宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

リーフ 35

2008-10-10 22:11:40 | 小説 リーフ
 ゆっくりと室内の色彩が変わる。東の壁が夕日をあびて赤くなり、次第に紫色に変わり、灰色を帯び暗くなっていく。
「そろそろ、準備をしていた方が良いかもね。まだ、月は昇らないし(妖界の)門が開くのには時間があるけど・・・・。まぁ、何事もないことにこした事はないんだけどね」
 灯火に照らされたカルの顔が一瞬、引きつるのがレムの目に入った。
 そんなに緊張しなくても・・・・。
「あ、まぁ、そんなに心配しないでも大丈夫よ。ここって、そちらの方々の通り道だそうだけど、まだ、死んだ人はいないそうだから」
 落ち着かせようと、レムがカルの肩をぽんぽん叩く。
「死んだ人はいなくても、何かあったんじゃない? 今現在でこれだけの事あったんだから。それに、今までに誰かが何とか出来たんなら、こういう事は、起こってないだろうし、て事は、誰もどうしようもなかったってことでしょ。それをウチ等がどうにかしようたって・・・」
「何言ってんの。相手が何もしないなら、こっちだって何もしないわよ。だけど、こっちに害があるようなら、身を守る事ぐらいさせてもらったって罰は当たらないわよ。そうじゃなくたって、ここのおかみさんも協会の方もここがどういうところか知っていて、放っておいているんだもの。あたし達ばかりいやな目見ることないわよ。そうでしょ」
 そうでしょ、の言葉と同時に、レムがテーブルを叩く。
「ちがう?」
「いや、違うとは、いわないけど・・・」
 レムの勢いに押されたように、カルが口ごもる。
 一緒に生活していて気が付いた事。
 カルは、押しに弱い。どーしても、これは譲れない、って事意外は、相手が強く出ると大抵は、断らない。というより、反対する隙を与えない。ってのがミソなのだが。
 要するに、言ったモン勝ちよ。というのが、レムの考えだ。・・・・・レムの場合、大抵そうなのだが。
「大丈夫。協会から報酬ぶんだくったら、ちゃんと分けてあげるから」
 長~いため息を吐くカルの背を叩いて、レムが明るく励ます。が、
「・・・・ちょっと、違うと思う」
 小さくカルが呟いた。
 その後、諦めたのか言っても無駄だと思ったのか“逃げよう”とは言わなくなった。
 その様子を見たレムが一人ごちる。
 ま、世の中。何事も経験だと思って、諦めてもらうしかないわね、こうなったら。
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リーフ 34

2008-10-09 22:07:00 | 小説 リーフ
「カル、覚えた?」
 うろうろと部屋の中を歩き回るカルに、レムが声をかける。
「うん・・・ん。多分、覚えるだけは・・・」
 言いながらも、ぶつぶつと呪文を復唱していく。
「ねぇ、カル。どっか座ったら? 少しは、落ち着きなさいよ」
 レムが声をかける。と言うより、目の前でぶつぶつと呪文の練習をしながら歩き回られると、こっちが落ち着かない。と言うのが本音だ。
「それより、さっき言ってた香油がどうのお香がどうのって言ってたけど、あれ、何? どういう事?」
 カルの気の向きを変えるつもりで言ってみた、すると
「あ、あぁ、あれね、・・・・お香で、室内というか、空気の浄化が出来るって話、聞いた事あったから。特に、ラベンダー? それともローズマリーだったかな? 空気を清浄にするんだそうで・・・・」
 ベッドに腰掛けたカル。どこからか記憶をたどるように、考え考え言葉を紡いでいく。
「それ、どこで、聞いたの?」
 少なくとも、レムが教えたものではない。お香などに関しては、はっきり言って専門外だ。多分、マリーヌでもないだろう。彼女は、精霊魔術や精神魔術が得意分野なのだから・・・・。
「それが、よく分からなくて・・・。聖堂でお香焚いてるの見て、思い出したんだけど」
「ってことは、もしかして、記憶が戻ったの?」
 思わず勢い込んだレムに、カルは
「それが、全然」
 期待のきの字もないくらい、あっさりと首を振る。
「・・・・そっか」
 力が入った分、脱力も激しい。
 勿論、レムが力を入れたからってどうなるものでもないが・・・・。しかし、マリーヌもカルのこと気にしていたし
「結構、魔術関係の仕事か勉強か何かやってたりしてね。何てったって、五芒星のメダル持ってるくらいだものね。それも、精霊学も、まったく初心者って訳でもないようだし」
 そう言うレムの台詞に、カルが吹き出した。
「まさか。だけどね、何か分からないけど、頭の中をふぅ  と、   んと、何て言えばいいんだろう。何かが頭の中を横切って、あれ? と思った途端、消えちゃうような、・・・そういう感じがする時、時々、あるんだよね」
「ふぅ~ん、それって。もしかして、記憶が戻りかけてるって事?」
「か、なぁ。よく、分からないんだけど」
「そっか、・・・でもね、もし、記憶が戻って、どこかへ帰る時は、帰る前に一言でいいから言ってってね。マリーヌも気にしてたし」
「うん」
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リーフ 33

