【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

社長借入金の増減と残高

2021-12-18 20:00:00 | 経理業務(帳簿の作成)
小さな会社の経理には、小さな会社ならではの難しさがあります。そのひとつが社長借入金(役員借入金ともいいます)です。この社長借入金に関しては、簿記の書物を読んでも、ネットで検索しても解決できない問題に遭遇してしまいます。

社長借入金は、社長(代表者)兼大株主であるような小さな会社で生じる社長と会社間の資金の動きです。小さな会社では会社の資金が不足した場合、社長が個人の資金を会社に提供するということが当たり前のように行われます。この資金の動きが社長借入金として会社の帳簿や決算書に表れます。

【重要】社長の「立ち位置」に対する認識

社長借入金の問題を考えるにあたっては、社長の立ち位置を認識しておかなければ混乱してしまいます。

社長借入金に関しては、社長個人つまり会社の外での一個人、それと会社(法人)という「ふたつの当事者」が存在します。社長借入金は社長という一個人から会社への資金の貸付けです。会社からすれば、社長という一個人から借りているのです。会社の帳簿や決算書は会社の立場ですので、会社は借りているので「借入金(負債)」となります。

◆社長借入金が生じるパターンは様々(会社の資金が動かないケースも)

社長借入金が生じる一番美しい(?)パターンは、社長個人の資金を社長個人の預金口座から会社の預金口座に振り込むというものです。しかし、このパターンは珍しいといっても過言ではありません。

小さな会社では、社長が会社の経費を立替払いすることが多いです。この立替経費が精算されていない場合には事業年度末に社長借入金と経費勘定(交通費、交際費など)を計上します。立替経費相当額を社長から借りてそれで経費を支払ったと考えるのです。社長個人と会社との間に資金の動きはありません。

小さな会社では、資金繰りの都合で社長の給与が支払えないことがあります。このようなときも上記の立替経費と同じ要領で社長借入金を計上します。

その他、社長が認識していない状況で社長借入金が生じるパターンはいくつもあります。

◆社長借入金の使途(社長借入金に関連して生じる勘定科目)

社長借入金が生じるのは会社に資金が必要なときで、借りた資金は何らかの支出に充当されています。そして、その支出が決算書の何らかの勘定科目に表れます。

社長借入金で車両を購入した場合は車両運搬具と減価償却費、立替経費の場合は諸費用(交通費、交際費など)、社長の給与が支払えなかった場合には役員報酬が計上されています。

◆社長借入金の返済

社長借入金を返済した際には、社長借入金を減額します。上記の社長借入金の使途として生じた勘定科目はすでに生じていますので、返済の段階では生じません。

◆社長借入金の残高

社長借入金の残高(決算書や試算表に表示されている金額)は今後社長に返済しなければならない金額です。社長借入金は、社長が認識していない状況で生じるパターンがあります。事業年度が終了したなら社長借入金の額を必ず確認しておかなければなりません。

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★社長貸付金(役員貸付金ともいう)

社長「貸付金」というのもあります。会社から社長への資金の貸付けです。社長という一個人からすれば会社から借りているということです。

★社長借入金の決算書における表示(借入金以外で表示される場合も)

社長借入金は貸借対照表の負債の部に短期借入金あるいは長期借入金という勘定科目で表示されます。この勘定科目には金融機関からの借入金も含まれていますので、社長借入金というのはその内訳(補助科目)を構成します。

社長借入金が借入金(長期あるいは短期)以外の負債として表示されることがあります。未払金と未払費用です。社長の給与や立替経費の未精算分は借入金よりも未払金や未払費用で計上されていることのほうが多いかもしれません。いずれにせよ、会社が社長に返済(支払い)をしなければならない金額(負債)であることに変わりはありません。

★現金勘定のマイナス

社長に給与を支払えなかったのに「現金で支払ったような」処理をした。
社長の立替経費を「現金で精算したような」処理をした。

「事実には反し」ますが、このような処理をすることがあります。この処理が累積すると現金勘定がマイナスになることがあります。現金のマイナスはありえませんので、社長借入金を発生させて現金のマイナスを解消させなければなりません。

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立替経費(代表者のものへの税務署の視点)

2021-11-12 19:16:00 | 経理業務(帳簿の作成)
あまり好ましいことではないのですが、規模の小さい会社では代表者による立替経費が頻繁に生じます。「立替経費」とは、会社が負担すべき(会社の資金で支払うべき)経費を代表者が立替払いすることをいいます。立替払いをしているわけですから、代表者は立替払いした金額を会社から引き出すことができます。

◆機動的な(?)支払いを行える

中小零細企業の代表者には仕事と私生活の区別が明確でないことから、私生活の最中に「突然!」会社の買い物をするということがあります。また、私生活の中で支払えば利便性が高いこともあります。そんなことから、なんだかんだと立替経費が生じてしまうのです。本当はよくないことですが。

◆会社に資金がない

小さな会社の場合には、会社の資金が不足したならば代表者がその穴埋めをしなければなりません。不足する資金をまとめて代表者個人から会社に入金すればいいのですが、そうしている時間的余裕がない場合には立替経費という手段によるしかありません。

