宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

リーフ 39

2008-10-16 21:54:02 | 小説 リーフ
     オネガイ   おねがい    ・・・・みずを
 「お願いします。水を   下さい」
 その中の一人が炎を背負ったまま、はっきりと姿を現した。
「あ・・・・・、はい」
 カルが抱えていた塩の袋をレムに押し付け、窓際に転がっていたコップと(奇跡的に割れていなかった)水の瓶を持ってくると、コップの汚れを自分の服でぬぐい、それに水を注いで、目の前にいる人物に渡した。
「ありがとう・・・・」
 そう言って、頭を下げるその人物に対し
「どういたしまして」
 と、返事をする。そして、どういう訳か、その人達との世間話(?)が始まってしまった。
 ちょっとちょっとカル、今の状態どうなっているか分かってんの? と、頭の中で突っ込みを入れつつ、それでも、一緒になって話を聞いてしまうレムであった。
 その内容はというと、・・・・。
 今から132年ほど前(こ、細かい。毎年、年数を更新しているのだろうか?)彼らの住んでいた村が焼け、多くの人が死んだ。その時から小魔に苦痛の感情を食われ続けているのだそうだ。
 カルが正体不明の人間とは思えないこの人達とのんきに話をしている間に、レムが部屋の中に不審火がないか調べ始めた。すると、
「マカハンニャハラミミッタシンキョウ」
 カルが、何事かを唱えだした。
 どうしたのか? と思ってレムが振り返ると、カルが両手を合わせ誰かさんたちは目を閉じそれに聞き入っていた。レムもつられて耳を澄ます。
「・・・~~・・~       ・・・」
 意味不明の言葉をあまり抑揚のない、それでも静かに唱えていくカルの声に誰かさんたちの表情とあたりの空気が穏やかになっていくのが分かる。
 そして、
「ガテーガテー パーラーガーテー パラーサンガーテー ボーディ スーヴァーハー   ・・・・」
 そして、最後に頭を下げ、静かに両手を外した。しばらくして
「ありがとうございます。これで、やっと、あの魔物から逃れる事が出来ます」
 誰かさんたちはそう言うと、このへやにたむろしていた気配たちと共に(入り口とは反対の)窓の外へと消えていった。
 彼らのいなくなった部屋に、レムが術で光球を灯す。
 これで分かった、あの小魔があれだけの事が出来た訳。これは・・・。レムが口を開くより早く
「ね、レムちゃん。あの人達ね」
「分かってる。焼け死んだ後、あの小魔に利用されていたんでしょ」
 そう言うと、カルはびっくり目でレムを見た。
「そんなに驚くことないわ。おかしいと思ったのよ。どう考えても、あの程度の小魔にこれほどの能力があるとは思えない。とすると、どこからか力を得ていた筈。その位、魔族の事を知っていれば答えなんてすぐ出るわよ」
 本当のことを言うと、レムは、事前に下調べをしていたのであった。昔に起きた原因不明の火事。そして、焼死してしまった人々。それ以来、月の満ち欠けによって起きる怪事件、怪現象。
「それにしても、カルって結構、肝っ玉据わってるのね。平気な顔で幽霊さんたちと話してるんだもの」
 レムもこれには、本気で驚いた。
「ん・・・、て事は、やっぱり、あれ、幽霊さんだったんだね。あんまり普通の人っぽくて、全然怖くなかったんで・・・・」
 肝っ玉据わってるって言ったの訂正。これは、単に鈍いだけだわ。
 ため息を吐いたレムは、そこら辺に落ちている毛布を拾い、自分のベッドに這い上がる。
「さて、騒ぎも収まったし、それそろ寝ようか。明日になったら、この事協会に報告しなくちゃならないし、カルの試験の準備もあるしね」
 すっかり忘れていたけど、カルの試験を控えているのであった。
 試験、この魔術試験と言うのは、筆記・面接・実施を合わせると五日間もかかってしまう大掛かりなものだ。これからは、試験のために体力を温存させておかなくては。
 部屋が散らかっているけど、片付けは明日。今日は、もう疲れた。
「ねぇ、レムちゃん。あの人達、ちゃんと成仏出来るといいね」
 カルの眠そうな声に“ジョウブツ”って何? と聞こうと思ったレムだが、それより瞼が重くなり、靴を脱ぐのも忘れそのまま眠りに落ちていった。
 どうかこのまま、カルの頭の中に今まで教えた内容が残っててくれますように。と願いながら。
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リーフ 38