2008-10-08 21:43:46 | 小説 リーフ
「後は、他に何か対抗策あるの?」
 レムは、半分投げやりな気分になってきた。
「後は、・・・・・般若心経唱えるくらいかな」
 と、また、聞いたことのない言葉がカルの口から出てきた。
「ハンニャシンキョウ?」
「っていう、お経。本当は、摩訶般若波羅密多心経っていうんだって」
「・・・はぁ、そう」
 オキョウって何? と一瞬聞いてみようとしたレムだったが、更に訳の分からない言葉が増えそうだったので、やめた。まぁ、唱えると言うからには、呪文みたいなものだろうか? 
「それじゃ、今度は、あたしが確実に霊や魔物を相手に出来る術、教えてあげる。確か、攻撃精神魔術は初めてよね」
 その台詞に、一瞬固まるカル。しばらくして、恐る恐るといった感じで
「・・・それ、今から?」
 と聞いてくるカルに
「そう、今から」
 レムが、きっぱり言い返した。
「む、無理だよぉ。今からやって覚えられらとしても、出来るようになんてならないよ。ね、そんな不確実な方法とるより、ここから逃げたほうが良いんじゃない? 今夜、一晩くらいどっかで・・・」
 カルの言う不確実な方法というのなら、方法不明な結界やお清めも大して変わりないのだが・・・・。
「逃げるのは、無理ね。もう、仕事として請けてきちゃったもの」
「へ?」
 ぴたっ
 カルがその姿勢のまま、また、固まる。
「う、請けてきちゃったって、いつ?」
「今日、ここの資料とか調べるのに協会に行った時。ほら、不審火があったって言ってたでしょ」
「どこから?」
 おーい、ちょっとカル。頭の回転おかしくなってるわよ。
 どこまでも、マイペースなカルにレムのほうが崩れ気味。
「だ か ら、魔道士協会から。だって、あたし、ただ働きするつもりなんてないもの。それから、カル一人で逃げるのは、なしね。そんな事したら放り出すわよ。その前に火炎球の5・6発は、覚悟しなさいね」
 脅しとも取れるレムの台詞にカルは
「そんな・・・・」
 半泣きで、おろおろと部屋の中を歩き回る。
「そんな歩き回る暇があるなら、何とかして術の一つや二つ覚える努力でもしなさい。こうなったらぶっつけ本番覚悟よ」
「そんな、だって・・」
「だってもへったくれもないの。あたしがやりなさいといったらやるの。わかった?」
 こういうのは、先に言い切ったほうが勝つ。
 カルもレムの勢いに押されたように、こっくりと頷いた。
 よし。
 レムもそれに頷いて
「それじゃ、取りあえず覚えられそうなものから、いこうか」
 後はもう、日没・妖界の門が開くまでが勝負のつけどころ。幽霊だか魔物だか知らないけど、何がなんでもこの仕事成功させて、協会から報酬ふんだくって、あのおかみさんをあっと言わせてやる。
 息も荒く、レムがほえた。
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リーフ 32

2008-10-06 21:41:50 | 小説 リーフ
「あの・・・、お葬式とかでお酒飲んだり塩振りかけてお清めしたりしない? 悪い事があった時、塩まいたりとか」
 そう言われてもねぇ・・・・。レムが首をかしげる。
 だって、オキヨメなんて言葉初めて聞いたし、確かに洗礼や禊・みそぎの儀式には、水や香油・お香使ったりするけど・・・。本当にそんなのが効くのだろうか?
「う~ん。どうなんだろう」
 レムが腕組みをして、記憶を掘り起こしてみる。
 今まで勉強してきそんなのあったっけ? 葬式で塩振りかける? お清めに酒を使う?   聞いたことないわねぇ。もしかして、白魔術の分野かしら? 後で、確認してみよう。
「それじゃ、地鎮祭とかどうすんの?」
「ジチンサイ・・・、って、何それ?」
 やはり、初めて聞く言葉に、レムが首をひねる。
「家建てたりする前に、土地の神様をお祭りするのって知らない?」
「知らない。っていうか、そういうの見たことも聞いたこともない」
 土地の神様? 地霊とかならいるって聞いたことあるけど。
「って事は、もしかして、土地神様にお鎮まりいただいたり、工事の安全祈願とかしないで、いきなり家とか建物たてる工事しちゃったりとか?」
 信じられない。と、驚き顔のカル。
「そうじゃないの? そういうの、あまり良く知らないのよ。もしかしたら、教会で何かやってるのかもしれないけど、そう言うのって、滅多に見られるものじゃないでしょ」
 これ以上、訳の分からない言葉が出てきてはかなわないと思い、レムが強引に話を打ち切る。そして、ふと視線を動かすと、カルが入り口にぶら下げた布が目に入った。
「ところで、どうしてあんなところに、布なんて垂らす訳?」
 カルの行動の意味が分からない。やはり、何か訳があるのだろう?
「あれ? うん、霊って一直線に進むって話を聞いたことがあるような気がしたんで、本当かどうか分からないけど、とりあえず、入り口から一直線に入れないようにしてみた」
 ほんとかよ~。レムが、疑いの目をカルに向ける。
「どこから、仕入れてきたの? そんな話」
「・・・さぁ?」
 のんきに首をかしげるカルにレムはめまいを覚えた。
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リーフ 31

