タローさんの、トコトコ♪エッセイ

アーティスト・きしもとタローの、旅の話や、夢日記、想い出話など…

『ワニ神社の狛犬…いや、ワニ犬?』

2006-06-09 19:06:35 | 狛犬 こ♪ま♪い♪ぬ


皆さんはワニ神社という神社をご存知でしょうか?佐賀県の吉野ヶ里遺跡の左上辺りにある小さな神社です。「ワニ」…というのは看板で「鮫神社」と書いてあることもあり、何だか海にいるコワいヤツのようですが、実は日本に漢字と儒教を持ち込んだという伝説の人「ワニ博士(王仁とか和邇吉師って書いてある人)」の事らしいです。

伝説…っていうことは、実際にいた人かどうかわからない…ということなんですが、僕は歴史家ではないのでその辺りのしっかりした検証は出来ません。当時の記述は政治的要請の元に書かれた物が多いし、基本的に記した人々の都合や思惑が反映された上で書かれていたものが多いですから、検証も実際難しいのかもしれません。

ともあれ、ワニさんは古事記や日本書紀や続日本紀とかに登場するだけで、百済から来た漢人系の人らしいのですが、大陸の方の文献にはそれらしき該当者が記されていない…という不思議な人なのです。4世紀後半の人で、論語10巻と一面漢字熟語の千字文を天皇に献上したとされているのですが、千字文はもうちょっと後の時代に完成したものだし、文脈的につじつまが合わない点が多いそうです。確かに、もっと昔から漢字文化はチョコチョコ入ってきてる訳だし、人も渡来してるから…「彼が最初に日本に漢字を伝えた」って話には無理がありそうです。大阪の枚方にある「ワニ(王仁)さんの墓」とされる所も、地元の人が「オニさん」と呼んで拝んでいた石を、江戸時代のある学者が古文書をもとに「これが王仁の墓に違いない」と言い切って、そうなっちゃった所らしいのですが、本当のところはよくわかりません。

そうやって当時、色んな文物を大陸から日本にもたらした人々を、一緒くたにしてシンボリックに「ひとりの賢人」として伝えたのではないか、とも言われてるそうで、そうなってくると、そういう偉人達の集合体のような存在として考えたらいいのかも知れませんね。ワニさん物語は、そういう意味では「神話の部類」に近いと思います。本当か嘘か…という問題よりも、そこから何を読み取るかの方が重要、ということですね。

で、このワニ神社…看板には鮫神社とも書いてあるのですが、確かに古くは鮫(サメ)をワニと呼びもしたようですね。考えてみたら、ワニ(鰐)は航海の守護神である金毘羅さんのサンスクリット語源クンビーラでもありますから、渡来人にまつわる神社にこの航海の守護神の名前がついているのも何となく意味がありそうです。神社の周りには花がワンサカと植えられていて、何だか小さくて綺麗な所でした。

さて、ここの狛犬…狛犬というか石像…神社を守護しているわけではなく、奥の方の祠の脇に対で置かれているのですが、コイツラが何ともいい顔!一瞬、カエルかと見紛うような、前頭葉のない頭にどこか情けない口!思わず…ナデナデしたくなります(実際したけど)。コイツラは一体何者なんだろう??一般的な神社の狛犬&獅子に見られるような「阿と吽のペア」ではなく、二匹とも同じようにしまりのない半開きの口…いや、これは一応閉じているのか?

渡来人や海にまつわる祠には、その昔、舟の重石として載せられていた航海の安全を守る守護獣の石像が、そのまま陸に上がって狛犬のようにして神社や祠に置かれている場合がある、と聞いた事があるのですが、その話を彷彿とさせる風貌です。もしかしたらサルかもしれないな…神使のサル。いや、口がそれこそワニっぽいから、これはもしかしたら航海の守護神獣・クンビーラかもしれない!ワニにしては可愛すぎるけど…足はサリーちゃんみたいだし。
ともあれ、船に乗せるのなら、こういうヤツがいいな。(下の愛くるしい写真参照)


 