2008-10-15 22:11:46 | 小説 リーフ
 これは・・・・。
「小魔、ね」
「しょうま?」
 その言葉を繰りかえるカルに、レムが頷いてみせる。
「魔族よ。それも、かなり小物のね。本能の赴くままに餌漁りするしか脳のない奴よ」
 それにしても、ああぁぁぁ・・・・、なんてこと。
 レムが、あまりのくやしさに、髪をかき回した。
 あたしが、魔術にかけては、天才的とまで言われたこのあたしが、たかが小魔程度に振り回されるなんて。こうなったら、散々遊んでくれたお礼、させてもらおうじゃないの。
「カル、良く見てなさい。さっき教えた術は、こうやって使うのよ」
 呪文を唱えると同時に、宙に差し出したレムの手に一本の青白く輝く槍が出現した。
 未だに白い煙を吐いて、悔しげな目で吠えまくる小魔。
 それは、悔しいだろう。餌にしか思っていない人間に思いも寄らない反撃を受けたのだから。
 その小魔に向かい、レムが魔力の槍を打ちかます。
 くらえっ 
『光撃槍』
 狙いたがわず、ど真ん中命中。
 槍の放つ光が消えた後に残るのは、僅かな塵。勿論、死体も残ったりしない。魔族とは、そういうものである。
 ふう と息を吐いたレムが、辺りに散らかった塩を見て簡単の息を吐く。
 塩って、本当に効くのね。だけど、塩かぶってしぼむなんて、ナメクジみたいな奴。
 レムが、ふと 入り口にカルが塩を置いた皿が残っているのに気が付いた。
 ・・・・って事は、あいつが入って来なかったのって、そのせい?
 だけど、さっき聞こえてた声は・・・・?
 
 熱い   苦しい   痛い         みず、お願い    水を

 まだいた。
 ううう    うわぁ   この人たちって
 ずしゃっ
 あ、まずい
 おどろいた弾みに、レムが塩の皿を蹴飛ばしてしまった。それを待っていたように陽炎のような人達が、二人を取り囲む。
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リーフ 37

2008-10-13 10:01:23 | 小説 リーフ
「おかげさまで、何とかね。で、あいつは?」
「あそこ」
 レムが指差した先で、やっぱり腕を突き出したまま、がさごそ動き回っている。 それにしても、布を引き裂きあれだけの力を使いながら、部屋の入ってこようとしない。 
 一体、どういうことなのか? と首をひねるレムの耳に
「れも、一体何らったの。いまのは?」
 という、若干ラリっているようなカルの声が届いた。
「そんな事、あたしに聞かれても・・・・」
 言いかけて気が付いた。テーブルから落ちた酒の瓶が割れていたのだ。
 部屋中に漂う、強い酒の匂い。 
 その匂いに酔いそうになりながら、レムがちらりと隣を見る。と、案の定、赤い顔でほわほわ状態になったカルがいた。
「あれ、レムちゃん。なんか、へんなの聞こえるよぉ」
 ほやほや状態のまま、入り口を指差すカル。その方向にレムが目をやると・・・・、いた。
 裂けた布の向こう。元は、人だったもの。
 カルが言った“へんなの”は、そこから聞こえてきていた。
 はじめは、か細い笛のような音に聞こえたが、それが段々はっきりするにつれて、言葉として聞こえるようになった。それは・・・。
 熱い。 痛い。 苦しい。 ・ ・ ・ ・ ・。 
 重なる声、押し寄せる言葉。そして、
     ぼ う   っっっ 
 いきなり、テーブルが火を吹いた。
 驚いたレムが、ベッドに尻餅を付く。と、今度はそのベッドが、火を吹き上げた。
 床から、壁から、部屋のいたるところから火が吹き上がる。
 きぃ ぇ へへへへ ・ ・ ・ ・
 かん高い、あざ笑うような人のものとは思えない気色悪い声。の、ようなもの。 何なの、何なの一体? 一瞬、思考が停止したレムだが、燃え盛る室内を見まわし、酒精・アルコールに火がついたら大変と消火呪文を唱えようとした時、
 ばさ っ
 白い粉が宙を舞った。と、僅かに火の勢いが弱まる。
 ばさ っ     ばさっ
 更に白い粉が撒き散らされる。
 それは、レムの頭の上にも降り注ぎ、なめてみるとしょっぱい。 ・・・塩、であった。
 カルが抱えている袋から、塩を四方八方に撒き散らしているのである。
 どういう効果があるのか、塩を撒き散らすごとに火の勢いが弱まっていく。それでも、一ヶ所だけ火が燃え続けているところがあった。
 入り口の裂けた布のところである。
 すかさずカルが、塩を一掴み叩きつける。
 ぐ わ ぅ ご げ ぇ ぉ ぉ ぉ
 やはり、何とも表現のし様のない(とにかく凄まじいとしかいいようのない)声を上げ、それが、僅かに萎(しぼ)んで白い煙を吹き上げる。
 その時、レムの頭の中で何かが弾けた。
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リーフ 36

