タローさんの、トコトコ♪エッセイ

アーティスト・きしもとタローの、旅の話や、夢日記、想い出話など…

その10『アイ、セラミカ♪』

2006-05-26 03:30:58 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『アイ、セラミカ♪』

その日、昼を過ぎるとすっかり人だかりも消え、街は普段通りの姿に戻っていました。あの大騒ぎ(デモ)は一体なんだったんだろう…嵐が去った後のような呆然とした感覚で、教会の近くの坂を歩いていると、道の途中で三葉虫の化石が売られていました。山のほうへ行けばポロポロと採れる所があるそうなんですが、そういう所で化石を沢山採って来ては、観光客向けに売りに来ている人がラ・パスには結構いました。地べたで布だけ広げて売ってる人も入れると、その数はかなりのものです。日本で買うよりも値段はずっと安いので、昔から化石や考古学に興味のあった私は、嬉々としてそんな街頭の化石屋さんをまわり、いい感じのヤツを探して買っていたのです。通常は採取する際、石ころを割って開くと中に三葉虫の化石があるのですが、その開いて出てきた化石部分に、再び、割ってはずした石のかけらをもう一度カパッと上から合わせて、割る前の状態の石ころ状態…つまり採取時の状態で売ってるものが結構置いてあるんですね。そのタイプは、開けた時の喜びが大きいので、特にお気に入りでした。

そんな三葉虫の化石の中に、実は偽物がある…という噂を聞いた私は、並べられた化石を見ながら、「偽物ないかなぁ~」と、偽物にも目を光らせていました。「偽物」…この魅力的な響き!昔から、なんとなくそういうのにも惹かれちゃうんですよね!学生時代、先輩がPUMA(ピューマ)の新しいカバンを買って自慢していた時、皆で見たら「PUNA(ピューナ)」だった時…また、大学生の頃、友人がアメリカ帰りの人からもらったという「マイケル・ジャクソン」のTシャツを得意げに見せていた所、よく見たら顔が少し不自然なので、字を改めて読んでみたら「マイティ・ジェイソン」だった時…何だか独特の「得した気分」になったのは私だけだったのでしょうか。「似せた物」をセコセコ作って騙しにかかる連中の、中途半端な職人芸と、謎の熱き想いに惹かれて、思わず大笑いするような強引な海賊版や、「一字違い」のバッタモンを探してしまう妙な癖が、私にはあったのです。

で、その日、ホテルの近くの路地を何気なく入ってテクテク歩いていると…何か怪しい爺ちゃんが、ヒョコヒョコと不審な動きで、通りを何度も横切っています。私に気付くと、これまた妖怪のようにジワ~っと近寄ってきて、手でコイコイ、と招くのです。何かな、と思って爺ちゃんの顔を覗き込むと、爺ちゃんはニヤ~っと笑って黒い包みを取り出し、布をハラリと開けると、そこには丸くて黒い石らしきものが…そして爺ちゃんが両手でその黒石を持ち、カパッと開けると、そこには三葉虫の化石のようなものが…満面の笑顔の爺ちゃん!しかしその石…上と下で微妙に大きさ違うし、よく見たらちょっとズレとるやないかぁ~!?爺ちゃん、焼き加減でしくじりよったなっ。しかも石の表面には、どう見ても練り練りして作った際に付いた、爺ちゃんの指紋らしきものが!こんなあからさまな偽物、あっていいのか…?衝撃で言葉を失っていると、「くくく…セラミカ♪買う?」とニコヤカにのたまう爺ちゃん。

…あの~、確か化石は「フォシル」で、「セラミカ」は陶器のことだったと思うんですけど…こんなあからさまに偽物告白していいのか??それとも一瞬で、私の偽物数寄を見破ったのか??満面の笑顔の爺ちゃんに「あの…これ、本物?」と、思わず問いかける私。しかし爺ちゃんはカクン!カクン!と人形のように頷くだけです。どうやらスペイン語片言の私以上に、スペイン語わかってないような感じです。爺ちゃん、まさか化石のスペイン語が「セラミカ」やと思っとるんじゃあるまいな…誰かが嘘のスペイン語教えたか…そのまま見て真実を言ってしまったとか?で、その時誰かが言った「焼き物じゃん!」というスペイン語を、化石という言葉と思い込んで聞いて覚えてしまったとか??

祈るような気持ちでもう一度問いかける私。「化石って…フォシルだよね??…ね??」嘘でもいいから、売りたいんやったら「フォシル」と言ってくれ~!爺ちゃんの目をグッと見つめ訴えかける私に、爺ちゃんはにっこり笑うと、「くくくくく…セラミカ♪いっぱいある…買え!」あかん~!!!いきなり命令形か~!!唐突な展開に身もよじれます。「わかった、わかった!セラミカね!くく~」「…買う?」「くくくっ…買う買う!もちろん!」満面の笑顔の爺ちゃんと固い握手をかわし、こうして私は念願の「偽物三葉虫」を手に入れたのです。それからも、路地の近くを歩くと時折あの爺ちゃんが通りの向こうに立っていて、笑顔で「アイ、セラミカ♪(セラミカ、あるよ)」と私にコイコイするのでした。一個で充分じゃぁ!

