令和2年10月8日 富山新聞掲載
クマと、りょうし
りょうしの五平さんが、春の早い時期に、クマをもとめて、山おくに行きました。
そこで、とうみんから めざめた親子のクマを見つけました。
その親グマに、クマうちじゅうで ねらいを定め、引金を引くと、見事に親グマの頭に命中し、親グマはひっくり返りました。
五平さんは、その親グマに ちかよったとき、そのそばに子グマが、「クィーン、クィーン」となきながら、よりそっていました。
子グマを 家につれて帰りました。
名前をクロと 名づけました。こなミルクを ほにゅうビンで飲ませ、夜には五平さんのフトンに入れて、いっしょに ねました。
五平さんは、ときどき、クロとじゃれて遊びました。すもうをして、わざとひっくり返り、「つよいなー、クロはつよい、つよい」と言っています。
それから、三年くらいたつと、五平さんが本気になっても、かんたんには クロに勝つことができなくなりました。さらに 二年くらいたった時には、五平さんの手には負えないくらいに強くなっていました。
クロを森に返そうと考えました。トラックの荷台に乗せ、山おくまで行きました。
そこで、クロに「もう、お前といっしょにいることはできない。これからは、山でひとりで くらしなさい。人間に近づいてはダメですよ。もう行きなさい。」と言いました。
しかし、クロはその場所を動こうとはしません。
五平さんは、用意してきた、バク竹をクロの前に放り投げました。バン、バン、バンという音に おどろいて、クロは やぶの中に にげて行きました。
五平さんは、そのすきに、トラックで引き返し、ちょっと、とまって後ろを見ると、クロがやぶから出てきて、五平さんのトラックを見送っていました。
クロと別れて、数年が たちました。
五平さんは、いつものように山へ りょうに出かけました。
山の中を歩いていると、とつぜん 大きなクマと出会いました。じゅうをかまえる よゆうはありません。
そのクマが、立ち上がって、五平さんに おそいかかろうとしています。
その時、ふいに別のクマが そのクマに体当たりしました。大きなクマは、横にふっとび、そのまま やぶの中に にげてしまいました。
五平さんを助けたクマは、クロでした。五平さんを おぼえていたのです。
「クロ、ありがとう、助かったよ、元気だったかい。」と五平さんが声をかけると、クロもうれしそうに、五平さんにじゃれつきました。
それを別のりょうしが見て、五平さんがクマに おそわれていると かんちがいして、クロをうちました。五平さんは、クロの頭をだきかかえました。クロはそのまま、目をとじ、息を引き取りました。
その横に、子グマが「クィーン、クィーン。」とないていました。