『ラブ!狛犬(こまいぬ)』

2006-06-02 19:55:27 | 狛犬 こ♪ま♪い♪ぬ
実は、僕は狛犬(こまいぬ)が結構好きで…神社を巡ると思わず狛犬の写真を撮ってしまうのです。特に「これは何の動物じゃ!?」という謎の生き物バージョンや(考えてみたら、狛犬自体が霊獣とか想像上の動物って言われてたっけ)「おっさん、力づくで無理やり彫りよったな~!」という農村神社の強引作品、「どうした~、何があった!?」と思わず不安になる憂い顔の狛犬、「お前は…絶対、雑種犬やな!」と決め付けたくなるような愛すべきアホ顔の狛犬などは、心惹かれて何枚も撮ってしまいます。
守護獣的な役割として置かれてるはずなのに、あんまし仕事しなさそうなヤツとか獅子なんてのには見えないようなヤツに、何故か心惹かれてしまうんですよね。(下写真は、妙見山のペチャ顔ペア。結構かわいい…攻撃力低そうで。日向ぼっことかしか、してなさそう。)

 


ご存知の方も多いとは思いますが、狛犬起源には諸説あります。巷でよく見られるものは、口開けた「阿」と、口閉じて頭から角生えた「吽」がペアになってるヤツですね。前者が獅子で後者が狛犬…つまり大体は「獅子&狛犬」のセットになってる訳ですが、阿吽のセットにはなってるけど二匹とも角なし…ってのも結構あるみたいですね。それでも「獅子&獅子」とは呼ばずに、やっぱりまとめて狛犬って呼んでしまう。どうも日本人は獅子よりも犬の方がイメージ的に親しみがあるんでしょうか。番犬感覚があるから、門の近くにいるやつは反射的に犬と呼んじゃうとか…。近代の獅子&狛犬はもうすっかり獅子デザインが主流のように思えるのですが、ネコ科とイヌ科(?)で同じようなデザインにするのも何だか力づくですね…文化の同居が習わしになってきた日本の歴史的土壌を考えると、それもアリなんでしょう。ともあれ、一緒に置かれてるから姿形は似て来てるけど、獅子は獅子、狛犬は犬、と呼ぶからにはそれぞれ異なるルーツがありそうですね。


『ネコ科かイヌ科か??』

獅子自体は、古代オリエント世界…中近東辺りの発祥で、インドや中国を経て入ってきたライオンの漢化バージョン(唐獅子)が元になってると一般的に言われてますが、ネコは古代エジプトでも神聖な獣だったし、ライオンとなると百獣の王ってことで万国共通?そのままで王位や権力の象徴になるから、羽とかトッピングされたりあれこれデコレーションされたヤツも含めて、王位のシンボルとして、又その守護として世界のあちこちで使われていますね。日本で見られる獅子でも、近代のものや大陸系のものは大体揃って威嚇したようなイカツい顔つきだし、確かにネコ科のスペシャル・バージョンって感じがします。それぞれに味わいはあるのですが、力や権威の象徴っぽい雰囲気がもろに出てるのも多いから、そういうのは個人的にはちょっと苦手かも…特に大陸系のイカツいのがそのまんまで同じ顔つきで二体置いてあったりしたら(大体そのパターンだけど)、否応無しに王宮臭や政治的威圧感が高まります。この「獅子=王位の守護」的発想は、もともとは八百万の神の神社発想ではないような気もします…。(下写真は山口の錦帯橋とこの神社の獅子…結構上の方からこちらを見下ろしてて、はっきり言ってコワイ。魔界の使者みたい~ 神社に入られんやないか、そんなとこで睨みきかしてたら…)



一方、ちょっと昔の獅子っぽくない狛犬達…特に農村神社の狛犬達。こいつらはどうもイヌ科の雑種の匂いがする!狛犬はもともと宮中にあった木製?の守護獣像みたいのが、同じ守護系の仁王像セットを真似て阿吽の対になって、日本で阿吽ペアが定番になったそうです。もしかしたらこの時代に犬と獅子がセットになってお互いに似てきたのかもしれないけど…この連中がそろって宮中から出てきたのは、それからずっと後の時代になってからだそうで、もとは宮中の雅な方の守護というか…お傍に仕えた聖獣像だったんでしょう。
で、そのモデルなんですが、犬だけど普通の犬じゃないような…以前、「チベットから中国に持ち込まれた狆の祖先犬じゃないか」とか「シーズーの元になった原種のチベット・ワンコじゃないか」という見解の文章を書いておられる方がおられましたが、僕はこれに大賛成です!個人的には素晴らしい説だと思いました。あの目と鼻と耳はどう見てもそうでしょう。ワンコも鼻がペチャになって、毛が長くなったら、ネコにしてはデカい…ちょっと神がかって見えるネコ科の新しい動物…みたくなります。(この辺りから妄想のほうが走っておりますので、お許し下さい)