…あの爺ちゃん、まだ生きているのかなぁ。なんとなく、もう一度会ってみたいな、と思う今日この頃です。

その9『デモとブリーフ』

2006-05-18 10:53:04 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『デモとブリーフ』

ラ・パスの街は、あちらこちらに屋台が出ていて、まるで毎日が縁日のようです。朝起きるとブラッと通りに出て、教会前の広場のお目当ての屋台で買い食いをしてオバちゃんの屋台でグレープフルーツを一杯飲んで散歩を続けるのが、私の毎朝の日課になっていました。

そんなある日、教会の前に行くと、とんでもない人だかりが出来ていて、プラカードを持った人々が口々に何かを叫び、街頭で箱の上に乗って演説をしている男もいます。どうやら祭りでもないし…デモか何かでしょうか?通りは農民系の格好のオバちゃんチョリータ達で埋め尽くされており、ずっと向こうの通りまで人で一杯で、どこまでこの列は続くのかなぁ~と思ってブラブラ歩きながら眺めていると、向こうの方からものものしい軍人の群れが手にデカい催涙弾か何かを持ってワラワラとやって来るではありませんか!これって、もしかしてヤバイ状況??群集を少し離れたところからグルッと取り囲むように隊列を組み、並ぶ軍人達。その顔は…う~ん、当然かも知れないが全然笑ってない!いや、いむしろ何か怒ったような顔しとるやないの!半ばビビッて様子を伺っていると、軍人達を見て俄然やる気出して口々に何か叫び、軍人達を挑発するオッサン達!おいおい、大丈夫なのか??何か投げるようなそぶりまで見せて挑発する無謀親父もいるし…やめてくれー!何の集会か知らんが、あんまし武器持っとる連中をその場の勢いで刺激すんなぁ~!そんな、一触即発にも見える雰囲気の中を、人だかりをかき分けて白いカゲがヒョコヒョコとやって来ます。良く見たら、アイスクリーム売りです。すかさず、オバちゃん達がワラワラと群がって買ってるので、思わずつられて一個買って食べてみると…これがうまい!?いや、のん気にアイスなんか味わってる場合なのか??アイスを食べ終わったら今度は突如、ノリのいい太鼓と笛の爆音が響き渡り、振り向くとタルケアーダ(木製の笛の大合奏)の群れが登場!…なんか、脈絡わかんないけど格好いいぞ!?これは一体何のイベントなんでしょ?(いや、デモですよね)

見渡してみると、心なしかいつもより屋台も沢山出てるみたいだし、アイス売りは普段と変わらず営業に励んでいるし、軍人達は手に嫌なもの持って突っ立ってるけど…これはもうちょっと奥の方まで行って見る価値がありそうだな…そう思った私は、オバちゃんチョリータ達の間をズンズン進んで行きました。通りは本当に真っ直ぐ歩けないほどの人です。近くに大学(だったかな)があってその前まで行くと、やたら大きな人だかりが出来ていて、オッサン達が口々に何か叫んでいます。何か面白そうなので野次馬根性で近づいてみると、上のほうを見上げて泣いたり叫んだりしとるオッサンもいるし、なにやら想像以上の大騒ぎです。何があるんだろう、と思って一緒に見上げてみると…なななな、何と!!建物の一番上にデカい十字架が立ってて、ブリーフ一丁の親父が貼り付けられてるではありませんか!!??何をやっとるんだ、あの親父は!?どっからどう見てもアブナイ奴だが…いや、待てよ?確かあの姿には見覚えがある…。そうだ!昔「俺たち!ひょうきん族」に出てた、グレート義太夫やないか~っ!(注:別人)しかも、良く見たら同じようなのがもう一人おる。足元からは何かをアピールする内容が書かれた垂れ幕が下がっており、どうやら身を挺して何かを訴えているようです。私の言語知識では何が書いてあるのかわからなかったのですが…。

振り返ってみると、次から次へと人々が押し寄せ、どうやらこの大騒ぎの中心で、私は全く身動きが取れない状態になっていました。えらいとこにまぎれ込んでしまった!そして、そんなグレート義太夫(ツイン)を指差し、泣いたり叫んだり、こぶしを振り上げて怒りの言葉をぶちまける群集!それにしても、何でブリーフ一丁で…私は腰が砕けそうになりながら、周りを見渡しました。すると…私一人、浮いてる!この状況にはまれない人間が一人…!マズい…!かと言って、あの東西南北どっから見てもアブナイ親父を指差して一緒に嘆き悲しむ事も出来んし。するとその時、あからさまに悪そうな顔つきのオッサンが人だかりをかき分けて中心に躍り出て、なにやらデカい声で演説を始めました。政治家か何かでしょうか?罵声を飛ばしながら迫り来る人の群れ、手に嫌なものを持った軍人達と押し合いへし合いが続きます。そんな群衆の間でもみくちゃになりながら、一体どうなることか、と思ってふと気付くと、屋上の十字架に、さっきのグレート義太夫ズ(ツイン)がいません。いつの間に…と辺りを見回すと、人だかりが「うわあああっ!」と開けて、一際大きな歓声があがりました。そこには、あのブリーフ一丁のグレート義太夫(ラテン・バージョン)が!身ぐるみ剥がされて一昼夜さまよった後のオッサンのように、足元おぼつかなくフラフラと歩いてきます。しかも、ヨレヨレのブリーフは心なしか脱げかけです。義太夫がかすれた声で、しかし力強く何かを話すと、群衆の中からどよめきが起こり、次の瞬間、なんと!さっきの悪顔の政治家と義太夫がガッシリと抱き合い、二人の頬には熱い涙が!?湧き上がる大歓声と拍手、泣いたり叫んだり、口々に大声をあげる大観衆!至近距離(約2m)で繰り広げられる謎の感動シーン!全く状況にはまれない日本人が約一名…俺、最前列やん!?なんでここにいる??

