【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

税務署は勘定科目の間違いを問題としない?

2019-08-22 11:00:00 | 税務調査
「税務署は、決算書の勘定科目の選択や配列が間違っていても、税額の計算が正しければ問題としない」

確かに税務署は、「短期借入金と長期借入金」「営業利益と経常利益」といった、会計的視点(収益力、資産効率、配当可能利益、返済能力など)で決算書を見ていません。また、「仮払金と立替金」「未払金と未払費用」といった類似する勘定科目の使い分け、「減価償却引当金」といった今では使わない(別の名称となっている)勘定科目を使うことにも寛容です。

しかし、税務署独自の視点から、「鋭く」「厳しく」勘定科目を分析していますので、「税額計算さえ・・・」と油断してはいけません。

◆勘定科目の間違いが税額計算の間違いに直結することがある

例えば、貸倒引当金の限度額計算です。この計算は、貸借対照表の売掛金や貸付金などの債権合計額に法定の繰入率を乗じて計算しますが、誤って他の勘定科目(例えば前払費用や仮払金)が混入していると過大に計算されてしまいます。このように、勘定科目の金額をそのまま税額計算に用いることは多々あります(交際費、寄附金の限度額計算など)。

◆勘定科目を意図的に間違う

勘定科目を意図的に間違って税額を過少に計算している場合があります。

従業員に支払う給料を「給料手当」とはしないで「外注費」にして、源泉徴収はせず、さらに消費税も過少に申告していることがあります。

税務調査で見つかれば否認される(費用とは認められない)代表者の私的費用を、それとは想像がつかない勘定科目に混入させるという方法も税務署は目を光らせています。

◆税務署は勘定科目別の期間比較をしている

税務署は過去数期間分の勘定科目別の推移を比較検討しています。この期間比較を有効に行うためには、勘定科目処理が正しくなければなりません。例えば、ある費用の勘定科目が不統一であれば正しい分析ができません。

役員の給料→「役員報酬」「給料手当」
パートとアルバイトの給料→「給料手当」「雑給」
従業員のボーナス→「賞与」「給料手当」
外注代金→「外注費」「支払手数料」
運送代金→「荷造運賃」「外注費」「支払手数料」
梱包資材→「荷造運賃」「消耗品費」
ガソリン代→「旅費交通費」「消耗品費」「燃料費」「車両費」
販売代理店への手数料→「販売手数料」「外注費」「支払手数料」
ホームページ運営費用→「広告宣伝費」「通信費」「外注費」

誰でもこんな決算書を見ていると疲れて嫌になります。税務署としても、「この会社の決算書、訳が分からないので税務調査に行くか」、「経理がずさんで税額の計算も間違っているだろう」と考えるのです。

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★決算書はひとつ!(視点は読者によって異なる)

会社の決算書は年に一度の定時株主総会で承認されて確定します。当然、決算書は一事業年度につき「ひとつ!」です。税務署用に銀行用といった具合に複数は存在しません。

税務署であれ銀行であれ、不明瞭で不可解な決算書では不信感を抱きます。正しい決算書を作成しておけば、読者は誰であっても正しい判断をしてくれます。「決算書はひとつ」、しかし、「見る人の立場によって視点は違う」ということです。

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無申告・申告漏れがばれる(個人事業者)

2019-06-09 09:30:00 | 税務調査
★なぜ、もっと早く指摘してくれなかったのか?

個人事業者の無申告(申告をしていない)、申告漏れ(所得を過少に申告している)を税務署が指摘してくるのは申告期限から相応の歳月を経てからです。それは、税務署の情報収集や確証を得るための作業に時間が必要だからです。また、税務署の事務処理上、数年分まとめて指摘するほうが効率的であるからです。

「なぜ、もっと早く指摘してくれなかったのか?そうすればあんなこと(無申告や申告漏れ)はしなかったのに!」といってもどうにもなりません。「自主申告」ですので、納税者が自ら正しい所得と税額を計算して申告しなければならないのです。

★税務調査が行われる

個人事業者が無申告や申告漏れをしている場合には税務調査が行われます。税務調査であるべき申告数値(収入や必要経費など)を明らかにされ、その数値で申告するように指示されます。

この税務調査は自営業者ならではの苦痛で大変な衝撃です。そして、「自営業者は飲食代を経費にして税金を減らすことができる(税金はいくらでもコントロールできる)」は幻想であることに気づくのです。

★無申告加算税・過少申告加算税・延滞税(税務調査の結果としてのペナルティ)

