりにくいということもないが、登りだったら藪と急傾斜でさぞ難儀したことだろう。しばらく下ると傾斜が緩み、湿地帯に出る。男性は途中川を渡る所で水を汲みたいと言っていた。この湿地帯でも沢水が流れ出ている所がある。男性は朝水を汲みにいかなかったので、ここで水を少し汲んでいた。湿地帯には木道や飛び石は無く、乾いていそうな所を踏み込んでいくしかない。環境保護のためには何らかの整備をすべきではないだろうか。
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(最初に湿地帯 この後も何度か現れる)
湿地帯を過ぎると再び笹薮の急傾斜だ。ただ歩き始めと違うのは沢が道を流れたり、あるいは寸断したりした。靴はずぶ濡れ、泥んこ塗れになりながら、只管下っていく。すると傾斜がまた緩やかになってきた。男性が言っていた水場というのはこの先じゃないんだろうか。笹薮を漕いでいくと水の流れる音が大きくなってきた。藪を抜けると小さな川が滝のように落ちている所があった。男性はここでも水を飲んでいた。ボクは首に掛けていたタオルを濡らしただけで、朝汲んだ水を飲むだけにしておいた。ここから道は川を離れたり、近づいたりしながら緩やかに下っていく。頭上が開けているので気分は良い。何度か渡渉を繰り返し、再び森の中へと入っていく。ここから谷地平までが長かった。森の中を二人無言で下っていく。赤テープが所々あるので、迷うことはまずない。むしろ川の上流に差し掛かるまでの傾斜の緩い所のほうが迷いやすいだろう(実際男性は一度道を間違った)。
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(道が沢の中を進むようになっている)
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(背丈ほどの藪 こんなのが最初は多い)
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(小さな滝 男性が水を飲んでいる)
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(川 これを渡渉したり高巻したり)
傾斜が緩くなる手前で一旦谷地平がチラっと見える一瞬があった。二人とも喜んだのだが、そこから谷地平までは長かった。傾斜が緩くなっても森歩きは続く。一見乾いた道でも、足首までスッポリ埋まるほどの泥濘になっている所が多い。男性はこうしたトラップを避けるため、道の端を歩こうとする。ボクは荷が重く、面倒なのでどんどん道の真ん中を進む。で、しっかりとトラップに嵌って遅れてしまう。道が沢の中を行くようになると、水の流れる音が大きくなってくる。谷地平はかなり近いはずだ。支流が合流してくる所で大きな沢を渡渉する。もう濡れるのは慣れっこになってしまった。但し川が長梅雨で増水しているので、対岸の赤テープを探すのに二人して手惑う。渡渉が終わると今度は完全に沢の中を進む道だ。石がツルツルなので、重荷だと上がるのに苦労する。
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(傾斜が緩やかになった 足首まで埋まる泥濘も多い)
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(川の合流地点 一旦川まで下る)
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(沢の中を上がる ツルツルで上がりにくい)
森が終わると視界に谷地平の湿原が入ってきた。男性はこれを見せたかったんだと嬉しそうだ。ボクのほうはとにかくここまで無事下りて来られたことだけで十分だった。ギボウシの紫色の花が咲く湿原は川によって幾つかに分断されている。流れの速い川を男性の指示で何とか渡渉し、木道の敷かれた湿原へと上がる。ここはギボウシなどの花は無く、池塘が点在している。やや草紅葉に成りかけている所もあり、山は季節が早いことを思い知らされる。男性はもう少し早い時期に来れば良かったかと悔やんでいた。男性は昨年紅葉の時期にここへ来たという。でもこれだけ花が咲いていたのだから、悔やむこともないだろう。
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(谷地平が見えてきた)
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(花は結構多い)
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(木道の敷かれた湿原)
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(池塘)
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(谷地平のパノラマ)
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(ギボウシなどが咲く)
木道にザックを下ろして休憩を取ろうとしたが、もう少し先に避難小屋があるというので、そこまで行くことにした。正直もう限界だったのだが、何とか渡渉もこなし、谷地平避難小屋へと辿り着く。三角形をした小屋は平家建だが、中は広く板張りになっている。収納スペースもあるので、かなり広く使える。ただ問題はトイレが無いことだ。男性はここに泊まるつもりだったので、携帯トイレを持参してきたという。まあ本来どこの山に行くのでも、携帯トイレくらいは持ってくるべきなのだろう。中でザックを下ろし、昼食の相談をする。ボクは調理しないと食べられるものがないのだ。男性は30分くらいなら時間を使っても大丈夫だというので、ラーメンを作ることにした。快適な小屋だったので、ここで泊まっても良いくらいだった。だがガス缶が切れる寸前だったので、今日中に浄土平へ出る必要があった。予備日だけでなく、予備のガス缶も用意しておくべきであった。
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(谷地平避難小屋)