今更逃げる事も出来ず、オッサン二人が涙で抱き合う感動シーンを眼前に、呆然と立ち尽くしながら「オッサンのブリーフ、脱げかけやし、誰かあげてやってくれ!」と、心の中で群集に叫び続ける私でした。

その8『おのれ…!』

2006-05-18 10:28:03 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『おのれ…!』

ホテルから少し歩いた所に、農村の風景や農民などをモチーフにしたかわいい刺繍の作品が沢山置いてる、私のお気に入りの店がありました。ある日その店に入ると、アメリカ人らしきオバサン二人組(ちょっと小太り)がいて、店の人に無理やり英語で話しかけています。店の人は「英語は話せない」と言っているのですが、「何よ!英語も話せないの!?」「何を考えてるのよ!?」とこれまた英語で文句を言っています。それから、二人で幾つかの作品を手に取り「これを全部買ってあげるから、この額にしなさい」と言って電卓を取り出し、とんでもない安い値段をバチバチバチーンと打つのです。

「この刺繍はいっぱい時間がかかる、作るのは大変、そんな安く出来ない」…と店番の女の人はスペイン語で一生懸命説明しているのですが、「わからないわ!」「額が気に入らないの?」「本当はもっと安く出来るんでしょう?!」「どうして英語喋れないの?店員なのに」と更に二人はまくしたてます。そして相手が英語が出来ないと見るや、英語でヒソヒソと相談し始めました。「英語はわからないようね」「もうちょっとよ」「もっと強く言いましょう」…おいおい、入口に立ってる日本人が、アンタ達の英語聞いて理解してるかもしれない、なんて事も想像も出来んのか?それほどしゃべれないにしても何を言ってるかぐらいは結構わかるぞ~!…それか、全然英語わからんような顔に見えたのかな?相談が終わったオバサン達は、店の人がうんざりして困り果てているのを見ると、すかさず自分達が言い張っていた額の現金をレジにバン!と出したのです。「OK?!」と詰め寄るオバサン達に押されて、思わず「…OK…」と小さな声で答える店番の人。まさかその店員さんがOKと言うとは思っていなかったので、「ええ?!」とビックリして私がレジの脇に突っ立ってると、オバサン達は自分達でさっさと商品を袋に詰めて、「うまくやったわ」「私達は賢いわ」と讃えあって、足早に出て行きました。なななな、なんて奴らでしょう~!!内容が何となく分かりながらも、何も出来なかった自分にも腹が立ち、しばらくその店の外で呆然としてしまいました。おのれ~。

その後、ペルーでも同じようなことをする男に出くわした事があります。英語圏でない国に来てるのに、英語が世界の共通言語であるかのように「当然のように」英語で話しかけ、経済格差のカラクリも少しは知っているだろうに、現地の人が時間かけて作ったものを「どうせふっかけてるんだろう?」「儲けようったって、そうはさせないぞ」てな感じで、ゴリ押しして買い叩いていく人は一体何を考えてこの国に来ているんでしょう?ふっかけてきたり、それに対して交渉したり…そういう駆け引きみたいな事も、確かに旅の楽しみかも知れないし、実際ふっかけて来てる場合もありますが、品物をしっかり見て、順当な額は払おう…という気が最初からなくて、「強く出たほうがいい」「押し切って、安く買った方が勝ち」なんて感じで、ゲーム感覚のようにただ買い叩くのって、何だかあさましいですよね。普段自分の国で、どうでもいい事にその数十倍のお金を使っているかもしれないのに…。それに、英語が通じるかどうか尋ねてから英語で話しかけるのはいいと思うのですが、通じて当然と思い込んで英語を使ったり、その国の言語を全く勉強せずに行く、というのは、礼儀ある姿勢とは言えないですよね。挨拶とカタコトだけで充分、誠意は通じるのに。

それから違う店に入って、壁からぶら下げられた色とりどりの布を眺めていると、今度は日本人の父娘が、なんとビデオを回しながら店に入ってきました!普通自分の国で、店の中にビデオ回しながら無言で入っていって商品録画していく無礼者もいないと思うのですが、ここにいた~!唖然としていると、パパらしき人は、舐めるように店の商品を録画していきます。その様子を奥から見ていた店の人が「ビデオなんか撮ってないで、こっちに来たら?」「布を見たいなら出してあげるよ?」と話しかけました。すると、娘がそちらの方は見ずに「何か言ってるわ!」とはき捨てるように言い、パパは完全無視で撮り続けます。その時、店の中ではボリビアの音楽がかかっていたのですが、突如娘がデカイ声で「こんな音楽かけて気分盛り上げて買わそうって腹だろうけど…見え見えよねぇ~」と言い、あまりにことにビックリしてこれまた突っ立ってる私の前を、ビデオを覗きっぱなしのパパとさっさと出て行ったのです。「オウ!日本人…!」と店の人が肩をすくめて溜息をつき、それからチラリと私の方に目をやるではありませんか。思わず居心地悪くなって、私は逃げるように店を出ました。くう~っ、恥くさい~っ!!通りに出たらその父娘はもうどこかへ行って見えなくなっていました。お、お、おのれ~!