2008-10-05 21:12:04 | 小説 リーフ
 そして、その事件は、四日目の夜に起きた。
 その日は、満月。妖界の門が開く夜である。
 門が開くと言うことは、道が開くと言うことで
「あぁ、やっぱり、来たわ」
 レムは、昨日協会で仕入れてきたそれを見て、ため息をついた。
「何それ、どうしたの?」
 買い物から帰ってきたカルが、テーブルに荷物を置いてそれを覗き込む。
「あぁ、これ? エネルギー測定石よ。この周りに魔力や妖力の力場・リキバがあるかどうか調べられるの」
 レムが言って、鎖の先についている白と黒のまだらになったそれを、目の前で揺らして見せた。
 それは、一見すると透明な石であるが、強い魔力や妖力触れれば黒く、霊のエネルギーであれば白く、聖力や清力では輝くというものである。他にも染まる色によって、相手の性質を見極めることが出来ると言う優れものもある。しかし・・・。
 ぴしっ・・・・。
 桁違いに、強い力を受けると
   ぱりぃ   ん
「われた、・・・ね」
「割れたわね」
 割れてしまうのである。
    くっすん、高かったのに・・・・。
「   ってことは、その    」
 割れたそれを指差して、カルが顔を引きつらせる。それに対しレムは、
「いるわね。山ほど」
 きっぱり、言い切った。こういう場合、
「良かったわね、カル。面白い体験が出来るわよ。はじめてでしょ、こういうのは」
「あ、ははっは・・・・、あははは」
「・・・・・・あはははっは」
 もう、笑うしかない。
「ところで、それは、なに?」
 笑って笑って笑いまくった後、テーブルの上に袋の中身を出し始めたカルに尋ねるレムに
「これ? 塩 だけど」
「うん。それは、わかる」
 塩の詰まった袋、小皿、コップ、なにやら液体の入った小瓶、大きな厚手の布。
 一体何?  意味の分からないレムは、首を傾げるしかない。
「どこまで効果があるか分からないんだけど、・・・。あと、聖油か香油、じゃなければお香があると良いんだけど」
 塩を盛った小皿を部屋の四隅と入り口の両側に置く。
「ねぇ、レムちゃん。ここ衝立とかないんだっけ?  う・・・ん。これで、間に合うかな」
 衝立の代わり、ということだろうか? 大きな布を広げて椅子を持ってきて入口・ドアの前に吊るした。
 まったく、意味不明のカルの行動に
「ね、ねぇ、カル。何やってんの?」
 そう、聞いたレムに
「うん。結界のつもりなんだけどね。方法が良く分からなくて」
 結界  どこが?
「塩って、お清めなんかに使うから、そこに置いてみたんだけど」
 え、そうなの?
「本当は、朝日を浴びた塩のほうが良いんだけど、今からじゃ間に合わないしね」
 ぶつぶつ言いながら、コップに酒(匂いからすると米酒だわ)とビンに入っている液体をそれぞれ注いでいく。
「それじゃ、これは?」
 レムが指差したのは、液体が入ったコップ。一見すると水のようだが・・・・。
「うん。それ、水だけど」
 をい。
「っていっても、聖堂に湧いていた水もらってきたんだけどね。聖水とはいかなくても、ただの水よりは効果があると思って」
 言いながら、カルは、酒と水の入ったコップを塩と同じ四隅と入り口に置いていく。
「で、何だって、こんな事やるわけ?」
「だって、レムちゃんが、ここ妖道が通っているって言ったから、・・・塩も水もお酒もお清めに使うでしょ。それで、入り口と四隅を固めれば、少しは場を保てるかなって思ったんだけど。・・・・・どうかなぁ」
 何とも頼りないカルの台詞に
「そうなの?」
 と更に頼りないレムの台詞に、今度はカルが固まった。 
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リーフ 30

2008-10-05 15:02:21 | 小説 リーフ
 注 ゴメンナサイ。後ろに文章追加しました。


 協会から宿に戻ってきて、レムは荷物を放り出しベッドに飛び込む。その隣でカルは、靴を脱いでからベッドに登った。
 カルは、どういうわけかベッドに乗る時、必ず靴を脱ぐのだ。
 本人いわく“靴を脱がないと、休んだ気にならない”そうである。
「はぁ、やっと、一仕事終わったって感じね」
 レムが、大きく息を吐いて、ごろんとベッドに横たわる。
 魔道士協会の受付で散々待たされて支部長との面会予約が取れたのが、一週間後。そのほかに、滞在中の魔導士としての活動許可も出た。
 最初、十日後にもう一度来てください。と言われたのが、カルの旅券を見せたところ、一週間後に試験を受けられるように手配をしてくれたのだ。
 通常ではこんな風にはいかない。まず、協会に手紙を出して返事が来るまで早くて数日、今度はその面接の日までひたすら待つ。ひどいときは一月もの間、足止めを食う事もあるという。
 地道に学校へ行って昇級試験を受け、という方法もあるがそれには早くて3年、場合によっては十数年。試験に受からなければ、落第だ。
 やっぱり、マリーヌの名前は偉大だわ。その威力の大きさに、改めて感心するレムであった。
 
 ベッドの上でレムがこれからの計画を練る。
 しばらくは、のんびりと市内見物でもして(折角宿に落ち着いたのだから、洗濯もしたい)、旅の疲れを取りたい。ただ、この宿を紹介してくれた協会の事務員の意味ありげな視線が気になると言えば、気になる。
 まぁ、その時はその時で、・・・・何とかなるでしょう。その前に
「カル、どっか食べに行こう。おなかすいた」
 とっくに正午は過ぎている。カルを誘って、宿を出た。

 のんびり休む、・・・はずが、
 どこで誰に聞いたのか、この宿に現役魔導士が泊まっているといううわさを聞きつけた近所の人たちが、とっかえひっかえ宿に押しかけてきたのである。 うせもの探し・行方不明の人探し・怪我人や病人の治療、中には何を勘違いしたのか、死んだご先祖の霊を呼び出してほしい。などというものまであった。
 そのたびレムは、アドバイスしたり様々な専門所“探偵所・病院、あるいは魔道士協会等”に行くように指示したり、簡単な事なら実際に魔術を使って助け(勿論仕事として、がっちり謝礼を取るのは忘れない)たりもしたが、しまいに切れた。
「あたしは、魔導士であって、医者でも占い師でも交霊士でもないのよ。頼むから、的外れな依頼を持ってこないで」
 簡単に言えば、いい加減にしてくれ。という気分であった。