税務調査の結果、「無申告加算税」「過少申告加算税」「延滞税」という税金を本来の所得税に加えて納めなければなりません。「無申告」「申告漏れ」「納付遅れ」に対してのペナルティです。期限までに正しい税額を納めた人と同じであれば、誰もまともな申告をしません。

【無申告について】

●どうしてばれたのか?
原因は様々です。店舗やサイトの存在、税務署に集まってきたデータ、密告(タレコミ)などが考えられます。収入というのはそれを「支払う相手」がいるわけですから、その相手と支払ったことを「隠すという約束」をしていない限りは必ずどこかでばれてしまいます。また、約束していても「裏切り」はあります。

●途中から申告している場合
たとえば、開業5年で4年目以降から申告している場合、1年目から3年目の分を申告しなければなりません。ただし、このような場合も税務調査は1年目から5年目について行われますので、すでに申告している4・5年目に不足税額がある場合には「修正申告」をしなければなりません。

●課税されない年度の扱い
課税されるだけの所得がない年度については申告の必要はありません。

【申告漏れについて】

●税務調査の過程で発見される
税務調査では収入(売上)と必要経費を詳細に検討されますので、「収入が過少(漏れている)」「必要経費が過大」であること、結果として所得を過少に申告していることが判明するのです。

●税務署が収集したデータからばれる
税務署が収集したデータからして、「収入を過少(漏れている)」「必要経費を過大」にして申告しているという疑義が生じれば、税務調査の対象に選定されます。

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無申告・申告漏れがばれる(一般個人)

2019-06-01 11:30:00 | 税務調査
「どうしてばれるのか?」

所得は相手があって生じるわけですから、所得を隠すにはその相手と結託しなければなりません。しかし、相手が裏切ったり、税務署に尻尾を掴まれたりすることがあります。また、所得が生じた痕跡が残っている、目撃者(第三者)がいることもあります。ですから、「ばれない方法」などありません。

税務署は所得の発生源や痕跡から、誰がどのような所得を得て、その所得を申告しているかを確認しています。

◆副業の給与

給与ほど税務署に把握されやすい所得はありません。給与を支払った者(会社や個人事業者など)には税務署その他の役所への報告義務があるからです。この報告義務を果たさない者もいますが、そのような場合は税務調査で給与関連データが収集されます。

◆副収入や臨時収入

副収入や臨時収入といっても様々ですが、中には給与と同じように払った者(会社や個人事業者など)に税務署その他の役所へ報告義務があるものもあります。報告義務がないものについては、支払者の税務調査時やその他任意の方法でデータが収集されます。

◆不動産の売却

不動産の売却も税務署に把握されやすいです。まずは、「登記」です。税務署は法務局から不動産の売買についての情報をくまなく入手しています。次に、「仲介業者」です。不動産売買の多くは仲介業者を通していますので、ここが情報源となるのです。その他、「不動産の現況視察」「売却先からの情報」など、調査方法は様々です。

◆不動産の賃貸

不動産の賃貸収入も税務署に把握されやすい仕組みとなっています。入居者がそこで事業を行っている場合には、自身がテナントとして入居している物件の賃貸人(家主)の「住所」「氏名」「賃貸料」「敷金」「保証金」などを税務署に報告する義務があります。入居者が一般人であっても、勤務先などを通して税務署に把握されることがあります。

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「すべてがばれる」わけではありません。しかし、「絶対にばれない方法」はありません。

〇収入を得た翌年にばれることが多い
一般個人の無申告・申告漏れは、収入を得た翌年にばれてしまうことが多いです。平成30年分(申告書は平成31年3月15日までに提出)で申告をしていない場合、令和元年の秋ごろまでにはばれます。税務署は令和元年の夏ごろまでに、平成30年分の課税データの大部分は収集を終えますので、誰が何を申告していないかを把握できるのです。

〇税務署に呼び出される
一般個人で税務調査が行われるのは、多額で複雑な案件に限られます。ほとんどの場合、電話あるいは書面で税務署から呼び出され、その場で申告書を作成し提出して終わりです。「貴方は・・・について無申告(あるいは申告漏れ)ですので、・・月・・日に関係資料と印鑑を持参のうえ来署して申告書を作成し提出してください」といった具合です。

〇呼び出しに応じない
無駄です。呼び出しに応じない場合は税務署が一方的に税額を確定します。そして、納税者の預金や給与などから強制的に徴収します。

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【個人事業者の税務調査】推計値による決着(帳簿がない、帳簿を見せない)

2019-05-06 10:30:00 | 税務調査
「帳簿や領収書がない」
「帳簿や領収書を見せない」

どうしてもこのような納税者が出てきます。この状況では、一般的な税務調査のように預金通帳や領収書などの基資料から帳簿を検討して、結果としての申告数値を正すという手法を用いることができません。かといって税務調査を打ち切るというわけにもいきません。