もうちょっと後の話ですが、ボリビアの空港でも、エクアドルを周ってきたらしい日本人のオジサン達の団体が、周りに日本人がほとんどいない事をいい事に、大声でエクアドルの街のことを「汚い」「貧乏」「日本はやっぱり綺麗」と口々にわめいていました。どうやら酒も入っているようでしたが…恥ずかしいなんてもんじゃありません。よく「最近の若者は…」なんて言って、若い人の無作法を嘆くオジサン・オバサン方がいますが、人の国に行き、でかい声で勝手な悪口や文句を言う、言葉わからないだろうってなもんで自分達だけで日本語で好き勝手なことを言う、自分の国では出来ないような無礼を無思慮にする、その国の言葉を全然勉強せずに行く…そういうオジサン・オバサン達をこの旅で随分見ました。以前旅行会社の人からそういう年配無礼者ツアーの話は聞いていましたが、よその国を楽しんだり、そこの人達に礼儀を尽くしたり出来ない人が、どうして旅行なんかするのかな…気が付いたら旅先で日本人と見るや、意識的に近づかないようにしてる自分がいる。全く、おんのれぇ~!

その7『虫…?』

2006-05-17 14:10:03 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『虫…?』

いつもは道端や広場の外れにある屋台で昼御飯を食べていた私でしたが、ある日突然、「そうだ、たまにはレストラン風の所で、もうちょっとリッチなランチを楽しんでみようかな~」なんて事を思いついて、裏の通りを徘徊し、一軒のレストランを見つけたのでした。ホテルのレストランや外国人向けレストラン・もしくは本当にリッチなレストラン…というわけではない、庶民的なレストラン…というのでしょうか。

二階に上がってゆくと、リッチなのか、そうでもないのか…これまた微妙なファッションの方々が、気分的には少々ノーブルな感じで座っておられます。
ちょうどランチの時間だったので、適当に注文すると、最初にスープが出てきました。私はスープ類が大好きで、今でもどこかに旅に出かけると必ずその地域のスープを注文します。この時は何のスープかよくわからないままランチで注文しましたので、テーブルに置かれるとすぐに「何のスープかなぁ~??」とばかりに皿を覗き込みました。そして、一瞬ギョッとしたのです。何か白い糸の切れ端みたいなのが一面に浮かんでいて、これが虫というか幼虫というか…とにかく、得体の知れないものに見えたのです。「…む、虫??」そのまま皿に顔を近づけたままの姿勢で硬直していますと、ウェイターのオジサンが「何をやっとるんだ、こいつは?」というような表情で、手際よく次の皿を持って来てしまいました。その間も、私の頭の中では「これは虫か??それとも何??」と青ざめた押し問答が続きます。これはラチが開かん、と思い、思い切ってスプーンですくって汁だけを口に入れてみました。これがうまい!うまいけど、白いのは何かわからない。

その時、ふと昔…子供の頃にうちでイナゴを食べさせられた時の事を思い出しました。確か、うちの父親がビールのあてに食べたいとか言って、皆でイナゴを捕りに田んぼへ行った事があったのです。急いで作った木綿の手ぬぐい袋いっぱいにイナゴを捕まえて、上機嫌になった私は、その袋いっぱいに詰まったイナゴを見ながら、これからどうするのかなぁ~と呑気に構えていたのですが、家に帰ると母親が大鍋に湯を沸かし、いきなり「見ときやぁ~」と言うと、生きたままのイナゴをドバッ!とその鍋に放り込みました。一瞬のうちに真っ赤になってゆくイナゴ達!茹で上がると丁寧にとげのある足を抜き取られ、甘辛く佃煮にされちゃいました。その後、小鉢に盛付けられたり冷まされて瓶詰めされていく様を、まるで写真のスライド・ショーを見てるような…時間軸を失くしたような気分で私は見ていたのでした。これって一種のトラウマ?何で、こんな時にあの光景がよみがえるかなぁ…と、思ってたら今度はオーストラリアの先住民の人達がカブトムシの幼虫みたいなのをおいしそうに食べてた映像や、ジャングルの中で木の幹を斧で割り、中から出てきた虫の幼虫を葉っぱにくるんで火にかけて蒸して食べてる絵を本で読んだのとか…何かいろいろ出てきた!

学生の頃、D島の地下のうどん屋で、食べてた饂飩のどんぶりからデッカイ羽の虫が出てきて(羽はほとんど無くなってた…ということは僕の口の中に入ったのかな?)、文句を言ったら出てきた店員がその虫見て「きゃ~っ!!」と叫び、急いで新しいの持って来てくれたのはいいけど、食べ終わった後で「これは当然タダになるのかな」とか思ってレジに行ったら、なんと半額請求された!「なんで!?」と聞くと「…だって半分食べられたから…」などとほざきやがったあの店員の顔!虫のダシで羽ごと客に食わせながら平然と半額請求してきよって~!あの顔が何でこんな時に出てくるかなぁ…(ちなみにそのK屋は今でも営業しています)。

とにかく、目の前に並んだ二つの皿を眺めながら、走馬灯のごとく脳裏に蘇る記憶の数々を打ち消しつつ「う~ん、もし虫だとして、これは重要なタンパク源かも知れんではないか!」などと考えながら、決心つくのを待ってると、後から出てきた皿にのった肉団子から、今度は謎の黒い毛が出てるのを発見!「これは…間違うことなき毛であるが…動物の毛か、それとも料理人の毛か??」目の前の第一ハードルで頭一杯になっていたのに、いきなりその向こうにもハードルがあったので、しばし愕然とし、思わず周りの人々をぐるりと見まわしました。すると、何故かハイソな雰囲気でナイフとフォークを上品に使い、食をすすめている皆さん!「う~ん、これは動じてる場合じゃないぞ。まだ次のハードルが控えてるかも知れん…」そう思った私は、意を決して、まずは肉団子から出た毛をつまんで引っ張ってみることにしました。「うりゃっ!」…すると、それが結構長いではありませんか!出てきた毛をテーブルの白いクロスの上に置き、私は分析を始めました。う~ん、わからん。動物といえば動物の毛にも見えるが、案外、野性的な料理人の毛かも知れん。テーブルの上に置いた毛を凝視する私を、ウェイターのオジサンが怪しんで横目で見ています。う~ん、これ以上不審な行動は出来ん。私は、覚悟を決めて両方食べる事にしました。すると…「!?うまい!!」そう、おいしい。どうなってるんだ??