◆代表者個人で支払うことのメリット

これは上記のような中小零細企業の特異性や資金的にやむを得ないといった理由ではなく、代表者個人で支払えばメリットがあるというケースです。

「個人のほうが安く買える」「個人でしか買えない」「ポイントがもらえる」というケースです。特に昨今では「お得な」買い物をあちこちで簡単にすることができます。

◆私生活の費用との区分

代表者が立替払いをする際には私生活の費用と同時に支払われることがあります。ひとつの請求書や領収書に会社と私生活の支出が混在しているというケースです。この場合、私生活の部分と会社の部分に区別するという面倒な作業をしなければなりません。

◆記帳が遅れる(漏れる)

立替経費のリスクのひとつが、記帳が「遅れる」あるいは「漏れる」ということです。立替経費は会社に請求がされませんので、会社の資金が動かないことからいつまでたっても記帳が行われません。これを記帳するには代表者が立替経費の存在を認識するという注意力に依存するしかないのです。代表者が忘れてしまったらおしまいます。

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★税務署の視点

小さな会社では代表者による立替経費は「どうしようもないこと」とはいうものの、税務的には「突っ込み所が満載」ですので立替経費が生じる場合には十分な注意を払う必要があります。

立替経費の領収書のあて名は会社でなければなりませんが代表者個人になっていることがあります。税務署は代表者個人名義の領収書は会社とは無関係であると考えますので、出費の内容に照らして会社との関連性を十分説明できるようにしておかなければなりません。

出費が個人と会社に共通するもの、例えばガソリン代などの場合、私生活と会社に区分することは容易ではありません。

立替経費の精算は立替払いが行われた日を含む事業年度中に行わなければなりません。旧事業年度の立替経費の精算はできないということです(旧年度に未払計上していれば可能です)。

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立替経費(できるだけ早く精算する)

2021-11-12 19:15:00 | 経理業務(帳簿の作成)
「立替経費」とは、会社が負担すべき経費を役員や従業員が立替払いすることをいいます。会社が負担すべき経費ですので、立替払いをした役員や従業員は立替えた金額を会社に請求し支払いを受けることができます。これを立替経費の「精算」といいます。

★「立替金」という勘定科目とは無関係
立替経費に関して注意をしなければならないのは、「立替金」という勘定科目とは関係がないということです。立替金は「会社が」誰かのために(取引先、役員、従業員など)立替払いした場合に用いる勘定科目だからです。

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◆できるだけ早く精算する(事業年度内には必ず精算する)

立替経費は会社が負担しなければなりませんので、立替払いをした者としては早急に精算することを望みます。会社は立替経費が生じることが見込まれるのであれば、タイムリーに精算ができるよう資金を準備しておく必要があります。

精算は立替払いが行われた日を含む事業年度中に行わなければなりません。やむを得ず事業年度中に精算できない場合には、精算できなかった金額を「未払金」として経費計上するしかありません。なぜならば、すでに立て替えた時点で会社の費用は発生しているからです。この未払計上は大変手間がかかりますので(忘れることもあるので)、事業年度終了間近には立替経費が極力生じないようにしなければなりません。

◆帳簿の日付は精算日

立替経費を処理する日付は精算日になります。立替払いがされた日には会社の資金が動いていないからです。この精算日で処理していたとしても、立替払いがされた日付と精算日が同じ事業年度であれば、事業年度単位での利益計算(費用計上のタイミング)を歪めることはありません。精算日が立替払いされた翌事業年度になる場合は、上記のとおり未払計上をしなければなりません。

◆領収書のあて名は会社でなければならない

立替払いをした領収書のあて名は会社になります。立替経費を負担するのは会社であるからです。立替払いをする者は、必ず精算をしてもらえることを前提に一時的に立て替えているに過ぎません。

◆旅費交通費(通勤手当以外)の精算

立替経費の典型は旅費交通費(通勤手当以外)です。交通機関の運賃については領収書がありませんので、所定の精算書(行き先、利用した交通機関、運賃などを記載する)を用意しておき、会社に戻り次第精算をしなければなりません。

出張の場合には宿泊費も生じますので精算書に宿泊費(宿泊先と宿泊料)を記載する欄を設けておくとともに、宿泊先であるホテルなどが発行する領収書を精算書に添付します。

◆立替経費は極力減らす(立替経費は経理業務を混乱させる一因)

「とりあえず立替経費にしておいて・・・」という考えは大変危険です。気がつけば会社の帳簿に記載されていない経費が相当な額となってしまっています。当然、利益計算は歪んだものになります(費用が過少計上され、利益は過大となっている)。

会社の支払いは会社が直接するのが当然のことですので、本来であれば立替経費はあり得ないことです。あくまでも「立替経費は例外」であり、会社が直接支払うことが不可能であるとか煩雑すぎる場合に限定されてきます。

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溜まっている領収書の処理(利益が出れば使えばいい)

