堀の向こうにそびえる、巨大な建造物。
翼よ、あれが大阪城ホールだ。
開場まで、まだ30分以上ある。まずはグッズ売り場へ足を運んだ。
Tシャツぐらいは買おうと思っていたのだが、僕好みのデザインではなかった。最新アルバム“TOK10”の絵柄を使ってくれれば、それだけで買ったのになぁ。
AとBは、共にパンフレットを購入。写真集込みで2,000。まぁ、そんなものだろう。
二人のお目当ては、しかし別にあった。
10周年記念限定グッズ「TOKIO BE@RBRICK(トキオ ベアブリック)」である。
前述した“TOK10の絵柄”とは、5匹の色違いのクマである。このクマたちのフィギュアが、BE@RBRICKだ。トラックに載った5体のクマたち。見た目はなかなかに愛らしい。
問題はその値段。なんと8,000である。フィギュアとして安いのか高いのかよく判らないが、僕は直感的に「高いなぁ」と感じた。簡単に財布から出せる価格ではない。
AもBも、やはり売り場の前でしばし躊躇した…かと思いきや、Bはほぼ即決で財布を取り出していた。先程のお好み焼き屋で、注文に何分も悩んでいたとは思えない変わりよう。
陳腐な表現だが、恋は女を変えるのである。
ほどなくして、AもBE@RBRICKの入った袋を手にしていた。
二人とも、わずか20分ほどのあいだに1万円の散財である。
いや、この際「散財」とは言うまい。「価値ある投資」ということにしておく。
当初からのお目当てを手にした二人は、しかし顔色を暗くしていた。
「月曜からの昼食は・・・」などと聞こえた気もしたが、武士の情けで聞き流した。
まぁ、その後に500mlペットボトルを二人におごってあげたわけだが。
我々の席は、ステージから向かって左手。Gブロックである。
上段から2段目。開場全体を見回すことはできるが、ステージ上の5人を明確に見ることはできない。
Bは、このために双眼鏡を買っていた。オリンパス製の10倍ズームレンズ。
この1ヶ月近く、彼女は相当の「価値ある投資」をしていた。その詳細は…あえて言うまい。
ともあれ、Bはこのコンサートを誰よりも心待ちにしていたのであろう。それは間違いないところだ。
Aは、早々に空になったペットボトルを手に、はしゃいでいる。
Aの良いところは、その無邪気さにある。節度ある「大人げのなさ」と言えばいいだろうか。Bにも、そういう部分がある。
往々にして、こういう似たもの同士が組むと、節度を超えた「大人げのなさ」が披露されるものだ。僕がどれだけそれに泣かされたことか…などという愚痴は、さておくとして。
僕は、ひさしぶりのライブ会場に身を置いて、少なからず興奮していた。
芝居を見る機会は多いのだが、観客数は1桁違う。
人の数が多ければ、それだけ熱の温度も高くなる。多ければいいというものではないにせよ、1万人単位の人間が集う場所には、やはり特別の何かが宿っているような気がする。
当然ながら、男の数は少ない。圧倒数を占める女性にしても、その年齢層は随分と広いように思える。同世代と思しきグループが、結構目に付く。
18時30分、開演。名曲“Green”で始まった。
僕がそこそこ歌える曲。うろ覚えの歌詞を、大きな声で歌う。
そしてスピーカーから流れてくる演奏は、圧倒的なボリュームで僕らを包む。自分の声なんてほとんど聞こえやしない。うねるような大歓声。
でも、僕の声もその大歓声を形作る一つ。そう思うと、なんだかとっても楽しい。
TOKIOの演奏は、正直言って「すごい!」と思わされるレベルではない。もっとも耳につくボーカルでは、音を取り間違っているところもたくさんあったし、長瀬の声も何度か裏返っていた。
でも、そんなこと大した問題じゃないと感じた。だって、僕はこんなに楽しいんだもの。
国分の笑顔は素敵だなと思った。みんなを幸せにする笑顔。
彼と友達になりたいな。きっと、一緒に楽しく酒が飲めるだろうな。
山口も、きっといい奴なんだろうと思う。言葉の端々に、そんな雰囲気が滲み出る。
サブボーカルとして、ベースを弾きつつ熱唱していた。
以前は「ちょっと太めかなぁ」と思っていたけれど、ステージで唄う彼の顔は凛々しかった。
『白線流し』に出ていた頃の長瀬は、本当に格好良かった。どこか頼りなげな感じが魅力だった。
今、ステージで唄っている長瀬は、相変わらず端正な顔だったけれど、以前にはなかった「強さ」も感じさせた。
松岡は、相変わらず「すかした感じ」で、いろんな場面を仕切っていた。
それはたぶん彼の性格であり、ドラムスというパートゆえの責任感でもあるのだろう。
その流されない強さや自己主張が嫌みにならないのは、彼の人柄ゆえでもあり、メンバーの信頼感ゆえでもあるのだろう。
こういう男がメンバーにいるから、TOKIOは常に「締まっている」バントであり続けられるのだろうな。
城島…いや、やっぱりリーダーだな…リーダーがTOKIOというバンドにおいて果たす役割は、殊の外大きいのだろうと思った。つまるところ、突っ込まれ役をきちんとこなしているところが素晴らしい。
かくいう僕も、いろいろな場面において「突っ込まれ役」になることが多い。自画自賛になるが、そういう役割を任せてもらえることがとても嬉しいし、誇りでもある。
突っ込まれ役は本気で怒ってはいけないし、かといっていじけっぱなしでもダメ。時には真っ向から反発してみたり、時にはすかしてみたり。受け狙いばかり突っ走っても、大抵は失敗する。勝ち負けにこだわることよりも、勝負が成立する場を提供できることにプライドを持てなければ、突っ込まれ役は果たせないと思う。
リーダーと自分とを比較するなんておこがましい話ではあるけれど、何とはなしに「お互い、頑張りましょうね」と思ってしまう。リーダーは見事にその大役を果たしているし、僕もそれなりには楽しくやらせてもらっている。
AにもBにも、さんざんぱら突っ込まれまくっている僕だけれども、まぁ二人からはそれなりに信頼されているのだろうな、などと都合良く解釈できる脳天気さも、突っ込まれ役には大事である。おそらく。
2時間半という時間は、瞬く間に過ぎていった。
アンコールは“TOK10”でセルフカバーしたデビュー曲“Love you only”だった。
君が熱い恋をするなら、相手は僕しかいない…などという、凡夫が言ったら叩き殺されそうなフレーズも、彼らが唄えばしっくりくる。
こういうところが、アイドルの才能というものだろう。
会場を出た時、遠くにライトアップされた大阪城が見えた。
今回の写真だと、かなりピンぼけになってしまっているけれど、雰囲気だけでも伝わればいいと思って、載せることにした。
実物は、もっと綺麗なんだってば。
激しく身体を動かした僕ら。夜も9時を過ぎたとはいえ、腹は空く。
AもBも、大枚を使い果たし、子犬のような目で僕を見ている。
あぁ、わかったよ。好きなものを食べなさい。
そして、この日2度目のお好み焼き。
彼女らの胃袋の強さにも恐れ入るが、それに付き合った自分も大したものだし、それでも存分に美味しく食べることができた「千房」のお好み焼きに、最大の敬意を払うことにする。
コンビニで買っていた酒を部屋で呑み終え、就寝。
時計は午前2時を回っていた。
<つづく>
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