タローさんの、トコトコ♪エッセイ

アーティスト・きしもとタローの、旅の話や、夢日記、想い出話など…

その11『ズなんだか、ルなんだか…』

2006-07-21 13:15:48 | アンデスの国…ペルー・ボリビア編
その11『ズなんだか、ルなんだか…』

これまでのお話で、何だか私が面白いものや変なものばかりに惹かれて、日々を送っていたかのように思われた方も多いかも知れませんが、一応!音楽をやる者として南米を訪れているわけで、基本的には、やはりお祭りだとか楽器屋だとか、音楽演奏が聴ける場所なんかに心惹かれるのです。ご存知の方も多いとは思うのですが、ボリビアのラパスの街にも音楽が聴ける店(居酒屋?)「ペーニャ」が幾つかあり、その中でも「ペーニャ・ナイラ」は昔からアンデス系の音楽ファンには有名で、一般の観光客の方々にも良く知られている所です。私もボリビアに着いてさっそく、このペーニャを訪れました。

この店では様々なグループが出演し、演奏を繰り広げるのですが、私が訪れた時は店の中を見渡すと比較的観光客が多い客層で、この店がコースの中に含まれたツアーでも組まれてるのかな~と言った感じでした。学校の教室のような感じの机とイスが並べてあり、ここで本当に演奏が始まるのか…?と一瞬不安になるような店の中身です。いざ始まってみると、いわゆる日本でフォルクローレと呼ばれているスタイルの音楽が次々に演奏され、なかなか賑やかで雰囲気はたっぷりです。

ただ、私が完全な観光客なら、どれも目新しく楽しめたのかもしれませんが、なまじ自分も演奏するものですから、基本的には楽しみながらも、やはり「特別にうまい演奏家」や、「古いスタイルの音楽」にしか、自分が大きく反応しなくなってるんですね。「せっかく南米にまで来ているのだから、日本では聴けなかったような音楽が聴きたい、ここまで来ないとこれには出会えなかったな、というような音楽に接したい」、そんなふうな想いが強かったんでしょう…お酒も飲みながら手拍子して盛り上がってる客の中で、何だか一人だけ冷めて聴いてるみたいで、ちょっと肩身が狭い…。

もちろん、どのグループの演奏もいい感じで、好感が持てることは確かなのですが、中でも、結構ご年配の方が中心になって孫とかと組んでるグループ、特にそのご年配のリーダーのオッチャンが(名前忘れた!)なかなかいい味を出して演奏するので、そのオッチャンの一挙一動、リズムの取り方や体の動きには思わず見入ってしまいました。やはり、音楽が気に入ると、その人の身体の使い方や話したりする時の感じに興味がいきます。歩き方が違うと、リズムの取り方も違いますからね。

そして最後に出演したのが、ノルテ・ポトシという有名な北ポトシの音楽を演奏するグループでした。この辺りの音楽ではあまり笛は使いませんが、私はポトシの音楽や、このグループの音楽が結構好きで、目の前で演奏を聴くのを楽しみにしていたのです。カランペアードと言われるチャランゴの独特の弾き方…特に右手の使い方には思わず見入ってしまいます。ギターも味があるし、歌は…とにかく魅力的です。何か日本の、リズミカルな民謡を聴いているような感覚にもなるのですが、ポトシの音楽はメロディーもシンプルで、人懐っこいと言うか…明るくて親しみが持てるものが多いように感じます。どこか「屈託のない田舎っぽさ」のようなものが漂うので、好きなのかも知れません。

ラパスは、部族名や言語で言うとアイマラ族…アイマラ語を使う人達が多数派の街だそうですが、ポトシの出身の人達はケチュア語を使う人達で、彼らの音楽には、アイマラ語を使う人達の音楽とは少し異なった趣があります。私が訪れていた時は、丁度彼らの「プトゥクゥ、プトゥクゥ」という曲がラパスで大ヒットしてて、どこを歩いてても街頭でかかっていた為、頭の中をいつもそのメロディーがグルグルとまわっていました。

そして、彼らの演奏は…その夜の演奏者の中ではダントツに良かった!(というか、単に私が気に入ったのですが)お客さんが酔っ払って無茶苦茶な手拍子の応酬で客席をリズムのカオスにしていたのにも関らず、一糸乱れぬノリで演奏し続け、とにかく元気一杯の舞台を見せてくれました。で、演奏が終わってから色々彼らに尋ねたいこともあったので、お客さんがほとんど出払うのを待って、楽屋の方に行ってみました。

入り口の近くに、ボーッと立る男がいたので、「ちょっと、すみません。ノルテ・ポトシのリーダーのルベンに会いたいんだけど」と話しかけました。すると、男はキョトンとして「ル…誰??」と怪訝な顔つきをするので、もしかしたら聞こえにくかったのかな、と思い私はもう一度「ノルテ・ポトシの、ルベンに会いたいんだけど」と繰り返しました。「ルベン…?ルベン…。誰、それ??」「え?ノルテ・ポトシの…」「んん??そんなヤツ、いないけど」…いない?いないって、どういうことよ。私はポケットから紙を取り出し、彼に見せました。リーダーの名前を知人に書いてもらったメモがあったのです。確かにそこには「Ruben」と書いてあります。「ほら、この人。」
すると、男は紙を見るなり、のけぞって「オオオオ~ゥ!!ズベンじゃないかぁ~!」と大声で叫び、「チョッと待ってて、呼んでくるヨ~」と笑顔で楽屋に入っていきました。ズベン?ズ…ベン??何でこれがズベンになるの?確かに、紙にはハッキリとRubenと書いてあるが…どういうこっちゃ。