 問題発言があったのは、三日後だった。
 やはり、腰が痛いだの体がだるいだのと言う的外れの依頼を持ってきた相手をカルにさせ(初日にマッサージをしたところ、毎日通ってくる様になってしまったのだその人は)、レムは、荷物の整理をしながらその人物の話をなんとなく聞いていた。
「それにしても、よくこの部屋を借りましたね。やっぱり、魔導士ともなると普通の人とは違うのでしょうかね」
 その、台詞に“一体、どういうことよ”と詰め寄ろうかとも思ったのだが、レムは、なんとなくその意味の検討はついていた。
 どういうことかというと。
 まず、部屋が暗い。部屋の南側にドアと窓、東側と北側にも窓があり、光は十分入ってくる。それなのに、なぜか、部屋が暗い。
 その上、この部屋に入ってから二人して訳の分からない夢は見るわ、おかしな音はするは、変なものが見えるわ、金縛り(これは、レムだけだが)にはあうわ。カルはカルで、部屋の中が煙くさい。と言い出す始末。
 どう考えても、変である。
 宿のおかみさんに聞いた所で、そうそう素直に教えてくれるとは思えない(魔導士協会からの紹介と言ったら、宿の本館ではなくわざわざこの離れに案内してくれたのも、おかみさんだし。協会とグルだったんだな)。
 そこでレムは、それとなく辺りに探りを入れ、近くの教会や魔道士協会で調べてみると、案の定、ここがとんでもない場所であることが判明した。
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リーフ 29

2008-10-03 21:51:29 | 小説 リーフ
 二人が旅券を門番に見せグレン市に入ると、いつも通り華やかでにぎやかな街であった。
「カル、はぐれないようにちゃんとついて来るのよ」
 そう注意するレム。
 まるで子供にでも相手にするような言い様だが、実際すごいのである、カルの方向音痴は。
 初めて行ったところで方向が分からなくなるのが普通の方向音痴だが、いつも歩くところですら外から建物の中に入っただけで方向が分からなくなるのである。
 ここまで窮境の方向音痴は、カル以外いないのではないか、とレムは思っている。
 しかし、何故か帰途能力だけはちゃんと備わっているのだから、不思議なものである。
「ねぇ、レムちゃん。旅券の確認ってあんな簡単に済ませちゃっていいの? 荷物の検査とか何日市内に泊まるとか申請しないで大丈夫なの?」
 小走りに追いついたカルがレムの隣に並ぶ。今まで緊張していた分、ただ旅券を確認しただけで簡単に市内に入れたと言う事が、カルにとって不思議なことらしい。
「うん。まぁ、あたしが正式に魔道士協会に所属しているし、門番にカルの事あたしの連れ立って言ったから。それに、マリーヌの裏書も効いていると思うわよ、何たって彼女、今でこそ静かに(隠居風)魔導師生活なんてやってるけど、若い頃は王室付きの魔導士だった事もあるんだから」
「ふうん。すごい人に裏書してもらったんだ」
 レムの説明を聞いたカルは、首に下げた旅券を大事そうにしまいこんだ。
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リーフ 28

2008-10-02 21:57:41 | 小説 リーフ
「ほら、もうすぐグレンに着くわよ」
 レムが道の向こうにある大きな門を指差して、カルを振り返った。
「あそこで旅券見せて門の中に入れば、グレン市よ」
 地元ではない人がこういう大きな都市に入るには、犯罪防止のための身分証明書が必要となる。例外的にある一定料金を支払う、あるいは緊急事態の場合、旅券がなくても出入りが可能な場合もあるが、レムとしては、その必要もないのに出費を増やしたくないので、正規の方法で入場するつもりだった。
 しかし、門が開く時間は決められている為、たとえ身分証明書や旅券を持っていたとしても、門が閉まっている間はよほどの理由がない限り出入りが出来ない事になっている。
 とは、いうものの、レムが前に来た時は、もっと早い時間に門が開いたと記憶していたのだが・・・・。
「とりあえず、そこらで一休みしましょうか」
 レムは、そう言ってグレン市に来るたび立ち寄る軽食屋に入っていった。
 門の前には、開門待ち・順番待ちの旅人をターゲットにしています、といった感じの店が商店街のごとくずらりと並んでいる。
 実際、大変なのだ。やっとたどり着いた先で閉門になっていたりすると。特に、ここのような宿屋などがないような場合、野宿するしかない。
「ねぇ、前からここの開門てこんなに遅かったけ?」
 空席を見つけたレムが、顔見知りの店員に声をかける。すると、
「あ、その事ですが、ついこの間、市内で火事騒ぎがありましてね。しばらくの間、閉門を早めて開門を遅らせているんですよ」
 お陰で、お客が増えましたがね・・・。と店員が笑いながら教えてくれた。
「火事騒ぎ・・・て、放火?」
「いや、まだ、分からないんですよ。いま、お役人が調べているところです。一区切りつけば、開門時間も元に戻るとおもいますよ」
「そう、ありがとう。それじゃ、お茶と何か軽いもの二人分お願いね」
 店員がテーブルから離れた後、レムが荷物の中から便箋とペンを取り出す。
「どうすんの、それ?」
 興味心身にテーブルに身を乗り出してくるカルに
「今のうちに、魔道士協会の支部長に手紙書いておこうと思って」
 ペン軸で頭をつつきながら答える。
 こういうのって、書き始めが難しいのよね。
 あーでもないこーでもない と、レムが頭をひねっているところに注文したお茶と軽食が運ばれてきた。
「あわてなくていいわよ」
 猫舌でいつも熱いのを口に入れてぴーぴー言うカルに声をかけ、手紙を書き進める。
 それくらい市内に入ってからでも十分ではないかと思うだろうが、レムとしては、グレン市に入ったら速効で長期滞在の出来る宿を探し、今日のうちに協会に出向いてカルの資格試験と、グレン市滞在中の魔導士としての活動許可の申請を済ませてしまいたかったのだ。
 いつものようなちょっとした旅の途中であれば、その地元の支部に顔を出して挨拶すれば済んでしまうのだが、今回は支部長に面接願いを出すのだ。それなりに筋を通さなければならないのである。
 ・・・・・面倒くさいけど。と言うのが、レムの本音ではあるが。
 マリーヌも、カルは間違いなく自分の弟子であるという内容の書付を持たせてくれた上に、前もって協会に推薦状まで送ってくれている。それでも、すぐに面会がかなうわけではないのだが。
 手紙(兼申請書)を書き終わり、やっとお茶を飲むと、すでにぬるくなってしまっていた。
 カルにとっては、ちょうど良いかもしれない。
 お茶を飲んで、一息ついたレム、
「カル、旅券の用意しておいて。そこの門通る時見せるからね」
 と、声をかけ、荷物を担ぎなおした。
 勿論、この出費もレム持ちである。
 以前、カルの買い物で代金立て替えた時、レムが冗談に“後でこの代金返してね。出世払いでいいから”とふざけて言ってみたところ、カルがまじめな顔で“出世、しなかったらどうすんの?”と困っていたことがあった。その時は、真面目なのかふざけているのかと悩んだレムだったが、後に、単にボケているだけだった、と判明した。
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リーフ 27

