1 厚労省就活セクハラ実態調査(2021年3月)
厚労省は、2021年3月、就活・インターンシップ経験者1000名を対象に
「就活セクハラ実態調査」の調査結果を発表しました。
この調査結果は新聞でも報道されましたが
非常に衝撃的なものです。
2 「就活セクハラ実態調査」衝撃の結果から
(1)学生の「4人に1人」(25.5%)は就活セクハラ被害を受けている
この調査で、就活セクハラを受けたという回答は25.5%でした。
つまり4人に1人もの割合で就活セクハラの被害を受けていることになります。
調査対象には専門学校卒業生も含まれていますが、最近の大卒者が概ね60万人
なので、この割合でいくと15万人もの就活生がセクハラを受けている
ということになります。
この厚労省調査での一般企業でのセクハラ被害率は、10.2%、
つまり10人に1人でしたので
それよりはるかに多くの割合で被害者がいるということです。
一般企業では男女雇用機会均等法でセクハラが禁止され処罰規定もあります。
しかし就活セクハラはそれよりも被害率が高いのに保護立法は何もありません。
(2)被害の割合が高いのは「男子学生」「大学院生」である
就活セクハラの被害割合の高いのは女子学生だというのが
おそらく一般的な理解でしょう。
しかし調査では男子学生(26.1%)の方が、
女子学生(25%)より高い割合で被害を受けています。
また大学生と大学院生を比べると、
大学院生の方が被害を受けた割合が高くなっていることも
一般の理解とは異なるのではないでしょうか。
(3)就活セクハラは「インターンシップの時」が最も多い
就活セクハラは、面接のときとか、OB/OG訪問のときというよりも
「インターンシップの時」が34.1%で最も多くなっています。
就活生にとってインターンシップは就活として非常に重要なものなので
セクハラに対して拒絶・拒否をすることができないことは容易に想像がつきます。
(4)セクハラ被害には「食事やデートへの勧誘」や「性的な関係の強要」が少なくない
就活セクハラの被害内容としては、「性的な冗談やからかい」(40.4%)、
「食事やデートへの執拗な誘い」(27.5%)のほか、
「不必要な身体の接触」(16.1%)、
「性的な関係の強要」(9.4%)となっています。
就活生はこのような深刻な被害を受けていることを
企業は真剣に受け止めなければなりません。
(5)セクハラを受けて「学校を休んだ」「通院・入院した」という被害が多い
就活セクハラを受けての被害としては、
「怒りや不満、不安などを感じた」(44.7%)が多いのは当然のことですが、
「眠れなくなった」(18.4%)、「学校を休んだ」(14.5%)だけでなく、
「通院したり服薬をした」(11.8%)、さらには「入院した」(3.9%)
という深刻な被害までが生じています。
(6)被害後の行動として「何もしなかった」が最も多い
就活セクハラを受けての行動として最も多いのは「何もしなかった」(24.7%)です。
その理由は「何をしても解決にならないと思ったから」(47.6%)が
最も多いという結果が出ています。
このような泣き寝入りしかないという結果は絶対に回避しなければなりません。
相談先としては、「大学のキャリアセンター」(19.2%)、
「学生相談窓口等」(18.0%)が多いのですが、
割合として決して多くありません。
被害学生にとって、大学に対応を期待できるのであれば、
もっと割合が多くなるはずです。
また、「相談先がなかった」「相談先がわからなかった」という回答が多くあることも
大学等の教育機関としての対策の遅れを示しています。
なお「企業の採用担当者に相談した」(6.7%)が非常に少ないのは、
その企業が公正に扱ってくれるかどうかに疑問を持つからであり、
ある意味では当然でしょう。
3 就活セクハラの根絶のために
2021年6月、近鉄GHの採用担当の社員が
就活生の女子学生をホテルに連れ出したことで懲戒解雇処分を受けた
との報道がありました。
この行為は悪質な就活セクハラであることは当然のことです。
ただこの事件を一企業のことと考えてしまうことでは就活セクハラの根絶はできません。
この厚労省の就活セクハラの実態調査で、
就活セクハラが一般に考えられている以上に被害者が多く、
また被害内容、被害の影響も極めて深刻であることが明らかになったのですから、
近鉄社員の事件は氷山の一角であることが明らかです。
パワハラ防止法が制定されるときに就活ハラスメントに対する
事業主の防止対応体制を法律に規定することが強く主張されましたが、
指針でその防止と対応について触れられただけで
立法化はされませんでした。
しかしこのような消極的な姿勢が続くと、
第二、第三の「近鉄事件」が起こるでしょう。
就活セクハラの根絶のためには早急に就活パワハラ防止の立法化を
考えなくてはなりません。
また企業も就活セクハラの徹底した防止策をとる必要が
ますまず必要になっているといえます。
なお、今回の調査ではなぜか就活パワハラ被害の調査がされませんでした。
例えば内定後に過剰な課題を与えられるとか、
面接時に採用に無関係なことを聞かれるなどの
パワハラ事例は少なくありません。このような被害の実態も調査し、
立法化を検討すべきです。