タローさんの、トコトコ♪エッセイ

アーティスト・きしもとタローの、旅の話や、夢日記、想い出話など…

その10『アイ、セラミカ♪』

2006-05-26 03:30:58 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『アイ、セラミカ♪』

その日、昼を過ぎるとすっかり人だかりも消え、街は普段通りの姿に戻っていました。あの大騒ぎ(デモ)は一体なんだったんだろう…嵐が去った後のような呆然とした感覚で、教会の近くの坂を歩いていると、道の途中で三葉虫の化石が売られていました。山のほうへ行けばポロポロと採れる所があるそうなんですが、そういう所で化石を沢山採って来ては、観光客向けに売りに来ている人がラ・パスには結構いました。地べたで布だけ広げて売ってる人も入れると、その数はかなりのものです。日本で買うよりも値段はずっと安いので、昔から化石や考古学に興味のあった私は、嬉々としてそんな街頭の化石屋さんをまわり、いい感じのヤツを探して買っていたのです。通常は採取する際、石ころを割って開くと中に三葉虫の化石があるのですが、その開いて出てきた化石部分に、再び、割ってはずした石のかけらをもう一度カパッと上から合わせて、割る前の状態の石ころ状態…つまり採取時の状態で売ってるものが結構置いてあるんですね。そのタイプは、開けた時の喜びが大きいので、特にお気に入りでした。

そんな三葉虫の化石の中に、実は偽物がある…という噂を聞いた私は、並べられた化石を見ながら、「偽物ないかなぁ~」と、偽物にも目を光らせていました。「偽物」…この魅力的な響き!昔から、なんとなくそういうのにも惹かれちゃうんですよね!学生時代、先輩がPUMA(ピューマ)の新しいカバンを買って自慢していた時、皆で見たら「PUNA(ピューナ)」だった時…また、大学生の頃、友人がアメリカ帰りの人からもらったという「マイケル・ジャクソン」のTシャツを得意げに見せていた所、よく見たら顔が少し不自然なので、字を改めて読んでみたら「マイティ・ジェイソン」だった時…何だか独特の「得した気分」になったのは私だけだったのでしょうか。「似せた物」をセコセコ作って騙しにかかる連中の、中途半端な職人芸と、謎の熱き想いに惹かれて、思わず大笑いするような強引な海賊版や、「一字違い」のバッタモンを探してしまう妙な癖が、私にはあったのです。

で、その日、ホテルの近くの路地を何気なく入ってテクテク歩いていると…何か怪しい爺ちゃんが、ヒョコヒョコと不審な動きで、通りを何度も横切っています。私に気付くと、これまた妖怪のようにジワ~っと近寄ってきて、手でコイコイ、と招くのです。何かな、と思って爺ちゃんの顔を覗き込むと、爺ちゃんはニヤ~っと笑って黒い包みを取り出し、布をハラリと開けると、そこには丸くて黒い石らしきものが…そして爺ちゃんが両手でその黒石を持ち、カパッと開けると、そこには三葉虫の化石のようなものが…満面の笑顔の爺ちゃん!しかしその石…上と下で微妙に大きさ違うし、よく見たらちょっとズレとるやないかぁ~!?爺ちゃん、焼き加減でしくじりよったなっ。しかも石の表面には、どう見ても練り練りして作った際に付いた、爺ちゃんの指紋らしきものが!こんなあからさまな偽物、あっていいのか…?衝撃で言葉を失っていると、「くくく…セラミカ♪買う?」とニコヤカにのたまう爺ちゃん。

…あの~、確か化石は「フォシル」で、「セラミカ」は陶器のことだったと思うんですけど…こんなあからさまに偽物告白していいのか??それとも一瞬で、私の偽物数寄を見破ったのか??満面の笑顔の爺ちゃんに「あの…これ、本物?」と、思わず問いかける私。しかし爺ちゃんはカクン!カクン!と人形のように頷くだけです。どうやらスペイン語片言の私以上に、スペイン語わかってないような感じです。爺ちゃん、まさか化石のスペイン語が「セラミカ」やと思っとるんじゃあるまいな…誰かが嘘のスペイン語教えたか…そのまま見て真実を言ってしまったとか?で、その時誰かが言った「焼き物じゃん!」というスペイン語を、化石という言葉と思い込んで聞いて覚えてしまったとか??

祈るような気持ちでもう一度問いかける私。「化石って…フォシルだよね??…ね??」嘘でもいいから、売りたいんやったら「フォシル」と言ってくれ~!爺ちゃんの目をグッと見つめ訴えかける私に、爺ちゃんはにっこり笑うと、「くくくくく…セラミカ♪いっぱいある…買え!」あかん~!!!いきなり命令形か~!!唐突な展開に身もよじれます。「わかった、わかった!セラミカね!くく~」「…買う?」「くくくっ…買う買う!もちろん!」満面の笑顔の爺ちゃんと固い握手をかわし、こうして私は念願の「偽物三葉虫」を手に入れたのです。それからも、路地の近くを歩くと時折あの爺ちゃんが通りの向こうに立っていて、笑顔で「アイ、セラミカ♪(セラミカ、あるよ)」と私にコイコイするのでした。一個で充分じゃぁ!

…あの爺ちゃん、まだ生きているのかなぁ。なんとなく、もう一度会ってみたいな、と思う今日この頃です。


最新の画像もっと見る