そこで用いられるのは「推計値」による決着です。文字通り、推計によって事業所得を算出して、それで修正申告をするという方法です。当然、これはやむを得ない場合の方法ですので、税務署としては可能な限り納税者に資料の提出を求めなければなりません。

◆推計値の算出方法

推計値の算出方法は様々ですが、たとえば下記のような方法があります。

〇事業に関する特定の数値から算出する
帳簿や領収書がないとはいっても、事業を行っている形跡は必ずどこかに残り、数値が残っていればそれを基に推計することができます。たとえば、飲食店における水道やガスの使用量、各種教室の案内パンフレットや生徒の名簿などがそれです。

〇納税者の生活費から算出する
事業で得た利益は基本的には納税者の生活に費やされます。納税者の住居や家族構成から生活費を算出すれば、そこから事業所得を推計することができます。

〇納税者の資産状況から算出する
「現金(硬貨と紙幣)」「預貯金」「株式」「不動産」「貴金属」といったように、資産は明確な形として残りますので、資産からは事業所得を推計しやすいのです。

上記のほかにも様々な方法が考えられます。また、複数の方法を組み合わせて推計値を算出することもあります。

★同業者の平均的申告数値
税務署は調査対象としている納税者と同業の平均的申告数値を把握しています。税務署はこれを参考に推計値を算出しますが、「平均」ですので調査対象者の個別事情は考慮されません。つまり、これよりも実額が低い場合もこれに合わせられ、上記の納税者の資産や生活状況から高いと判断される場合には高い数値を採用します。

★当初の申告から推計値を用いる
申告する際に税務署は申告数値の基となった帳簿や領収書などを調べませんので、推計値を用いて計算した申告書でも受付けてもらえます。しかし、あとの税務調査が大変なのはいうまでもありません。

★帳簿を紛失した
この場合も同じです。しかし、「隠すという意図」がないのですから、可能な限り帳簿の再現に努めるべきです。

★データがパソコンの中(あるいはネット上)にある
これも帳簿の紛失と同じです。可能な限りデータを探すことです。

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矢野 幸博
大蔵財務協会


【個人事業者の税務調査】売上に対する経費の割合(調査対象選定の目安)

2019-05-05 18:00:00 | 税務調査
「売上に対する経費の割合は定められている」
「その割合はどうすれば知ることができるのか」

このように考えている人が少なからずいます。そして、「限度いっぱいの経費」を計上すべく、せっせと領収書を集めるのです。

これはとんでもない間違いです。

事業に必要な支出であれば金額の多寡とは無関係に必要経費として認められます。例えば、あまり成果を生まなかった広告費用、見栄を張って一等地に借りた事務所の家賃も必要経費です。もっとも、必要経費が多すぎると事業主の生活が困窮し、最悪の場合は廃業しなければなりません。

一方、事業と無関係な支出はどんなに少額であっても必要経費ではありません。

★税務調査の選定基準

しかし、税務調査の対象を選定するにあたっては、必要経費の多寡を目安としているのは事実です。当然のことです。同業者の中で必要経費の総額が大きいとか、他では計上されていないような項目(勘定科目)の必要経費があれば税務調査の対象に選定される可能性が高くなります。

★税務署に疑われるケース

たとえば、次のような項目(勘定科目)があれば税務署に疑われ、税務調査の対象に選定される可能性が高くなります。

〇考えられないほど多額
飲食代、交通費などにこの傾向があります。

〇事業内容からして生じるはずがない
従業員もいないのに、給料や福利厚生費が計上されているのはおかしいです。

〇内容がわかりにくい
消耗品費、手数料、雑費などです。

これらは「私生活の出費」「架空の計上」であることが経験則からして一般的なので、税務署は徹底的に調べます。

★領収書の有無とは無関係に税務署に疑われない範囲内で必要経費を計上する

それも一法(?)かもしれません。しかし、税務調査の対象は様々な角度から選定されます。例えば、売上に対する経費の割合に異常性はなくても、売上を除外している疑いがある場合には税務調査の対象に選定されます。また、税務調査は過少申告の疑いという観点ではなく、「一定の期間」とか「同業者の一定割合」で調査対象を選定することもあります。

この方法は効率的(?)かもしれませんが絶対にやめたほうがいいです。税務調査が行われた場合、この方法では領収書がない分については必要経費として認められません。また、青色申告で申告している場合には青色申告を取り消され、その特典が失われます。

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調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査
飯田 真弓
清文社