「正義だと思って、その場のノリでやっているだけなので、当人は罪悪感が薄い」 2021-01-20 00:00:00 | 日記 2021年1月20日、ビル10階の広場に立った少年2人は夜空に向け、数百枚の写真を思いっきり投げ捨てた-。大阪市北区のJR大阪駅ビルで2014年9月、大量の写真が突然、空から舞い散る騒動があった。写真はいずれも同じ男性が撮影されたもの。「誰が、何のために」と通行人らを気味悪がらせたが、“犯人”は鉄道撮影が趣味という「撮り鉄」の少年2人で、「撮影現場で割り込みをしたやつへの嫌がらせ」が動機だった。都会のど真ん中で写真がばらまかれるという衝撃の事件に、ネット空間は沸騰。ばらまいた少年や撮影された男性、果ては「撮り鉄」全体もやり玉に挙げられる事態となったのだ。2014年9月19日夜、人通りの多いJR大阪駅前で通行人の足を止めさせたのは、頭上から突然舞い落ちてきた数百枚の写真だった。写っていたのは、短髪の若い男性。顔がはっきりと分かるアップもあれば、首から一眼レフをかけて電車の優先席に座り、携帯電話を操作している全身の写真もあった。だれもが思ったに違いない疑問に対する答えは、まもなく明らかになった。当時現場近くにいた16、17歳の少年2人が、大阪府警曽根崎署の任意聴取に、あっさりと「自分たちがやった」と白状したのだ。動機は「電車の撮影現場でいつも割り込んでくる悪いやつがいて、面白半分、嫌がらせ半分でばらまいた」というもの。ビルの上から写真をばらまくという派手な“演出”の割に、撮り鉄同士の些細(ささい)なトラブルの延長だったのだ。居合わせた通行人らが気味悪がったこの奇妙な出来事は、ツイッターで投稿され始めると、一気に拡大した。「梅田で誰かの写真が大量にふってるなう」「めっちゃ写真何百枚ってまかれてた!」中には、画像を修正したりせず、男性の顔がはっきりと分かるまま投稿したものもあり、「誰だよ」「氏名もじきに分かるだろう」といったツイートも登場した。男性の顔写真は瞬時に拡散。ネット上には、少年らの軽はずみな行動を批判する声があふれたが、同時に、被害者である男性に対しても、写真をみた印象から「確かにマナー悪い。優先席にえらそうに座ってるからなぁ。こいつ何様って感じ」と攻撃的な書き込みがなされた。そうした結果、被害者とみられる男性は、こう書き込んだ。「俺の写真が大阪駅にばらまかれてる。助けて、死にたい」「撮り鉄やめよかな、辛い、病んでます」今回の騒動がここまで過熱したのは、登場人物が「撮り鉄」だったことも影響しているかもしれない。実際一連のツイートの中には、「また撮り鉄か。ホント迷惑なやつらだわ」などとする投稿もあった。「撮り鉄」がらみのトラブルが時折、話題になったりするのが背景にあるのだろう。「おい、邪魔だ! 下がれよ、こらあ!」「手出してるやつ死ね!」これでは、このような事件が起きるであろう。歪んだ正義感は問題であろう。2014年3月、寝台特急「あけぼの」のラストランを迎えたJR大宮駅(埼玉県)のホームでは、撮り鉄たちの怒号が飛び交っていた。その様子が動画投稿サイトにアップされているが、記録されているのは押し合いへし合いする撮り鉄たちと、耳をふさぎたくなるような罵声(ばせい)。殺気立った雰囲気が伝わってくるのだ。2014年10月には同じ埼玉県のJR上尾駅で、臨時列車を撮影しようとした撮り鉄が興奮し、転落防止のためにホームに進入禁止のロープを張った駅員らに詰め寄る場面があった。同様に動画がアップされたが、「撮り鉄が駅員に暴行して逮捕された」という誤った情報も流れたほどだ。「撮り鉄」のマナーの悪さなどを批判する声はたびたび聞かれる。だが、「撮り鉄」を自称する大阪市内の男性会社員(当時29)は「非常識な行動をするのは、自分勝手な一部の人。その人たちのせいで、同じ趣味を持つ自分たちまで悪く思われるのは、勘弁してほしい」と話した。ネット問題に詳しい神戸大大学院教授(情報通信工学)は「多くの人はそうしたツールを使いこなしているように見えるが、実はそうではない。安易に写真や情報を投稿することの怖さを分かっていない」と警鐘を鳴らした。ネット上には、他人の顔写真や個人情報を勝手にネットに投稿する「晒(さら)し」行為が蔓延(まんえん)している。万引犯を盗撮して晒したり、他人のツイッターから未成年の飲酒写真を引っ張ってきて晒したり…。何も悪いことをしていなくても、気付かないうちに晒されることだってあるかもしれない。いつどこで、自分のどんな情報が晒されているか、分かったものではない時代である。教授は晒す行為を「悪いことをした人に制裁を加えようとする、ゆがんだ正義感に裏付けられている」と指摘する。ひとたび晒されれば、それを見た人たちがあっという間に個人を特定し、ネット上で悪口を言い、ときには学校に通報したり、自宅に嫌がらせの電話をかけたりして追い詰めるのだ。「私刑」と揶揄(やゆ)されることもある。教授は「正義だと思って、その場のノリでやっているだけなので、当人は罪悪感が薄い」と語った。怖い世の中になったものである・・・(井森隆)