2008-09-30 21:26:41 | 小説 リーフ
 翌日、宿泊した別の村で、男が役人に引き渡されたと風のうわさで聞いた。
 そりゃぁ、あんだけ大声で悪事の数々の自慢(かなりちんけだが)をしていれば、無理もない。何と言っても、役人に引き渡したのは、あの男の被害にあった人達だとの事なので(その前に、かなり、ぼこぼこにされたらしい)・・・。
 やはり、世の中は、清く正しく美しく生きなくてはならない(レムのやりすぎは? と言われれば、え・・・と、潔いということで、大目に見てください)。
 それにしても、うわさが伝わるのは、どうしてこんなに早いのだろう・・・・?


※ 風樹です。
  すみません。昨日の抜けてしまった分です。
  今日は、これでゴメンナサイ。
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リーフ 26

2008-09-29 21:59:48 | 小説 リーフ
 咄嗟に術を叩きつけようとしたレムだが、それより一瞬早くカルの足が男の軸足を払った。
 どげしっ
 カルが手加減、いや足加減なしに男の軸足を払い飛ばしたのである。
 勿論、男はそのまま道端に転がることとなった。
「どういう、つもり?」
 レムがひっくり返った男の襟首をつかみ、無理やり引きずり起こす。その顔は、答えによってはただじゃすまないわよ。といっているのがありありと分かる。
「お、俺が約束したのは、あんたで、こっちのチビと約束した覚えはないね」
 びびりながらも、男が答える。
「ふうぅん、そういう事いうの。カル。かまわないから死なない程度に一発かましてやんなさい。こんな根性捻じ曲がった奴、人間じゃないわ」
 あまりに頭にきてしまったため、人間以外の存在に失礼な言葉を発してしまったレム。しかし、カルが何かするよりも早く、男の胸倉をつかんだ者がいた。
「姉ちゃんたち、取り込み中悪いんだが、このあんちゃんと話をさせてもらいたいんだ、かまわんかね? 他にも話をしたがっているのが大勢いるんでかなり時間がかかりそうなんだが・・・」
 にやり と、意味のある笑いに三人が顔を上げると周りはかなりの人だかり。それどころかさっきより人数が増えている。
 なるほどそう言う事。頷いてレムは、男の襟首から手を離す。
「あ、どうぞどうぞ、なんでしたら丸ごと差し上げますから、お話だけなんて言わず煮るなり焼くなり食中毒起こすなりお好きなように。では、あたしたち先を急ぎますので、失礼します」
 言いながら、男を引き渡すと
「おい。俺の話は、終わってねえぞ」
 大勢の人たちに囲まれながら、慌てた様にじたばたと暴れまわる男をほうっておいて、カルを促してその場を離れた。
「ところで、レムちゃん。何なのその食中毒って?」
「そりゃあ、煮ようが焼こうが食べたら最後、おなか壊しそうじゃない。あの人」
「・・・たしかに」
 レムの台詞に頷くカル。直後
「ところで、さっきから聞こうと思ってたんだけど、昨夜はどこで何やってたの? 目が覚めたら姿が見えなかったけど」
 どきっ  ばれてた。
 レムが部屋に戻った時は、カルはしっかり寝ていたので気がついてないと思っていたのだが。
 だから、レムは正直に言った。
「仕事で宝玉取り返すのに、ちょっと自然災害起こしただけよ」
 と。それに対してカルは
「それって、もしかして、人の形をした自然災害のこと?」
 と、あっさり。
 う、しっかり、ばれてる。
 カルの言葉に対し、あははは・・・ と笑ってごまかすレム。
 世の中、思いもよらないことがある。
 それにしても、とレムが一人ごちる。
 あの男のおかげで昼真っから無駄な体力使っちゃったわ。まったく、もう(だからといって、夜なら良いのかと聞かれても困るが・・・)。
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リーフ 25

