【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

ローン返済額と必要経費の関係

2021-07-29 17:00:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
不動産所得の計算を次のようにすると考えている人が少なからずいます。

家賃収入-(ローン返済額(元金+利息)+諸経費(固定資産税、修繕費など))

そして、ローン返済額が必要経費にならないことを知って愕然とします。

◆ローンに関する資金の流れ

ローンは賃貸物件を取得するための資金調達です。不動産所得の必要経費になるのはローンで調達した資金および自己資金で購入した賃貸物件の建物部分の購入代金です。この建物の購入代金(取得価額)は減価償却によって複数年の必要経費として配分します。

ローンは返済しなければなりませんが、その返済額は不動産所得の必要経費ではありません。必要経費は上記の賃貸物件の建物部分の購入代金ですので、ローンの返済を必要経費に加えると必要経費が過大になってしまいます。

◆不動産賃貸の収支

家賃収入-(ローン返済額(元金+利息)+諸経費(固定資産税、修繕費など)+不動産所得に関する税金)

不動産賃貸の収支はこのようになります。不動産賃貸で得た資金からローンの返済や諸経費と不動産所得に関する税金を差し引いたものがプラスでなければなりません。マイナスである場合は手持ちの資金は減り続けます。

◆「耐用年数>ローン返済期間」であれば納税に苦しむ

不動産所得の計算は次のようにします。

家賃収入-(減価償却費+ローン利息+諸経費(固定資産税、修繕費など))

建物の購入代金は法定の「耐用年数」によって減価償却費として各年度に配分されます。この耐用年数がローン返済期間より長い場合は次のような現象が起こります。

〇不動産所得
家賃収入-(減価償却費100+ローン利息+諸経費(固定資産税、修繕費など))

〇不動産賃貸の収支
家賃収入-(ローン返済額(元金200+利息)+諸経費(固定資産税、修繕費など)+不動産所得に関する税金)

不動産所得の減価償却費100、不動産賃貸の収支のローン返済額(元金)200であれば、「不動産所得>不動産賃貸の収支」となります。場合によっては、不動産賃貸の収支がマイナスなのに不動産所得はプラスで納税をしなければなりません。

◆土地は減価償却しない(必要経費にはならない)

ローンで購入した土地(更地)を賃貸する場合には次のような現象が起こります。

〇不動産所得
家賃収入-(減価償却費ゼロ+ローン利息+諸経費(固定資産税、修繕費など))

〇不動産賃貸の収支
家賃収入-(ローン返済額(元金200+利息)+諸経費(固定資産税、修繕費など)+不動産所得に関する税金)

不動産所得はプラスなのに不動産賃貸の収支はマイナスという現象が起こります。

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★業者によるシミュレーション

以前から不動産所得と不動産賃貸の収支の違いには多くの人が苦しめられてきましたが、最近では賃貸物件の購入を進める業者がシミュレーションをしてくれることから、この問題はずいぶんと解消されてきています。

しかし、業者のシミュレーションでは不十分なケースもありますので(特定の条件が考慮されていないなど)、ローンで賃貸物件の購入を検討しているのであれば税理士に相談することをおすすめします。

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アパート経営をやめる(案外大変です!)

2020-02-14 18:30:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
最近、アパート経営をやめたいという人が増えてきました。

〇物件の下見に来る人はネットで膨大な情報を収集している
〇入居者のメンテナンスに対する要求は高まるばかり
〇競合する賃貸アパートは増加の一途

新築時はともかくとして、築年数が経過したアパートは経営が大変です。「家賃は下がる」、「維持費は増える」、「入居者の権利意識は強く出入りは激しい」という悪循環です。かつてのように、「大家さん」という上から目線ではアパート経営は成り立ちません。

◆賃貸物件の売却(税負担に耐えられるか)

アパート経営をやめる一番手っ取り早い方法は賃貸物件を売却することです。入居者はそのままでも売却はできます。

しかし、問題は売れるかどうかと売却価格です。また、売れるとしても税負担がどの程度になるかが心配です。特に、相続により取得した物件は被相続人の取得価額をそのまま引き継ぎますので、地価の低い時代に購入した物件であれば、建物はともかくとして土地に関しては相当な金額の含み益が売却により実現し、それに多額の課税がされることがあります。

◆賃貸物件の取り壊し(入居者との関係)

賃貸物件が売れず、その維持費が家賃収入を上回る場合には、物件の取り壊しを検討しなければなりません。この場合、入居者に立ち退いてもらわなければなりませんが、いうまでもなくこの交渉が大変です。立退料が思いのほか高額になることがあります。

入居者に立ち退いてもらい建物を取り壊して更地になったとしても、固定資産税の負担は残ります。駐車場にして一定の収益が生じればいいのですが、それができない場合には引き続き売却先を探さなければなりません。しかし、これも不確かです。そんなことをしているうちに地価が下がることも十分ありえます。

◆残った借金

賃貸物件が売れない場合は当然として、売れたとしても借金が残ることもあります。

悲惨です!

