1 登別市中学生いじめ自殺事件
(1)事件の経緯
登別市の市立中学1年生の自殺事件について、市が設置したいわゆる第三者委員会の調査報告書が、答申のときには概要だけの公表だったのですが、共同通信の情報公開請求で詳細が開示されその内容が報じられています。
開示の経緯と内容からしますと、第三者委員会は、答申時に、概要ではなく、詳細な調査報告書を開示すべきではなかったでしょうか。
事件の経緯は次のとおりです。
2020年6月22日 中学生の自殺が判明
6月30日 学校アンケート内容公表
7月22日 第三者委員会の調査開始
2021年3月22日 調査報告書答申(概略の公表)
6月 7日 調査報告書開示内容の報道
(2)第三者委員会の調査報告書での指摘
詳細が明らかになった調査報告書には、自殺の一因となった部活動での「からかい」(「デブ」と言われたり、胸をもまれたりされた)を、部活顧問らが「楽しい部活」という名目で放置し、重く受け止めていなかったことが指摘されています。
「楽しい部活」という名目で、というのがわかりにくいのですが、おそらく部活を楽しくやるためには、冷やかされても笑い飛ばして楽しくやれということでしょう。しかし冷やされた本人にとって、先生からそう言われて仕方なく表向きは笑っていても、内心は深く傷付いていたでしょう。
また学校が、いじめ防止指針で、継続性は要件ではないのに、いじめとは「しつこく繰り返される」行為として、いじめの定義を誤って認識していたことも指摘されています。このことは学校全体でのいじめ対応の姿勢が十分ではなかったことを示唆するものです。
2 調査報告書から学ぶもの
(1)いじめと「からかい」
調査報告書が指摘しているとおり、部活の顧問や学校が、「からかい」を「いじめ」として真剣に対応しなかったこと、これが最大の問題です。
からかわれた本人は内心で非常に傷付いているのに、表向きは笑って済ませるしかないことは、その本人にとってどんなにつらいことでしょう。
さらに、クラスや部活で「からかい」や「冷やかし」を受けて傷付き、耐えられずに勇気を奮って担任の先生や顧問に言っても、返される言葉が「気にするな」、「ほっとけ」とか、「楽しくやれ」ではさらに傷付きます。
(2)どうすればよいのでしょうか
いじめ防止対策法第2条1項は、いじめの判断基準は、それを受けた児童生徒が「心身の苦痛を感じているか」によると規定しています。このことは、指針や文科省の通知で繰り返し学校や教員に伝えられています。
しかし、いくら法律に書かれ、文科省や教育委員会の指導があっても、本当にいじめをなくためには、担任や顧問の先生が、この判断基準の「心」と「身」に常に注意を払い、つらい思いを声に出しやすくし、その相談を聞き取る努力をし、真剣に取り上げるかどうかにかかっていると思います。
たしかにこのことは先生にとって難しいことかもしれません。しかし、先生から、「いやなことないか」とか「あんなこと言われて笑っていたけど大丈夫か」などの言葉掛けがあれば、たとえ答えが「大丈夫です」「大したことないです」であっても、敏感な先生ならそれが本音かどうかを察知できるのではないでしょうか。
登別市の中学生いじめ自殺事件の調査報告書で指摘されている学校のいじめ対応の問題は全国の学校のどこにでも起こることです。
この調査報告書を、北海道の一地方都市での一調査報告書に過ぎないと考えることなく、文科省や全国の教育委員会、さらには部活顧問や担任の先生に、この指摘を自らのこととして考えてもらうことを切に希望します。