全く訳がわからなくて首を傾げてると、楽屋から彼が出てきました。なんか身体も大きくて顔も大きい…。「おおおおお、日本から来たのか!○×とか、△☆とか、知ってるかぁ?」と、私の知人の名前を列挙しながら、力士みたいなデカイ手を差し出してきてブンブンと握手するので、「知ってる、知ってる」と揺れながら答えると、「ボリビアにようこそ~!俺がズベンだ」と自己紹介するではありませんか。「ズベン?」「そう、ズベン!」
おかしい。紙には確かにRubenという字が。「これ、Ruben(ルベン)って書いてあるんだけど。」私が紙を見せると、んんん?と覗き込んで「そうそう!ズベン。俺の名前ね!」と誇らしげに言うではありませんか。「あの、ルベン…だよね?」私が怪訝な顔で確認しようとすると、「んん?ズ・べ・ンだ、ズ・べ・ン!」と更に強調します。「じゃ、この字は…間違い?」「いやいや!!合ってる合ってる!これでいいんだ!」…?わからん!?スペイン語には、私の知らない読み方もあったのか?それとも、こっちの人のもとの言語的にはRはZ発音か何かなのか??

また日を改めて再び会うことを「ズベン」と約束し、その日はホテルに帰ったのですが、どうも腑に落ちない。なんで「Ru」が「ズ」になるんだろう…。そんな調子で次の日も朝から悶々としながら散歩してると、気が付いたらえらく遠くまで歩いていってしまいました。午後のお茶の時間に知人に会う約束をしていたので、それまでは時間があります。そうだ、日本に葉書を送ろう、と思いついて、郵便局までタクシーに乗ることにしました。この辺りでは「乗り合いタクシー」なので、タクシーをとめたら行き先を告げて、それがそのタクシーに既に乗っている人の行き先と方向が違ったりしたら、乗車は断られたりしてしまいます。ちなみに、この辺りでは技術的熟練者…に対しては、マエストロと言う言葉を比較的軽く使うので、タクシーの運転手に対してもマエストロ、と話しかけます。運転技術の熟練者って感じでしょうか。マエストロって、日本人が思っている程、ここラパスでは特別な呼びかけ単語じゃないんですね。

「マエストロ、郵便局(correo…コレオ)まで行きたいんだけど」タクシーの窓を開けた運転手に行き先を告げると「んん??どこ??」と、これまた怪訝な顔つきをされるではありませんか。またもや、発音が悪かったんだろうか。郵便局と言う言葉は「correo」と、rが二つ並ぶので、巻き舌系の強い発音なんですよね。もっと「ちゃんと」言った方がいいのかな、と思って大げさにrを強く発音しながら「コレオ、コ・レ!オ」と言ってみました。ところが、マエストロは「なんだ~??どこだ、それは??わからん!」そう言うと、早々にアクセルを吹かして立ち去ってしまいました。う~む、悲しい。

再び悶々としながら次のタクシーが通りかかるのを待ち、気を取り直して次のタクシーがとまったところへ「コ・レ!オ、コレオに行きたいんだけど」と大きな声で、窓から顔だけ出したマエストロに主張しました。すると「あ~ん?それは、どこのこと??」と、またもや怪訝な顔つきのマエストロ。思わず葉書をとり出して「これ!これの所に行きたいの!」と葉書を指差しながら言うと、「あ~!コゼオかね!?乗りな!」と後部座席を指差しました。なななな、何?コゼオ??

よくわからないまま郵便局に着き、葉書を出して、それから知人宅を訪れました。そして、この「ルなんだかズなんだか、レなんだかゼなんだか」の話をその知人にすると、ボリビア人の知人は大笑い!小さな娘さんを呼んで、隣に座らせて、その訳を説明してくれました。「この娘もねぇ、最初はRはちゃんと発音できなかったのよ~コレオは、コジェオかコゼオって感じで。ルベンも、ジュベンとかズベンになっちゃうのね。あれは、Rの…赤ちゃん発音みたいなものと考えたらいいかなぁ。最初にスペイン語がこの国に入った時に皆が発音し切れなくてそうなっちゃって、それが定着したのかなぁ。」
…なななな何と、そしたらあれは、オッチャンらも、大人がそろって皆で赤ちゃん発音してるみたいなもんかいな!?自分の名前も、そのままで!?そんな可愛い街なんでしゅか、ここは~!!大阪の町で普通に大の男が「おはようごだいま~す」とか「ポンポン、た~い(お腹、痛い)」とか「~でちゅ!」とか、強面のタクシーのオッチャンが「毎度でしゅ。」とか言ってるようなもんか!?ボリビアの首都ラパス…深いでちゅ~!!!