返済できない場合には破産も考えなければなりません。そうでなければ、残された家族が大変です。

◆物件の建替えや買換え(一発逆転を狙う)

慎重になったほうがいいと思います。

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★アパート経営も短期的視点が必要な時代

現在は、あらゆる商品やサービスのライフサイクルが非常に短期化し、アパート経営においても短期的視点が必要です。新築物件であれば多少は家賃が高くても入居をするけれども、古い物件であれば家賃を極限まで値切るというのが「消費者動向」です。

アパート経営を始めるにあたっては、「投資額の回収期間」と「トータルの利益額」を客観的に計算しておき、撤退の時期(物件の売り時)を逃さないようにしなければなりません。

「10年!」、それくらいに考えておいたほうがよいのではないでしょうか。「美田」なんてほんの一握りしかありませんから。

★これ以上の出血を止める

撤退には「これ以上の出血は止める」「手持ち資金を取り崩してでも」という思い切りが必要です。「そのうち好転するだろう」「何かいい方法があるはずだ」は甘いと思います。

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相続でアパート経営を引き継いだ(アパート経営なんて嫌だ!)

2017-11-20 20:40:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
故人が、自身の死後に残される家族のことを考えずにアパート経営をしていたということがあります。そのような場合、「アパート経営なんて嫌だ!」という遺族もいます。アパート経営という事業、不動産投資という行為が性に合わないのです。これは仕方ないことです。

アパート経営も事業ですので、アパート(土地と建物)という財産を引き継ぐだけでなく、事業者としての責任も引き継がなければなりません。事業者としての責任は数多くありますが、まずは管理業務を途絶えることなく行わなければなりません。管理業務とは、物件のメンテナンスを中心とした、入居者に快適な住環境を提供するための様々なサービスです。これが大変です。今時の入居者の要求は非常に厳しく、その要求に応えなければ、たちまち入居者は出ていってしまいます。

◆アパート経営を継続する

アパート経営が一定の収益を生み、それが生活の糧となっている場合には、アパート経営を継続すべきです。管理業務は管理会社に任せれば何とかなります。税務や資金繰りは会計事務所(税理士)のサポートとアドバイスを受けることができます。

アパート経営は、ほかの事業に比べて拘束時間は圧倒的に少ないです。今後も一定の収益が得られることが見込めるならば、アパート経営に前向きに取り組むべきです。

◆再構築あるいは撤退

アパート経営の再構築をすれば収益が見込めるケースもあります。物件の集約や買換え、物件の模様替えなどにより、収入やコストが大幅に変わる場合もあります。そうなれば、アパート経営を継続することも可能です。

アパート経営を続けると財産が目減りする(借金だけが増える)場合は、アパート経営から撤退しなければなりません。「空室」、「賃料の低下」、「大規模修繕」、「過大な借入金」に耐えられない場合です。
再構築や撤退には、「物件の売却」、「借入金の返済」、「買換え」、「大規模修繕」という局面で大金が動きますので、信頼できる業者や専門家のアドバイスが必要不可欠となります。

★故人が騙されていた?
故人がお人好しで、周囲にすすめられるままアパート経営をしていたというケースが少なからずあります。このような場合には、故人の周囲を取り巻いていた「不誠実な人たち」とは「絶縁」しなければなりません。その後に、収益が見込めるのであればアパート経営を継続すべきです。

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アパート経営の収支を把握する(生活の糧を得る)

2017-11-06 11:31:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
【ご注意】以下の説明は個人でのアパート経営を前提としております。

アパート経営をしている人であれば、アパート経営の収支についての理解はしています。しかし、実際に収支を「把握」している人は、どちらかといえば少ないように思います。というのは、アパート経営をしている人の多くは給与収入や年金収入があり、アパート経営は副収入であることが多いからです。また、アパート経営を相続により引き継ぎ、非自発的にアパート経営をしている人の中には収支の計算方法さえ不確かな人もいます。

◆専用預金口座の開設

収支を把握する第一歩は、アパート経営専用の預金口座を開設することです。この預金口座に家賃の入金をするのは当然として、固定資産税の納付、火災保険料や修繕費の支払い、ローンの返済をします。

◆アパート経営と無関係な入出金を混入させない

専用預金口座には余計な入出金を混入させてはいけません。しかし、中には専用預金口座で入出金させるべきか悩むものがあります。

例えば、各種の税金です。固定資産税は、賃貸アパートと自宅が同じ市町村にある場合には一括して計算通知されます。課税根拠の内訳はわかるとしても、その区分けは大変です。所得税や住民税もアパート経営(不動産所得)以外の分が含まれていると区分けが必要になります。このような出費は、アパート経営に関する部分のみ専用預金口座から出金します。