食事も終わり、姥ヶ原へ最後の登りに取り掛かる。男性は大体2時間くらいは掛かるだろうという。小屋前の川を渡渉すると森の中の登りがスタートする。といっても最初のうちは緩やかだ。道は依然として泥濘が多く、男性はその度に道の端を歩いていく。ボクは面倒なので、泥に嵌りながら歩いていく。沢のそばを歩いているせいか、やけに崩壊地が多い。崩壊地を覗くと沢からあまり離れていない。なかなか高度を稼げないなぁと思っていると、大きく下って渡渉する。う~ん、もったいない。渡渉が終わると傾斜がやや急になってきた。大きな石がゴロゴロとする道で、体を持ち上げるのが大変だ。男性がたまらず休憩を取ると前から若者グループがやって来た。おそらく谷地平で泊まるのだろう。福島の山はあまり若者が目立たない感じだが、こうして渋いルートを歩きに来る人達もいるのが何だが嬉しい。
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(姥ヶ原への登り)
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(やはり渡渉がある とはいえ以後はないのだが…)
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(やや傾斜が急な辺り それほどのきつさはない)
厳しい登りに何度も男性が立ち止まってくれるので、それほど息は上がらない。前が明るくなってきたなどと男性を励ましているうちに、本当に前方が開けてきた。樹林帯を出ると姥ヶ原の縁に出た。二体の石像があり、一体はお地蔵様。もう一体は見たことがない像だ。男性に聞いてみると姥神様の像だという。確かにちょっとお婆さんっぽい。整備された笹薮の道を行くと木道が現れた。ここからは観光地だと男性が言う。木道を少し歩くとベンチがあるので、ここで少し休憩を取ることにした。安心感からか疲れがどっと出る。木道の上は風が強く、帽子が飛ばされそうだ。見ると周りの樹が皆一方向に倒れている。
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(姥ヶ原のお地蔵様)
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(姥神様)
姥ヶ原は縦横に木道が敷かれているのだが、男性は東吾妻山分岐を通って、真直ぐ浄土平へと下りるらしい。ボクの電車の時間を心配してくれているようだ。ボク自身は親類の家に寄っていくつもりだったので、それほど急ぐ必要もなかったのだが、そうは言い出せなかった。木道はとても歩きやすく、瞬く間に姥ヶ原を過ぎていく。ここは次の機会にじっくり歩くことにしよう。しばらくすると丸い形容をした山が見えてきた。一切経山の南にあるピークだという。東吾妻山の分岐を過ぎると道は少しずつ下っていく。途中鎌沼が一瞬だけ見えた。あそこもじっくりと歩きたいなぁ。蓬莱山の脇を過ぎると深く抉れた道を下っていく。周囲は笹薮なので見晴らしはあまり無い。ただ少し下ると正面に吾妻小富士が見えてきた。浄土平も視界に入り、山歩きの終わりを予感させる。一切経山の噴煙を見上げる位置に来た時、男性が「昔は噴気孔は一つだったはずなんだけれどなぁ」と言う。今は二筋の噴煙が上がり、活動もかなり活発なように感じる。男性は噴火するのではないかと恐れていた。
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(正面は東吾妻山だろうか)
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(一切経山のピークの一つ)
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(東吾妻山分岐)
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(一切経山)
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(姥ヶ原のパノラマ)
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(鎌沼が見える)
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(右に見えるのは高山かな?)
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(吾妻小富士と浄土平)
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(一切経山の噴火口)
周囲が低い樹林帯になる辺りで若い男性が後ろから下りてきた。若い男性を先へ行かせる。男性は神奈川から来た人で、ボクらの縦走の感想を聞いてきた。ボクは酷い道だったことだけを伝えた。樹林帯を抜ければ、昨日の朝歩き出した浄土平へと下り立つ。会津若松の男性が乗ってきたクルマも見えてきた。最後の力を振り絞ってクルマのそばにやって来る。これで山旅も終了だ。ザックからサンダルを出して履き替える。この登山靴には随分お世話になったが、そろそろ買い替えよう。荷物をまとめているとレストハウスの従業員らしき地元のご婦人に声をかけられる。縦走路の話をすると30年以上前から今のような状態だったという。やはり昔からタフな東北の山なのだ。帰りは約束通り猪苗代駅までクルマで送ってもらう。途中温泉に寄ったので、料金だけはこちらで払った。そのくらいのことはしても良いだろう。猪苗代駅に着くとちょうどあいづライナーがやって来たところであった。運良く席を確保でき、座って郡山に出ることができた。その後親類の家に泊めてもらい、墓参りなどを済ませてから所沢に帰った。
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(浄土平ビジターセンターへ向かって)
DATA:
明月荘8:41~9:14東大巓分岐~9:35谷地平分岐~12:31谷地平避難小屋13:00~14:36姥ケ原~15:36浄土平(好意同乗)猪苗代駅
湯郷布森山温泉 700円
地形図 天元台 吾妻山
歩数 21,170歩