結局、肉団子は何の肉団子かわからずじまい、謎の毛は動物の毛なのか野性的な料理人の毛なのかもわからずじまいでしたが、あの白い糸の切れ端のようなものは、かの有名な「キヌア」だったのです。スーパー穀物と言われるキヌアは、この頃はまだ日本国内ではほとんど知られていませんでした。煮込むと、中心の部分が透明のタピオカの粒のようになり、胚芽部分?か何か端っこの繊維質が分離してスープに漂うのです。これが虫に見えたんですよねぇ。それ以来、私はすっかりキヌアにはまってしまい、日本に帰ってもキヌアを入手してスープを作るようになったのです。ボリビアではキヌア歯磨きを見つけて、毎朝愛用していました。これも結構、おいしい~!?

その6『オオトカゲ』

2006-05-17 14:07:59 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『オオトカゲ』

ある日広場に出かけると、大きな人だかりが出来ていました。その人だかりの中心から、時折奇声とも叫び声ともとれないような不思議な声が聞こえます。一体何なんだろう?人垣を掻き分けて前の方に行くと、そこには異様な光景が!!

何と、オオトカゲやワニみたいなのが、この、高度3600メートルの街の石畳の上で、何故かノタノタと動めいているではありませんか!?しかも、上半身裸で東西南北どっから見ても怪しい浅黒い肌の男が、人だかりとオオトカゲ達の真ん中に立っていて、手にマヨネーズのような…何だかよく分からないものを持って口上を述べております。何を言ったのか早口でわかりませんでしたが、人だかりから「オォ~ッ」と声が上がると、突如手に持ったマスタード色の、マヨネーズのようなそのよくわからんものを自分の背中に塗りたくり始めました。そして腰をグイッと落として背中をオオトカゲの方に向けると…何とオオトカゲ達が男の背中に前足をかけて、塗りたくられたマヨネーズみたいなのを舐め始めたのです。それと同時に湧き上がるどよめきの声!目を伏せる群集…!
「うおおおおおお!」「ひいいいいい!」

…う~ん、はまれない…この状況に。何をやっとるんだ、この人達は。背中を舐められながら、どこか得意な表情を浮かべる浅黒で細身の男に、半ば脱力…と言うか、ズッコケそうになっていると、小さな男が帽子のようなものを持って、観衆からお金を集め始めました。入れるのか?この芸に…金を??て言うか、これは芸なのか??私の予想とは裏腹に、帽子というか袋には、次々に小銭が入っていきます。「う、うけてる…」そう、うけているのです。よく見ると、オオトカゲだけじゃなく、広場は何だか興味深い人々で溢れています。広場のあちこちに紐をぶら下げた男達がウロウロしており、その辺に腰掛けてたり、オオトカゲのような芸を見入ったり、街頭演説をする男の話に野次を飛ばしたりしています。年齢は結構高いみたいだけど、このオジサン達は一体何やってるんだろう?

これは後日わかった事なのですが、この人達は朝一番に、あのオバちゃん達の屋台と荷物を担いで村から街に運んでくる仕事のオジサン達だったのです。朝、屋台がセッティングされると、夕方にオバちゃん達の仕事が終わって屋台を片付けるまではやることがないので、こうして屋台を運ぶのに使う紐を肩からぶら下げて、出番が来るまでブラブラしてるんですね。そんなオジサン達や、山高帽にステッキを持った怪しげな爺さんが、靴磨きの子供に混じって、辺りをウロウロしてるのです。何か奇妙な空間…。

ふと横を見ると、石のブロックの上に腰掛けたオジサンが、顔の表情を次々に変えています。何があったのか?口をゆがませたり目をむいたり…一瞬、おかしくなっちゃったみたいです。思わずビビッて横目で見ていると、通りの向こう側にも同じ様なヘンテコな顔になっている爺さんが…。そう、通りのこちらとあちらで、なんと大の大人二人が昼間っから「にらめっこ」をしているのです。しかも、ステッキをクルッと廻したり、なかなかかわいい。こんな風に、広場でじっと座ってるだけで、何だか不思議に退屈しない。それどころか、出来ることならじっと見てたいような魅力的な謎めいた人々がいっぱいなのです。

その5『効いたよ!?』

2006-05-17 14:06:29 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『効いたよ!?』

その謎の薬を飲んで横になると、ボーイの彼は少し掃除をしながら、「ところでボリビアに何しに来たの?どこか行きたいところあるの?」と私に話しかけてきました。天井をぼんやり見ながら「子供の頃からケナ(ケーナ)を吹いてるんだよ。だからずっと南米に来たかったんだ。」と答えると、突然彼は元気な声で「じゃ、ケナ持ってるのか?」と言ってカバンの方に目をやりました。「もちろん、あるよ。日本の竹で作ったヤツが。ボクが作ったヤツ。」私は、日本とアンデスの空気の中で、同じ笛の音がどう違うのか試してみたくて、日本の竹で作った笛を持ってきていたのです。ボーッとしながら、そのうち元気になったら吹いてみようかな…♪なんて思っていると、「それはすごい!今出して!見せて!今吹いて!今!」と騒ぎ出すではありませんか。この~っ、たった今、高山病の頭痛で苦しんでるの見たとこやろ~!何の薬かわからんような薬飲まされて青ざめてる、可哀そうな日本人青年つかまえて、今!今!って、一体何言い出すんじゃぁ~?!思わずのけぞってると、「音楽がすごく好きなんだ。ボクは出来ないけど。聴くのは大好きだし、いつも聴いてるよ。日本人のケナも是非聴きたいな~!」と、またもや屈託のない顔で罪な要求を…ホントに、あんまり考えんと喋っとるな、この男は。