◆生活費の引出し

専用預金口座から生活費を引き出し、私生活上の出費はその引き出した中から行います。専用預金口座から「直接」私生活上の出費を支払ってはいけません。例えば、私生活上の公共料金や保険料を専用預金口座から口座振替してはいけないということです。

◆資金が不足する場合

専用預金口座の資金が不足する場合には、私生活の資金から補充しなければなりません。大規模な修繕などはこのようにしなければならないことがあります。この場合、私生活の資金から直接支払うのではなく、いったん専用預金口座に入金して、専用預金口座から支払います。

◆アパート経営に関連する書類の保管

アパート経営に関する書類も私生活の書類とは分けて保管しておく必要があります。賃貸物件の購入に関する契約書や領収書は当然として、賃貸借契約書、ローンの返済予定表、諸経費の領収書など、紛失しないようにしなければなりません。

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このような作業は、個人事業者ならば誰でもしています。そうしておかなければ、収支は把握できないし、確定申告もできません。そして何よりも、経営状況を把握し、今後の方針を決めることができません。

誰でもアパート経営で儲けられる時代は終わりました。これからは、一般の事業と同じ意識でアパート経営に取り組まなければならないのです。「殿様商売」では入居者は集まりません。入居者は「お客様」なのです。今どきのお客様の要求は大変厳しいのです。

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アパート経営における修繕費用(想定外の支出と税務問題)

2017-10-11 12:30:00 | 相続・贈与、資産運用、節税
数年前までは、アパート経営(個人)に関しての相談の中心は、不動産所得の赤字と他の所得との損益通算、交際費が必要経費になるかといった「楽しい!節税対策」がほとんどでしたが、最近は「経営」に深くかかわる税務問題が中心となってきました。

その典型が修繕費用です。「資産計上か?」、「支出時の必要経費になるか?」といった単純な相談ではなく、「修繕の必要性」、「修繕の方法と選択」、「修繕費用の調達方法」、「修繕に関する税務処理が資金繰りに与える影響」までと、一般事業会社や個人事業者と同じような経営と税に関する相談をしてくる人が増えてきました。アパート経営では一度に多額の資金が動くことがあります。それは、相談者にとっては人生を左右するような出来事であることから真剣そのもので、相談に対する回答は慎重にしなければなりません。

管理会社についての相談も多いです。管理手数料の水準、管理業務の範囲、入居者の募集方法になどついて、「管理会社との対立」が目立ちます。

賃貸物件の取得時に組んだローンの借換えについての相談も多いです。この問題は「違約金(繰上返済手数料)」の税務処理があります。しかし、それ以上に金融機関との交渉が大変です。確定申告書は当然として、家賃収入の内訳(物件別、賃借人別など)など、詳細で正確な数値が必要となります。

ローンの返済がアパート経営の資金繰りを圧迫することは多いです。上記の借換えで資金繰りに改善が見込まないのであれば、親族から資金を借りて繰上げ返済をしなければならない場合もあります。そうなれば贈与税の問題が生じます。

最終的には、売却による「集約」、「買換え」、「撤退」という選択肢があります。いうまでもなく譲渡所得の問題が生じます。

最近、賃貸アパートの供給過剰がいわれるようになってきましたが、物件が古くても、物件の所在が不便な所でも、「満室」というケースも多数あります。小売店や飲食店で優勝劣敗が鮮明になってきているように、アパート経営においても同様の現象が今後より一層進むことが確実です。大切なのはアパート経営の「戦略」です。入居者となる人のターゲットを絞り、物件の量と質を定め、入居者が納得する家賃の水準で満室にして利益を出さなければなりません。

会計事務所には、アパート経営の戦略を、資金繰りと税務面からサポートすることが強く求められています。税務知識を切売りする、単なる「節税対策屋」の時代は終わりました。

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★あらかじめ修繕のための資金を確保しておく

修繕のための資金は次のように計算した「収支」の中で確保しておく必要があります。

≪収入≫
家賃収入

≪支出≫
必要経費(減価償却と金利を除く)
ローンの返済(元金+利息)
税金(必要経費になる事業税や固定資産税を除く)
修繕のための資金の積立て

修繕のための資金の「積立て」は、そのための預金口座を開設する必要はありませんが、「この分は修繕のために残しておかなければならない」という金額を計算し、その部分はほかのことに使わないようにしなければなりません。

★解約時の修繕

屋根や壁などの大規模修繕は、時期や金額についてある程度の予測は立ちます。蛍光灯、エアコンの部品取替えなどは少額です。予測不能なのは解約時の修繕です。特に解約が重なった場合です。次の入居者を早期に確保するためには直ちに修繕をしなければなりません。その際、管理会社や建築会社に任せきるにするのではなく、修繕の内容が必要十分であるかを自ら確認する必要があります。

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