2008-10-12 21:42:38 | 小説 リーフ
 ぱし   ん
 どの位たっただろう。何かを叩くような音にレムが我に変える。
 灯火の明かりだけで見える室内で、特別変わったところはない。が・・・・
「カル、こういう時に寝てないでよ」
 椅子に座ったまま、こっくろこっくりやっているカル。
 度胸があるのかないのか、あれだけ緊張していながら・・・・・。
 呆れ返るレムの耳に
 ばしん ぼふ
 また、音が聞こえた。今度は、先ほどより大きい。
「な  に、今の?」
 カルが目をこすりながら、きょときょとと辺りを見回す。と、
 ばん ばしん
 これは、かなり近い。と、いうより、すぐそばで何かを叩いているような・・・・。
 ばん ばたん どん
「レ、レムちゃん。そこ・・・」
 カルは、震える手でレムの服の袖をつかみ、もう片方の手で布をつるした入り口を指差す。
 さすがのカルも、しっかり目が覚めたようだ。
 それにしても、何なのこれは? レムが目を見張る。
 布が、跳ねている。
 ばん がたん ぼふ ぼん  ・・・・・
 などの音とともに、向こう側から何かで叩いているように、布が動いているのだ。まるで、入り口につるした布が邪魔だとでもいうように。
 しかし、それははっきり言ってありえない。
 今現在、入り口の戸は閉まっており、布と戸の間には隙間などほとんどないようなもので、それを布の向こうから部屋の内側に向かって、どうやって叩けるというのだ。
 しばらくすると、かなり厚手の筈の布に切れ目が出来、続いて切れ目が大きく裂ける。
 その裂け目から茶色い焼けただれたような細い腕が一本 にゅ と、突き出した。続いて、別の指が裂け目にかかり、裂けて出来た布の穴を
 べりばり   ずびびび・・・・
 裂き割る。
 それが、そこから入ってくると思った。そかし、それ は、何故かその場から動こうとはせず、かわりに

 グワオオオオオオゥ・・・・

 とでも形容すればよいのだろうか。とにかく何とも形容しがたい音(声?)と共に、部屋の中を熱を持ったとてつもない轟風が吹き荒れた。
 とっさに風の結界を張ったレムは無事だったが、辺りが静かになった時、部屋中が惨憺たる有様になっていた。
 壁の所々に焼け焦げたような跡が残り、テーブルは倒れ瓶や袋は床の上に放り出され、ベッドの上の敷布や毛布は向こうの壁まで吹き飛ばされ、床は皿やコップがひっくり返った状態でぐちゃぐちゃになっていた。
 そして、その皿やコップを置いた張本人、カルは、
 ま、まさか、
「カ、カル・・・・、どこ、大丈夫?」
 レムが恐る恐る部屋を見回すと
 ベッドの向こうに山になっている毛布や敷布の塊がモゾモゾと動いて、カルが顔を出した。
 とっさに、ベッドの向こう側に非難したのだが、轟風の勢いで毛布と一緒に壁際まで転がって行ってしまったとの事。
「びっくりしたわよ。気が付いたらカルいないんだもの。でも良かった、無事・・・とは、ちょっと言えないみたいだけど、取りあえず、元気?そうで」
 レムに引っ張り出されたカルの姿は、髪の一部が焼け焦げてちりちりになり、頬と手の一部が赤くなっていた。
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リーフ 35