「いや、今、頭痛いから、また今度ね。」「ちょっとだけ!今、ちょっとだけ吹いて!すごく聴きたいから。」くくく…どう言ったろか、この男。「高山病で(酸欠で)頭痛いんだよ。笛なんか吹いたら…」「そういう時に吹いたら、頭痛いの直るよ。だから、今吹いてみて!」「んん??いやいや、頭もっと痛くなるだろ?」「笛を吹いたら元気になるから、頭痛いのも直るよ!そういう話を前に聞いた事ある!」どんな話や、それは!?お前がただ元気になるんとちゃうんかぁ?!大体誰や、そんなこと言うヤツは…困りながらも彼の強烈な押しに負けて、私は仕方なく笛を出し、簡単にチョチョッと吹いてみることにしました。重い体を起こして、笛を構え、息を吹き込むと、二、三音で「…すごい音だねー!!」と彼が感嘆の声を上げました。しかし、驚いたのは私の方でした。あまりに突然の体験だったので、思わず笛を口から離しました。音が信じられないくらいに「とおる」!響きが勝手に大きくなるような、音がスパーンと四方に抜けていくような、それは日本で体験したことのない、全く新しい感触だったのです。

よく「音の違いは楽器の違い」と端的に考えてしまう人も多いのですが、空気…その違いが生む響きの違いに、本当に驚いたのです。その後短いフレーズを吹いてみて、彼も喜んでくれたし、何だかもうそれ以上吹く必要もなくなってしまったので、楽器をしまい、再びベッドに寝転びました。音や響きに関する感覚がこっちの人は自然に違うだろうな…当然、奏法に関しても、楽器の製作に関しても主眼が変わってくる…面白い~!一人で部屋で寝転びながら、あれこれと思いをめぐらせている内に、私はいつの間にか眠ってしまいました。

しばらくして目が覚めると、「頭が痛くない!!??」まだ完全ではないけど、あの頭痛が結構ましになっている。時間が経って治っただけなのか、コカ茶が良かったのか、それともラッキーなことに下剤じゃなく本当に頭痛の薬だったのか、それとも笛を吹いたのが良かったのか…?ともかく、効いた(何かが)!!
調子を戻した私は、寝てりゃいいのに、いてもたってもいられなくなって、再び外に出かけました。昨日よりはゆっくりと、慎重に、でも再び暗くなるまで街のあちらこちらを歩きました。そんな風にして、私の最初の2日間が過ぎたのです。

その4『そうでもなかったぁ!』

2006-05-17 14:01:01 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『そうでもなかったぁ!』

ホテルの食事が一番おいしくない…そんな事を知人から聞いていた私は、最初の日から(旅行者はその辺で食べたりしない方がいい…と本には書いてありましたが)路上で何か食べてるオバちゃん達に近づいていき、そこでオバちゃん達と同じ物を注文して、そのまま地べたに座ってオバちゃん達と一緒に食べていました。また、これが美味しそうに見えるのです。米はタイ米のような長粒米で、でっかい鍋で湯がいて布にあげさらしたものでパサパサしています。トウモロコシの粒は大きさも色もまちまちで、でっかいのはやたらでっかい。これも少し粉っぽいのですが、それをシチューのようなものにからめたりして食べます。とにかく、色んなものが初めて食べるものなので調子に乗ってあれもこれも食べたくなってしまいます。

そんな訳で、腹ごしらえもして元気になったので、更に歩き回り、その日はそのまま暗くなるまで街のあちらこちらを探索して回りました。「何て楽しいんだろう!歩き回るだけでいろんな事がわかるし。旅って、やっぱりするもんだよなぁ!」夜になってホテルに戻ると、調子よくそんな独り言を言ってベッドに倒れこみ、靴下をベッドの端に干すとそのまま寝入ってしまいました。結構、疲れていたんでしょうね。時間の過ぎ方がとても不思議な感じでした。

そして夜中…突然の激しい頭痛で私は目が覚めました。一体何が起こったのかわからないくらいに頭が痛い!灯りを付けると部屋が妙にゆがんで見えます。しかも、手を見ると心なしか腫れぼったく見える。ほとんど、ちびっ子力士のような手です。「ややや…、やってしまったぁ!!」一瞬のうちに、それは高山病の症状だと悟りました。油断チャンの私は、アスピリンも持っておらず、手元にあるのは日本から持ってきた梅干のみ。深夜だし、これは梅干をしゃぶって耐えるしかないのか?私は顔面蒼白になった自分の顔を鏡で見て、焦ったらいいのか、笑ったらいいのかも判らないくらいに混乱して、そのままベッドに横になり、ゆらゆらと揺れる天井を見ながら朝を待ちました。