2008-09-28 17:15:39 | 小説 リーフ
「ば、馬鹿にするなっ そんなチビ相手に出来るか」
 直後、男が冗談じゃない、とばかりに起き上がり、カルを指差して叫ぶ。
「どーせ、あたしはチビですよ」
 ぼそり。と、カルの心の声が漏れた。
 はい、どうどうどう・・・・。
 レムが、カルの背中を叩いて、落ち着かせる。
「そうね。もし、この子に勝てたら、今度は本当にあたしが相手になるわ。それならいいわね」
 それに対し、男がしぶしぶと言った顔で頷いた。そして、
「そんじゃ、さっさと終わらせてもらおうか」
 などと言っている。
 男は知らない。自分の台詞がカルを怒らせてしまったことを。 
 カルが上着を脱ぎ、丸めて荷物の上に乗せる。脱ぎ捨てないあたり、さすがは女の子といえるだろう。
 一方、カルをけしかけたレムは、カルの微妙な怒りに気がついていた。
 知らないわよ、あたしは・・・・。カル、怒ると後が怖いんだから。
 レムが離れるのを見て、男は、ふんっ と、鼻を鳴らし、カルに斬りかかった。
 さすがに同じ失敗を繰り返さないように気をつけたつもりなのか、今度は剣を水平に凪ぐ。が、がら空きになった胸元へカルが飛び込み、
 でしい ぃっ
 手のひらで男の顎を突き上げた。さらに、一瞬動きの止まった男の後ろに回りこみ、膝裏を ちょん と、蹴る。
 カルお得意の “ひざかっくん” だ。
 これは、実践には効果大の技なのだが、危険度も大(ひっくり返って後頭部を打つ危険性あり・やられた方がであるが)のため、ふざけてやってはいけません。との注釈がつくのである。
 まぁ、真剣振り回す相手にそんなことを言ってられない。と言われればそれまでではあるが。
 それにしても、こんな簡単に終わってしまうとは・・・・。あまりに情けなくないか?
 しばらく待っても、男は復活する様子を見せない。
「それじゃ、いきましょうか」
 レムがカルを促し、その場を離れようと荷物を担いで男に背を向ける。と
「おい、どこ行くんだ。まだ、勝負はついていねーぞ」
 持っていた剣を杖代わりに、男がよろよろと立ち上がる。
「そんなチビに負けたとあっちゃ、世間に顔向け出来ねーんだよ」
 男がカルを指して“ちび”と言った直後、回れ右をしたカルが無言で男の脇へ歩み寄り、すっぱーん と、その剣を蹴り飛ばした。
 べしゃっ
 体重をかけていた剣がはずれ、男はまたもや地面と仲良しになる羽目になった。
 しっかり、負けているではないか。
 不注意一秒怪我の元、真実・ほんとうの一言死を招く。誰にでも、禁句と言うものがあるのだ。
 しかし、
「まだまだ」
 足元をふらつかせながら男は剣を振り上げ、カルの頭上に振り下ろそうとした。が、カルは男の腕に自分の腕を絡ませ、体重をかけてねじり落とす。その瞬間、男の足が宙に浮き どすん とお尻から地面に落ちた。
 これは、痛いぞ、まじで。
 野次馬ののりで傍観していたレムだが、そうそうのんびりしてはいられないことに気がついた。
 日が昇る前に出発して、日が暮れる前に休むと言うのが旅の鉄則だ。そろそろ本気で終わりにしてもらわないと、宿を取るどころか次の村までたどりつけなくなってしまう。そうなったら、マジで困る。だからと言って、野宿などは絶対に避けたい。
 そんな事をぼんやりと考えているレムの耳に男の悲鳴が聞こえた。
 見ると、男は(いつの間にか)うつ伏せにされた状態でカルに腕をひねり上げられている。
 よし、これだ。
「カル、そのままそいつ押さえていて。手、離すんじゃないわよ」
 直後、レムは男の背中に どすん と乗っかり、
「ねえ、いい加減降参してくれない?」
 言ってみたのだが、男はいやいやをするように首を振った。
 わずかではあるが男の意地を見せるようだ。それならば、
「カル。手、離しちゃだめよ」
 もう一度念を押してレム。カルがひねり上げた腕とは反対の脇の下に指を当てて
 こしょこしょこしょこしょ・・・・・
 との途端、男が足をばたつかせる。しまいには、泣き出してしまった。
「降参、してくれる?」
 レムの言葉に、男が頷く。
「もう、こんな風に喧嘩売ったりしない?」
 もう一度、その顔を覗き込んで聞くと、涙と汗と鼻水とでぐしゃぐしゃになった顔で頷いた。
 よし。
 レムが男の背中から降り、カルに目配せをする。
 カルもレムに頷いて、ゆっくり男の腕を放して立ち上がった。と、その時、男が がばっ と立ち上がり
「この、チビがっ」
 カルに向かい足を振り上げた。
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リーフ 24

2008-09-27 21:47:31 | 小説 リーフ
 あまりにもわかり過ぎる反応に何か裏があるのではないか、と疑ったのだが・・・・。
 男が剣を振り下ろそうとしたところを、レムが体を半回転して避け、その背中にけりを一発。
 どぐらっしゃぁ   ん
 そのまま素直につんのめった。
 「嘘みたい」
 レムが、あきれてつぶやいた。
 裏も表もあったものではない。いったい何を覚悟しろと言うのだろう?
 これでは、魔術使うほどの相手じゃないわね。はっきり言って、魔力がもったいない。もったいないと言えば、こんなやつに体力使うのももったいないわよね。
 レムはちょっと考え、
「カル、ちょっと」
 荷物を抱えて、ぼんやり立っているカルを手招きする。
「はい、後よろしく。何だったら、術の一発も食らわせてやって」
 その台詞に
「えーっ」
 ぼとり と、抱えていた荷物を取り落とす。
 レムにとっては、予想通りの反応だ。
 攻撃魔術をいくつか取得しているものの、通常時カルの性格は、攻撃的なことは得意ではない(多少例外はあるが)。
 だから、奥の手を使うのだ。
「やんないんだったら、夕飯抜くわよ」
 レムの言葉にカルが うっ 、と唸って固まった。
 小さな体にかかわらず、レムもカルも良く食べる。食べるのが大好きなのだ。その大好きな楽しみを抜くと言われれば、ショックは大きい。
「やる、わよね」
 念を押したレムに、カルが頷く。
 これは、レムの作戦勝ちである。
 この世の中、食べ物を制するものが世界を制するのだ。
「それじゃ、がんばっていってらっしゃい」
 そういって、カルの背を押しながら、
「それじゃ、今度は、この子が相手するわ」
 まだ道端に突っ伏している男に向かって、レムが一方的に宣言した。
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リーフ 23

