山口童話 

山口弘信作成の童話です。

じぞう様への濡れぎぬ

2017-12-15 23:23:28 | 童話

 平成29年12月14日富山新聞掲載

 

 じぞう様への濡れぎぬ

 

 真夜中に、村の神社から「ドドーン、ドンドンドン、ドドーンドンドンドン」とたいこの音が鳴りひびいています。

 人びとは不思議なこともあるもんだと言いながら一週間がたちました。

 そんなときに火事が発生です。

かやぶきの屋根の大きな家がほのおをふき上げて、燃え盛っています。

 そのとなりの家にも燃え移り、さらに大きな火柱となり、火の粉が周りにまき散らされています。

 これまで全く火事のなかった村里に火事が発生したのです。

 この村には、これまでじぞう様がなかったことから、一年前にじぞう様をまつろうということになりました。

村の子ども達が旗を持ち、近くの集落の各家を「じぞう様の建立」と言いながら、じぞう様をつくるための寄付金を集めて回りました。

そのかいがあって、じぞう様を作るためのお金もじゅんびできました。村の中央に、東に向けて設置されました。

 その向きがちょうど火事の発生した家の方向でした。

 じぞう様の見ている家が火事になったのです。村の中で、それが火事の原因だといううわさが広がりました。

 じぞう様はそれをきいて悲しくなりました。

 「私はこの村の人びとの幸せを一心に願っているのに、何故そのようなありもしないことを平気で言う人がいるのだろう。神社のたいこを打ち鳴らして、村人に、火の始末に気をつけるように注意していたのに。」 

 じぞう様は、これまで以上に村人をしっかりと見守ろうと思っていました。

 そんな時、この村にまた火事が起きてしまいました。

 今度は、じぞう様の向きと反対である西側の新しく建てたばかりの家が火事になりました。その少し前に、前回と同じく、神社のたいこも鳴りました。

 村人は、じぞう様につけている、よだれまえかけを赤色にしていることが火事の原因らしい、とうわさし始めました。

 なんとしても、火事の原因をじぞう様のせいにしたいらしいのです。

 じぞう様のよだれまえかけが、むらさき色に変わりました。

 それ以来、長い年月が経ちました。その村里に火事は発生していません。

 今日は、じぞう様のお祭りです。じぞう様の前に集まった人たちに、村の老人が静かに言いました。

 「むかし、この村に火事が発生して、大人たちがじぞう様のせいだと言っていました。しかし、そんなはずはありません。人のせいにするのはよくないことです。一人一人がしっかりと、火の始末をすればよかっただけのことなんですよ」