頭が軋んだまま、うとうとしながら考え事をしていますと、ルーム・サービスの若い男が入ってきました。「おはよう~♪どう、調子は?」と笑顔で聞いてくるので、重い体を起こしながら「高山病みたい。昨日たくさん歩いてしまったから。頭が痛い!」と苦笑しながら答えました。「オウ、それは良くないですね。お金ある?」ベッドの端にぶら下がった靴下を見ながら、唐突に尋ねてくる彼。「お金?」「そう。薬、いるだろ?」「薬…」「買って来てあげるよ。」

薬というのはアスピリンか何かかな?ともかく、藁にもすがりたい気持ちだったので、彼に幾ばくかの小銭を渡し、薬を買って来てもらうことにしました。すると、持ってきたポットをフラフラかざして「お茶も飲む?」と尋ねてきます。「お茶?」「そう。コカね。一番効くよ~。」彼はそう言いながら茶葉のようなものを持って来ました。これが、噂に聞いたコカか。「噛んでもいいよ~」と彼は言うのですが、コカ茶にも興味深深。まずは素直に、彼が持ってきたコカとお湯で、お茶にして飲む事にしました。これが、なかなかおいしい。気のせいか、少し効いたような気もする。う~ん、後でこのコカがどこで売ってるか聞こう…。

コカ茶を楽しんでいると程なく彼は帰ってきて、ニコニコしながら「どれにする??」と手を広げました。そこには大小色とりどりの錠剤が…なんの薬だ、これは??明らかに種類が様々だ!不安げに私が「こ、これは…?」と尋ねると、にこやかに答える彼。「う~ん、アスピリン?」…なぜ語尾を上げる、この男は…??もしかしてよくわかっていないのでは…。まさかその辺の引き出しから適当に見繕って集めてきたんじゃぁあるまいな??「これは…頭痛の薬か?」私が疑いを込めて強い口調で尋ねると、「大丈夫!何にでも効くよ!」とキッパリ答えやがるではありませんか!何にでも効くって、何を言っとるんだ、こいつは!薬は全部一緒やと思っとるんじゃないだろか??

覚悟決めるしかない…。私は、屈託のない笑顔の彼の手のひらから、占いでもするように二つの錠剤を選び、そのうちの一つを飲みました。神様にでも祈るような気持ちでいると、「OK!!多分それが正解だよ!」とか言ってます。このヤロー!!…下剤とかやったらどうしょう…。違う意味で血の気が引くのを憶えた私でした。

その3『意外にへっちゃら~♪』

2006-05-17 13:59:40 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『意外にへっちゃら~♪』

部屋に独りになり、落ち着いた気持ちになった私は、そのまま少しベッドに横になったのですが、外の景色が…そして空気の感じがすごくきれいなので、思わず起き上がって窓の外を眺めました。するとあちらこちらから人が現れて、通りに屋台のような店を準備したり、急ぎ足でどこかに向かっていたりします。

陽の光が射してきて、辺りに生活の香りのようなものがたちこめ始めたのです。
どんな人達が、一体何をしてるのだろう?と興味が湧いてきて、ついつい外に出て行きました。 「到着してスグはあまり動かないこと」という、高山病にならない為の大切な原則を私はすっかり忘れていたのです。通りに出ると、カラッとした日差しの中にカラフルな衣装の人々が行き来しています。ホテル近くの坂の両側には様々な店が立ち並び、それを眺めて歩くだけでも全く退屈しません。見るもの全てが楽しくて、私はどんどん歩いて行きました。「標高は高いけど…意外にへっちゃらやな!」今から考えると早合点にも程があるのですが、息も切れないし体の調子も良かったので、私は完全に油断チャンになり、鼻歌交じりに街のあちらこちらを歩き回ったのです。

広場に出ると、靴磨きの少年達があちらこちらで店開きをしており、屋台が並んでいて、オジサンが揚げパンのようなもの(ピロシキやサモサのようなもの)を売っていたり、オバちゃん達がジュースを売っていたりします。オバちゃん達のジュース屋は、果物がそのまま並んでいて、普通の果物屋さんのようでもあります。グレープフルーツのジュースを注文したら、専用の道具で次々にグレープフルーツを取り出しては絞っていき、瞬く間にコップ一杯以上の果汁が溜まりました。何て贅沢なジュースでしょう!その果汁をジャバジャバとコップに注ぎ、私に差し出してきました。これが、とんでもなくおいしい!思わず一気に飲み干すと、「ヤパ!」とオバちゃんが言っています。 何の事かと思っていると、空(から)になったコップをムンズッとつかみ、残っていた果汁を更に注ぐのです。「まだあるの?!」と驚いていると「アンタ、どこから来た?」とオバちゃんが尋ねてきました。「日本から」と答えると「ヤパという言葉を覚えときなさい。役に立つから。アンタにこれから一番必要な言葉よ!」と教えてくれました。どうやら、「おかわり」と言うか「残り」と言うか「オマケ」と言うか…そういうもんらしいです。味をしめた私が、その後オバちゃん達のジュース屋台で毎朝「ヤパ!」を連発していたのは言うまでもありません。

その2『意外に寒いかも…』

2006-05-17 13:57:31 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『意外に寒いかも…』

生まれて初めての長時間の飛行機旅行。ボリビアの首都ラ・パスに着いたのは、まだ朝モヤがかかる早朝でした。さすがに標高が高いだけあって、寒い…。限りなく空(カラ)に近い小型スーツケースをガラガラと転がし、肩には小さなナップ・ザック一つ。Gパンに薄手のネル・シャツ一枚の私は、チラホラと周りに散らばっている観光客の中でも妙に浮いていました。考えてみたら、こんな家から学校に行くような格好で標高3600メートルの街の空港に降り立つお馬鹿さんがいるだろうか…。バッグ・パッカーより、荷物の中身少ない気がする。