2021-07-31 10:00:00 | 経理業務(帳簿の作成)
領収書は溜めておき、決算時に利益の状況を見てまとめて処理をすることがあります。一見合理的に思えるこの方法ですが、結果として決算書を汚してしまい、最悪の場合には社長に課税がされるという結果になる場合があります。

◆多額の「仮払金」「役員(社長)貸付金」

領収書の処理はしていないとはいっても、その領収書に相当する出金はされているわけですから、その金額は「仮払金」あるいは「役員(社長)貸付金」として積み重なっています。この勘定科目は「未精算の出金」を意味しますので、決算時にはゼロにしなければなりません。この作業が非常に大変で、経理担当者や税理士を困らせます。

「未精算の出金」が残った場合は、「それを受け取ったのは社長である」と考えられますので税務署は社長に対する給与として課税をしてきます。

◆多額の「現金」

「仮払金」や「役員(社長)貸付金」を生じないようにするため、実際には出金があっても出金処理をしない場合があります。そうすると今度は現金勘定が異常に膨らみます。本来は減っている現金を帳簿上は減らしていないからです。

出金処理をしないというのは、結局、「仮払金」や「役員(社長)貸付金」という「未精算の出金」が現金勘定に紛れているだけです。

◆多額の「役員(社長)借入金」

支払いを社長のポケットマネーでしておいて、決算時に「役員(社長)借入金」を相手勘定にして費用を計上するという方法もあります。この方法でしたら「仮払金」や「役員(社長)貸付金」は生じませんが、十分なポケットマネーがなければできません。

税務署は「役員(社長)借入金」が多額にあると、ポケットマネーを「捻出する」ために「売上を除外しているのでは?」と疑います。

◆領収書の処理を遅らせても結果は同じ

領収書の処理を遅らせるとその歪みが決算書のどこかに表れます。領収書はタイムリーに処理をして、予想利益(見込税額)を可能な限り正確に算出して、軌道修正は早めに行うのが賢明です。

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★「事業年度末近く」に預金から多額に引き出す(厳禁です!)

事業年度末近くになって、預金から多額に引き出しをして、それを未処理になっている領収書の精算に充当するという方法をとる場合があります。

事業年度が4月1日から翌年3月31日の会社が、「3月31日」に預金から多額に引き出しをして、領収書の精算作業を「4月1日以降」に行う方法です。これは絶対にやめてください。この方法では、領収書に相当する費用が「その年度に」認められないことがあります。

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照合と差異原因の解明(差異が解決しない場合)

2021-06-19 19:00:00 | 経理業務(帳簿の作成)
帳簿の特定の数値とその関連資料との間に差異がある場合には、その原因を解明し必要な処理をしなければなりません。しかし、差異の原因がどうしても解明できないこともあります。

◆差異にはリスクがある

差異は決算書を歪め、決算書を不正確にしてしまいます。決算書が不正確であるということは、法人税や消費税の計算も不正確であるということです。

解明できなかった差異の原因が、税務調査や金融機関の融資審査の際に「あっさりと」判明することがあります。ですから、差異は放置してはいけないのです。あらゆる視点と方法で差異原因を解明し、しかるべき処理をしなければなりません。

◆これ以上の差異を生じさせない

差異はこれ以上生じさせてはいけませんので、一定時点での差異額を記録しておく必要があります。「この程度の差異であれば放置しておく」ではなく、「これ以上の差異は1円も出さない」でなければなりません。

◆許容される差異の水準

差異の原因が解明できていないけれども、様々な状況(ほかの勘定科目の変動状況など)からして許容水準と判断される場合には差異を放置しておくことがあります。

取引件数が多い売掛金や買掛金については、差異が避けられない場合があります。そのような場合には、実際の請求業務や支払業務に異変や支障が生じていないのであれば、一定程度の差異は許容することもあります。しかし、その判断は容易ではありません。また、差異が生じる項目については様々なリスクが潜んでいるわけですから、業務の各段階で差異が生じる原因を減少させるように努めなければなりません。

◆安易に差異額を別の勘定科目に振替えない

差異というものは各勘定科目の金額に影響をします。差異は勘定科目の金額と「あるべき金額」との差額です。勘定科目をあるべき金額にするために、差異額を別の勘定科目に振替えることがあります。

この振替えが行われるのは、差異の原因が解明された場合に限られますので、原因が十分解明されていないのに、「気味が悪いから」とか「すっきりしたいので」とかという理由で振替えを行ってはいけません。

◆差異があって当然の場合もある

差異があって当然の場合もあります。

その典型は、最近ではすっかり利用が減りましたが、小切手の振出しや受取りをしている場合です。振出しは、相手先が金融機関で取り立てるまで通帳(当座の照合表)に表れません。受取りは、資金化するまで通帳に表れません。

帳簿は正しいけれども、照合する資料そのものが間違っている場合も差異は生じます。例えば、仕入先が発行する請求書が間違っているなどです。

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★貸借対照表関連科目の差異は翌事業年度以降も残る
貸借対照表勘定科目の残高はそのまま翌事業年度に繰り越されることから、差異もそのまま残ります。ですから、特に貸借対照表勘定科目については差異原因の解明を入念に行っておく必要があります。

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