1 わいせつ教員対策法
(1)わいせつ教員対策法の成立
2021年5月28日、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律わいせつ教員対策法」(わいせつ教員対策法)が成立し、6月4日、公布されました。約1年後の施行までに文科省から出される指針が注目されます。
ただその指針がどのようなものであったとしても、そもそもこの法律ができても、教壇に立つわいせつ教員の根絶への道のりがまだまだ遠いことを懲戒処分の実態から見てみたいと思います。
(2)わいせつ教員対策法の教員免許再授与審査
この法律のポイントのひとつとして、わいせつ行為やセクシュアルハラスメントによって懲戒免職等の処分を受け、教員免許の失効や取り上げとなった教育職員について3年経過後の免許再授与の際に、改善更生等を審査した上で再授与しないことができることがあげられています。
2 わいせつ教員の懲戒処分の実態
(1)2019年度の公立学校教職員の調査結果
2020年12月に公表された文科省の「令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査」には、2019年度の公立学校の教育職員についての懲戒処分の状況がまとめられています。
このうちわいせつ行為等についての懲戒処分等の統計は次のとおりです。
|
わいせつ行為等 |
わいせつ行為 |
わいせつ行為のうち 児童生徒に対するもの |
免職 |
153 |
148 |
121 |
停職 |
50 |
22 |
5 |
減給 |
16 |
1 |
0 |
戒告 |
9 |
1 |
0 |
訓告 |
45 |
2 |
0 |
合計 |
273 |
174 |
126 |
(2)わいせつ教員の懲戒処分の実態
この懲戒処分の統計からいえることは、教職員によるわいせつ行為等による懲戒処分として、停職が50名、減給が16名、戒告が9名、懲戒処分ではありませんが訓告が45名もいるという事実です。
これは2019年度の1年だけの統計ですから、過去にさかのぼれば懲戒免職処分だけではなく、わいせつ行為等による懲戒処分を受けた教職員は相当の数になります。しかし現在の法制度では懲戒免職以外の処分を受けた教職員は教員免許は失効することなく教壇に立つことができ、また立っているということになります。
わいせつ教員対策法と呼ばれ、名前は包括的であっても、この法律の網掛けは、懲戒免職処分(国立や私立では懲戒免職に相当する処分)という極めて重大なわいせつ事件を起こした教育職員しか対象になっていないのです。
この統計からは、わいせつ行為のうち、児童生徒に対するものは、当然ながらそのほとんどが懲戒免職となっています。しかし数は少ないとはいえ5名の停職処分がなされています。これらの事案の内容はわかりませんが、児童生徒に対するわいせつ行為であり、停職に至るほどのものですから重大なものであることは間違いないでしょう。ということであれば、教員免許再授与審査のような審査もなく、このような教員が再び教壇に立つことができてよいのでしょうか。
3 教壇に立つわいせつ教員の「根絶」への道のり
(1)わいせつ教員対策法は限定的
このように、わいせつ教員対策法が対象にしているわいせつ教員は懲戒免職等の処分により教員免許を失効したという極めて重大なわいせつ行為等をした教育職員に限られています。この法律ができたことをわいせつ教員対策の大きな一歩と評価することはできますが過大評価は避けるべきです。
(2)これからの「根絶」への道のり
わいせつ教員根絶には、入口対策と出口対策が肝要です。入口対策というのは児童生徒からの被害通報をしやすくすることです。相談に行きやすい窓口はまだまだ不足しています。
出口対策は、前述のように、停職や減給等の懲戒処分を受けた教育職員に対する対策です。このような教育職員に対しては、各教育委員会や学校が研修等を受けさせ、その状況を見て元の職務に就かせることが多いと思います。しかしその判断はどうしても緩くなりがちではないでしょうか。この審査を厳格にするためには、わいせつ教員対策法の再授与審査会に準じた中立、公正な機関の決定に基づくとすべきではないでしょうか。またこのような処分を受けた教育職員がいったん退職して別の学校の教員採用に応募するときのために懲戒処分歴が照会できる制度も必要になるでしょう。
わいせつ教員対策法の制定によってわいせつ教員対策が大きく進むという過大評価をすることなく、まだまだ不足している制度と対策をこれからも絶やすことなく進めなければわいせつ教員の根絶はいつまでたってもできません。