2008-09-25 17:39:08 | 小説 リーフ
 さて、静かになったところで、そろそろ出発しようか。とレムが席を立つ。
 先を急がなくてはならないのだ、こんな奴にかまっていられるか。というのが、レムの正直な気持ちである。
「カル、行くわよ」
 いったい何? と言った顔でお茶を飲んでいたカルに声をかけて、テーブルを離れる。
 勘定をすませ店を出ようとした時、待ったがかかった。あの男である。
「話の途中で席を立つな。まだ、用件は済んでいないんだ」
 子供が駄々をこねるように、足を踏み鳴らしながら男が叫ぶ。
 まだ用件が済んでないって・・・・、用件なんかあったのか?  
「それで、何なの用件て? あたしたちも、旅の途中なんだからね、あんまりのんびりしてられないのよ」
 いい加減、うんざり。と言った顔でレムが立ち止まる。
「用件? 決まってんだろ。俺と勝負しろ。あん時は油断してたが、今度は、そう簡単にはやられないからな。わかったらさっさと表に出ろ」
 男は、なにやら勝手に騒いで、勝手に店の外に出て行ってしまった。
 訳が分からない状態のカルはともかく、レムとしては、わからないから出ない。と言って店に戻りたいところであったが、それこそ後がウルサクなりそうなので、面倒だなと思いながらも、男の後を追って外に出た。
 レムが辺りを見回すと、道の両側に人だかり。野次馬たちがいっぱい。
 まったくもう、何を考えているんだか・・・・。
 荷物をカルに預け、レムが男の前に立つ。
 はっきり言って、見世物になった気分。
「ほう、破壊の帝王と呼ばれた俺の前に立つ度胸は、褒めてやる。だがな、後でほえ面かくなよ、俺はなぁ・・・・」
 男のせりふを聞いて、レムは思わずコケそうになった。
 は、ハカイノテイオウ て、何つー呼び名だ。そりゃぁ、こんな男と付き合ってなんかいたら、頭の中身が破壊されそうだけど・・・・。
 それにしても、グルタさんってばよくこんな男雇ったわね。おかしなことに感心しているレム。一方、男はと言うと、
 道の真ん中に仁王立ちになって、延々と続く悪事の自慢話を始めた。それも、せこい万引きやら無銭飲食やら、ちゃちな詐欺の話やら。
 まったく、どうせやるならもっと大きいことやりなさいよね。男の話を聞きながら、ぶつぶつとレムがひとりごちる。
 何事かと道端に詰め掛けた人たちも、飽きたのか一人二人と帰っていく。それはそうだろう、昼日中からこんな与太話聞いていられるほど、暇な奴はいない。そうれも、面白い話ならともかく、これでは・・・・。
 いい加減、嫌気が差してきたレムの視線の隅を何かが横切る。それを目で追おうとした時、
 ふわぁ~  とうとう、カルまでが欠伸をしだした。
「どう、聞いてる? あいつの話」
 レムの言葉に、カルが首を振って答えた。
「全然。もう、途中で寝そうになったし」
 やっぱり。レムが内心頷いた。
 そうよね、こんなの聞いてたら、本当に夜になっちゃう。まぁ、熟睡しないだけでもましね。
「ストップ」
 まだまだ続きそうな男の演説を、レムが無理やり中断させる。
「あのね、さっき言ったでしょ。あたし達、あんまりのんびりしていられないの。ただ自慢したいだけならほかの人にしてくれない?」
 その途端、男の顔が強張った。そして、
「お前は、輝かしい俺の過去を聞かせてやろうと言う、ありがたみが分からんのか」
 と、本気で訳の分からんことを叫びだす。
「分かりますか、そんなもん。自分で勝負しろって言っておいて、何言ってんのよ。ただ自慢したいだけなら、別のあいて探しなさい」
 いい加減やる気をなくしてカルから荷物を受け取ったレムの背中に、男のあせる声が飛んでくる。
「おい、こら、待たんか。敵に背を向けるとは、おまえ、それでも男か」
 ばきしっ 
「うるさいわね。あたしは、女よ。見りゃ分かるでしょ」
 レムの中から小さな殺気がほとばしり、一度は担いだ荷物を足元に下ろす。
「そこまで言うなら、相手になってやろうじゃない。どっからでも、かかってらっしゃい。遠慮はいらないわよ」
 勿論、レムとて遠慮するつもりはない。ただ、手加減は必要だと認識はしているが。
「よく言った。その言葉、後になって後悔するなよ」
 男の台詞に、
 しないしない、そんなもん。レムは、頭の中で首を振った。
「そんじゃ、いくぞ。覚悟しろよ」
 男は、腰に下げた剣を抜いて頭の上に構え、奇声を上げながら走ってきた。
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リーフ 22