コマ・イヌという場合のコマが高麗だったら高麗犬になっちゃいますが、これはもうちょっと後からの当て字臭いし、朝鮮の意味の高麗ではないですよね。狛犬の狛は漢字としてはもともと中国の辺境を指す言葉らしいですが…そうならば、胡人と呼ばれた人々が弾いていたとされる胡弓とかと言葉の由来パターンは同じです。漢人が自分たちの住んでる所から見て辺境にあった場所の珍しくて変わった犬を「狛の犬」と呼び、そんな風に紹介された日本人がそのまま「狛犬」と呼んだとすると、すごく自然…。狆の原種なら目もクリクリで可愛かったでしょうねぇ。他のイヌと違って、鼻が出てないわ、毛はあちこち長いわで、初めて見た人にとっては、ただ単に可愛いだけじゃなくて、どこかこの世のものじゃないような、不思議な感じがしたでしょう。で、可愛くて不思議な犬でも、大概は動物の方が飼い主より先に死んじゃうから、きっと宮中でそばを駆けずり回ってたラブリーな犬がポックリ死んだ時は、雅な方々も大ショックだったと思う…そして、死んだ後にその姿をかたどって作られたヤツとかが「死して尚、主人に仕える」「あの世から神獣となって生ける人々を守る」…てな感じでポコポコと宮中のあちらこちらに置かれていたかも知れません…いや、僕なら置きます!

神社で元・宮中人が神格化された神像を祀り始めてから、神社の中に狛犬も置かれるようになったのだろう…って読んだことがあるんですが、これも信憑性がある話です。雅な方が亡くなって、いわゆる人間神みたいな感じで人形(ひとかた)の神像として神社で祭られるようになると、傍に仕えていた神獣像も、それにくっついて宮中から出てきて神社の神像の横に置かれるようになった…そういう流れは非常に自然です…。でも、神社は敷地全域がいわば聖域だから、そのうち石製のものが増えて神社の入り口に置かれるようになった、というのも日本的宗教観から言うと自然かもしれません。犬なら番犬ぽく門に置かれるかも知れんし。いや、せっかくの暢気面たちを、気持ちのいい外に連れ出して日向ぼっこさせてやろうと思ったとか…。う~ん、勝手な妄想が走る。連中も暢気面ばかりじゃなかろうに。

そんな訳で、狛犬の方の起源の「宮中にあった守護獣像」は、もともと獅子とは全く関りなく、もしかしたらマジでそのまま「犬」だったのかも知れません。だって、連中は犬の匂いがプンプンします(感情論?)。王位の象徴って感じがするのは近代のものがほとんどだし、獅子の方が結構後からじゃないのかなぁ(勝手な想像)。ネコ科イヌ科の二体が並べられて同化していくのにも、どっちに寄ってゆくか…みたいなパターンがあったかも知れません。祀られる対象に対して昔ながらの八百万の神々・感覚みたいのが強いと、隣の獅子もワンコの方に似てきて、祀られる対象に対して大陸的な権威っぽいイメージが強くなってくると、今度はワンコも獅子化してきた、とか…。う~む、強引??

ともあれ狛犬の方に関しては、犬って呼ぶからには、宮中で発祥した際に、何かしら実在した犬のモデル…たとえば死んだら神格化されそうな風貌のワンコがそのまんま、いたんじゃないか、と思えませんか?(というか僕がそう思いたいだけなのですが)
もちろん、日本じゃ獅子も…モデルとなってるライオンなんてのも、ほとんどの人が実物見たことないから、無理やり想像で獅子作ろうとして、身近な動物思い浮かべながら作ったら、いつの間にかやたら犬っぽくなった…てのもアリだとは思いますが。そんなことだったとしても、それはそれで憎めなくて面白い。時々地方の神社を訪ね歩くと…明らかに資料なしで無理やり妄想膨らませて作った謎獅子とか、いつの間にか身近な別の動物に似ちゃった「やってしもた狛犬」がありますもんね!まぁ…そんな風にいろんな妄想が膨らむところも狛犬のいいとこです。(下写真…大宰府の最近作られた新しい狛犬ども。こいつら、獅子の振りしてるけど絶対狆かシーズーの仲間!この無邪気さは両方ワンコやろ!…と思いたい。)