まぁ、安い服でも現地調達して…と呑気に構えていたのですが、降り立っていきなり寒いのです。服くらい、もうちょっと持ってきてもよかったんじゃないのかな~、なんて軽く後悔しつつ、朝モヤを眺めながらボーッと突っ立ってると、読めるか読めないかのキワどい字のプラカードを持って、異常に濃い顔の男がこっちを見ていました。

近づいてゆくと、なかなかワイルドな字で「TARO」と書いてあります。知人を通して予約を入れておいたホテルの人が迎えに来てくれていたのです。私がタロー、とわかったハズなのに、無言で私を凝視しプラカードを持ったまま突っ立ってる超濃厚顔の男。

「はじめまして!」と覚えたてのスペイン語で挨拶すると「…アウ!?」という、勢い余ったような謎の声を上げるその男に、ホテルの車…などでは決してなさそうな軽のバンに乗せられ、軽く誘拐されたような気になりながら、そのまま街に連れて行かれました。次第に近づいてくる街の風景を眺めながら、「そういえば、高山病ってあったよなぁ…あれってどうなるんだったっけ?」とこれまた呑気に考え込んでると、先ほどの濃い顔の男が運転しながらスペイン語で、しかもやたら早口で何か言ってます。それがまた、私に言ってるのか独り言なのか、非常に微妙なのです…。ちなみに私は、スペイン語の小さな辞書をパンツのポケットにしのばせていましたが、あらかじめシッカリとした語学の勉強をしていた訳でもなく、全く聞き取れません。

そのまま黙っていてもバツが悪いので、思い切って自分から話しかけてみました。ところが「ホテルは遠いの?」「近い!」「寒いですね」「そうだ!」「高いからかなぁ…」「高いぞ!」…などと、なんか意図してる訳ではないのに、やけにスパーンとした直球会話になってしまいます。至近距離で、しかもバスケットボールかボーリングの球でキャッチボールしているような感じ…。このリズムが、こっちの普通の会話リズムなのかな??などと考えていますと、やがて石畳の坂道を下り、程なくホテルの前に着きました。

朝早いので、辺りは人もまばらで本当に静かです。ホテルの中もまだ暗くって、何の建物か一瞬わからない感じです。エントランスに入ると若い男がやって来て、足早に荷物を部屋に運んでくれました。部屋に独りになって、初めて「あぁ、自分は今ボリビアにいるんだ」「あの写真でしか見たことのなかった土地に今独りでやって来たんだ」と不思議な実感が湧いてきました。

その1『憧れの地へ…』

2006-05-17 13:56:40 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
『憧れの地へ…』

「南米・アンデス」…この言葉を、私は子供の頃から不思議な憧れと共につぶやいていました。12歳でアンデス山岳地域の縦笛ケナ(ケーナ)と出会い、それ以来その音色や音楽、背景にある文化や土地そのものに惹かれ続けていたのです。漠然とその頃から「大学生くらいになったら行く事になるだろうな」と思っていたのですが、いざ大学に入ると何故か卒業するまでの4年間もの間「いつか行く事にはなるだろうけど、そのタイミングはまだだ」と思い続けていたのです。

これは、子供の頃から音楽をジャンル分けして聴こうとはせずに、ピンとくるものは全て「魅力的な音楽」と感じ、好奇心の対象が南米だけではなかったことも大きな理由かもしれません。大学生活の間に、訪れてみたい場所、というのが南米だけではなくなっていたのです。そして大学を卒業し一年が過ぎようとしていた頃、私はこの地の音楽を舞台で仕事として演奏するようになっていました。アンデス地域の音楽や楽器については、ケナ(ケーナ)を始めた頃から自分で色々調べていましたし、レコードに収録されている曲やラジオ・テレビで聴き覚えた曲を、日頃から普通に演奏していましたから、舞台で演奏するということについても、演奏している音楽の内容についても、「普段の事」「日常の事」のような感覚があり、それについて特別な疑問は抱いてはいませんでした。

ところが舞台で演奏するようになると、もちろんの事ながら人前での事ですし、初めてそういう音楽や文化に接する人もおられる訳ですから、責任も生じてきます。そのうち、あらためて「これは本当に彼ら・彼女らの音楽なんだろうか」「昔からこういうものが本当に演奏されていたんだろうか」「自分がやってる事は文化の紹介なんだろうか、それとも他の何かなんだろうか」…と、次第に舞台でやることや、自分が演奏している音楽そのものに対して、自分で様々な疑問を持つようになっていったのです。特に楽器の奏法や音楽に対する考え方や姿勢など…「本当のところ、どうなんだろう?」と。

おそらく「現地に行ったから」「向こうの人に習ったから」といって、真実を知る事ができる・深く理解できる、とは限らないでしょう。人間はいつも見たいものを見たいように見ようとするものですから、場合によっては、新しく見聞きしたもので、かえって過去の思い込みを強化する事もあるでしょうし、見ていながら見えていなかった…というようなことも我々には多多あります。しかし、その頃私の中では「自分はこの音楽・楽器に惹かれて演奏を始め、今も日常で・舞台で演奏し続けているけれど、本当のところはそれで何がしたいのだろう?」という、自分への問いかけが高まっており、直にその土地や人に接する中で確かめたいことや試してみたい事が山積みになっていました。 音楽の中身以上に「自分自身について本当に知りたい」という気持ちが大きくあったのかもしれません。

そんな理由から、突如私はペルー・ボリビア行きを決行したのです。