令和5年4月27日、富山新聞掲載
幸せな老夫婦
山奥の集落に、とってもびんぼうな老夫婦がすんでいました。
びんぼうでありながら、二人はいつも幸せいっぱいで、いつもニコニコしています。食事は山でとれるクリやカキやキノコや竹の子などです。
集落のほかの家族は、町に引っ越してゆき、残っているのは二人だけです。
冬になりました。ふぶきの夜のことです。
「すみません。道にまよい困っています。ひとばん泊めてもらえませんか」という声がきこえました。
戸を開けると、和服姿の娘さんが、びしょぬれになって、ふるえています。
「びしょぬれじゃないですか。早く中に入っていろりのそばで、あたたまってくださいね」おじいさんが言いました。
「おなかも、すいているでしょうから、クリのおかゆでも食べますか」おばあさんが言いました。
「はい、お願いします」娘さんが答えました。
つぎの日も、ふぶきがやむことなく続いています。洋服を着た青年がびしょぬれになってやってきました。
「私も、家の中に入れてくださいませんか」とたのみました。
「いいとも、いいとも。中に入ってください」おじいさんが言いました。
びしょぬれのカラスもやってきました。
「娘さんは、キツネだよ、青年はタヌキだよ、私も中に入れてください」と言いました。
「カラスが変なことを言っているよ」と、おじいさんが言いました。
「ごめんなさい、カラスさんの言う通りです」と娘さんと青年は、それぞれキツネとタヌキにもどりました。そして、春になるまで、この家にいました。
動物たちがいなくなった晩のことです。老夫婦が同じ夢を見ました。
「私は、千年前にこの地方で戦いに敗れた侍の守り神です。その時に滝つぼの中に投げ入れられました。どうか、私を助け出してください」というものでした。
老夫婦は、さっそく滝つぼに向かいました。滝つぼのなかをよく見ると、キラリと光るものが見えました。おじいさんがもぐって、それをとってきました。
「ううむ、りっぱな観音様じゃな、じんだはんのいるふもとの駐在所に届けましょ」と言って、二人で届けに行きました。
「観音様を引き渡しますから、とりに来てください」と、半年後に警察から、連絡がありました。自宅近くの道路わきに、小さなお堂をつくり、安置しました。
らんぼうもののイノシシやクマまでが、その観音様をおがみにきました。真っ白なヘビがそのお堂に住みつき、どろぼうの被害にあわないようにしています。
動物たちが、観音様におそなえした、木の実などを持って老夫婦の家に立ち寄るようになりました。観音様と老夫婦を中心にした、なかよし平和村になりました。