2008-09-22 22:30:38 | 小説 リーフ
 グレン市を目前にした町の食堂で、2人が食後のお茶を飲んでいた時のことである。
「レム=サティン ってのは、どいつだ」
 扉が壊れるのでは? と思うほどの勢いで包帯だらけの若者が飛び込んできた。
 しかし、レムは、面倒くさい事はおことわり。とばかりに無視を決め込んだ。すると、
「おい、そこの赤毛のちび」
 店の入口に立った包帯男は、レムを指差し禁句を叫んだのである。
「お前だろう、レム=サティンってのは。お前のおかげでなぁ、おれは、仕事をクビになったんだ。忘れたとは、言わせねぇぞ」
 そして、周りの視線も全く気にせず、一気にまくし立てる。のだが、
 レムとしては、見たこともあった事もない包帯男に迫られても、嬉しくもなんともない。そこで、キッパリ言ったのだ。
「あの、どちら様?」
 がしゃどし  っ
 その途端、派手な音をたてて男はその場にひっくり返った。当然の如く、店中の視線が男に集まる。
「お、お前、昨夜、グルタんとこの倉庫ふっ飛ばしただろう。俺は、そこで倉庫番をやってたんだよ」
 よろよろと立ち上がり、恨みがましい目つきで男がレムに近づく。
 そういえば、そんな仕事請けたっけ。
 グルタという名前を聞いて、レムが昨夜の記憶を呼び起こす。
「ふぅ~ん、それで?」
 そこで、男がもう一度こけた。
「それでっ、その時、お前が吹っ飛ばした倉庫の中にいたんだよ俺は」
 ばんっ と、テーブルを叩きながら男が叫ぶ。
「あ、なるほどね。で、あたしにどうしろと? 言っておくけど、“返していただけないなら、その倉庫吹っ飛ばしますけど、よろしいでしょうか?”って、確認してからやったのよ」
 そうええば、倉庫の番人が何とかって、言ってたような・・・・。
「だからって、本当に吹っ飛ばすか、普通。中の確認しないで」
「だって、やれるものならやってみろ。って言ったのよ、グルタさんが。それに、あたしだってアガタさんから、グルタさんに貸した宝玉を取り返して欲しいって依頼されたわけだし」
 実際、レムが二人の前で倉庫を吹っ飛ばしてみせたところ、二人そろって、仲良く固まってしまった。
「ほう、それじゃ何か。あんたは、依頼されれば建物もぶっ壊すのか?」
 ぴくぴくとこめかみを引きつらせて、男がテーブルの上に身を乗り出してくる。 それに対して、レムがキッパリと言い切った。
「そりゃあ、建物でも山でも。お金がもらえて、あたしの気が向けば、ね」
 建物の残骸を目にしたグルタは、素直に宝玉をアガタに返し、アガタも“一応、依頼した仕事は成功したから”とのことで、レムにかなりの報酬を支払った。
 レムにとっては、これが一件落着でなくて何なの。と言いたいところだ。
 ・・・・壊れた倉庫に関しては、お互い表沙汰にしたくない。と、二人の意見が一致して、無理やり理由を考え出した。その理由とは、
 (人型の)自然災害が急所湧き起こった。というものである。
 だけど、自然災害って・・・・。
 レムとしては、あまり面白い理由とは思えないが、報酬も払われた後だったので、突っ込むのはやめておいた。
 「・・・・・」
 男は、レムの台詞に口をあんぐりとあけて固まり、辺りには沈黙の空気が漂った。
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リーフ 21

2008-09-21 22:24:17 | 小説 リーフ
 サンドイッチを食べ、一息ついた後、そっと部屋を出る。
 本当は、服が皺になってしまっている為、着替えをしたかったが隣でがさごそしてカルが起きてしまっては面倒なので、そのまま上着だけを羽織って食堂へ向かうことにした。
 時間的に遅いわりに部屋を出て歩き回る人が多いことに驚きながらも、レムは食堂をのぞいてみた。
 が、ちらほら人の姿はあるが、目的の人の姿は見えない。
 まだ、来ていないのかな?
 安心したのと同時に、レムの腹の虫が目を覚ました。さっきサンドイッチを食べたのだが、少し食べたことでかえって空腹感が増してしまったようだ。
 そういえば、喉も乾いた。確か、食堂を出たところに飲み物売ってる店があったような・・・、まだやってるかな。
 うろ覚えの記憶を頼りに食堂を出ようとした時、ぽん と、誰かがレムの肩を叩いた。
 をや? と思って振り返ると、お待ちかねの張本人・アガタである。
「遅れてしまって、申し訳ありません。荷物を片付けるのに手間取ってしまっったもので・・・。お待ちになりました?」
 片付ける荷物なんてあったの? と突っ込もうとしたレムだが、あまりに恐縮してしまったいるアガタの様子に
「いえ、あたしも今、来たところです」
 と本当の事を言った。のだが。
「でも、もう、お帰りになるところでしょう?」
 と、さらにすまなそうな顔をする。
「いえ、そうではなくて、ちょっと喉が乾いたから何か飲もうかな・・・と」
 これも、本当の事である。レムがそこまで言って、ようやくアガタは落ち着いた顔になった。
「それでは、屋台にでも行きませんか? おいしい焼き物を出すお店があるんです。実はわたし、食事を取り損ねてしまったんですよ。一緒にいかがですか?」
「はぁ、かまいませんが」
 と、言う訳で二人、夜の屋台にくり出す事になった。

 アガタのおごりで数件屋台をはしごした後、グルタの家に向かう二人。
 レムとしては、明日の朝も早いので、さっさと話を終わらせて宿に帰って休みたい。というのが本音だ。
 ・・・・、買ってもらった焼き菓子をかじりながら考える事ではないと思うが。
 案の定、グルタはアガタの話に耳を貸そうとはしなかった。それどころか、
「何度も申し上げたと思いますが、私はあれが気に入りました。手放すつもりはありません。どうしても、とおっしゃるのであれば、ご自分で取り戻されてはいかがです。あれは、大切にウラの倉庫に保管してありますよ。勿論、番人つきでね」
 と、まるで鼻であしらうというか、完璧に人をバカにした口調で二人を屋敷から追い出した。
 こら、他人のものを返さないで開き直ってんじゃないの。あんまりそういう強情な態度をとると、こっちだってちょっぴり強引な方法をとることになるんだからね。
そのグルタの態度に、レムが静かに切れた。

 そして、翌日。
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