2008-10-10 22:11:40 | 小説 リーフ
 ゆっくりと室内の色彩が変わる。東の壁が夕日をあびて赤くなり、次第に紫色に変わり、灰色を帯び暗くなっていく。
「そろそろ、準備をしていた方が良いかもね。まだ、月は昇らないし(妖界の)門が開くのには時間があるけど・・・・。まぁ、何事もないことにこした事はないんだけどね」
 灯火に照らされたカルの顔が一瞬、引きつるのがレムの目に入った。
 そんなに緊張しなくても・・・・。
「あ、まぁ、そんなに心配しないでも大丈夫よ。ここって、そちらの方々の通り道だそうだけど、まだ、死んだ人はいないそうだから」
 落ち着かせようと、レムがカルの肩をぽんぽん叩く。
「死んだ人はいなくても、何かあったんじゃない? 今現在でこれだけの事あったんだから。それに、今までに誰かが何とか出来たんなら、こういう事は、起こってないだろうし、て事は、誰もどうしようもなかったってことでしょ。それをウチ等がどうにかしようたって・・・」
「何言ってんの。相手が何もしないなら、こっちだって何もしないわよ。だけど、こっちに害があるようなら、身を守る事ぐらいさせてもらったって罰は当たらないわよ。そうじゃなくたって、ここのおかみさんも協会の方もここがどういうところか知っていて、放っておいているんだもの。あたし達ばかりいやな目見ることないわよ。そうでしょ」
 そうでしょ、の言葉と同時に、レムがテーブルを叩く。
「ちがう?」
「いや、違うとは、いわないけど・・・」
 レムの勢いに押されたように、カルが口ごもる。
 一緒に生活していて気が付いた事。
 カルは、押しに弱い。どーしても、これは譲れない、って事意外は、相手が強く出ると大抵は、断らない。というより、反対する隙を与えない。ってのがミソなのだが。
 要するに、言ったモン勝ちよ。というのが、レムの考えだ。・・・・・レムの場合、大抵そうなのだが。
「大丈夫。協会から報酬ぶんだくったら、ちゃんと分けてあげるから」
 長~いため息を吐くカルの背を叩いて、レムが明るく励ます。が、
「・・・・ちょっと、違うと思う」
 小さくカルが呟いた。
 その後、諦めたのか言っても無駄だと思ったのか“逃げよう”とは言わなくなった。
 その様子を見たレムが一人ごちる。
 ま、世の中。何事も経験だと思って、諦めてもらうしかないわね、こうなったら。
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リーフ 34

2008-10-09 22:07:00 | 小説 リーフ
「カル、覚えた?」
 うろうろと部屋の中を歩き回るカルに、レムが声をかける。
「うん・・・ん。多分、覚えるだけは・・・」
 言いながらも、ぶつぶつと呪文を復唱していく。
「ねぇ、カル。どっか座ったら? 少しは、落ち着きなさいよ」
 レムが声をかける。と言うより、目の前でぶつぶつと呪文の練習をしながら歩き回られると、こっちが落ち着かない。と言うのが本音だ。
「それより、さっき言ってた香油がどうのお香がどうのって言ってたけど、あれ、何? どういう事?」
 カルの気の向きを変えるつもりで言ってみた、すると
「あ、あぁ、あれね、・・・・お香で、室内というか、空気の浄化が出来るって話、聞いた事あったから。特に、ラベンダー? それともローズマリーだったかな? 空気を清浄にするんだそうで・・・・」
 ベッドに腰掛けたカル。どこからか記憶をたどるように、考え考え言葉を紡いでいく。
「それ、どこで、聞いたの?」
 少なくとも、レムが教えたものではない。お香などに関しては、はっきり言って専門外だ。多分、マリーヌでもないだろう。彼女は、精霊魔術や精神魔術が得意分野なのだから・・・・。
「それが、よく分からなくて・・・。聖堂でお香焚いてるの見て、思い出したんだけど」
「ってことは、もしかして、記憶が戻ったの?」
 思わず勢い込んだレムに、カルは
「それが、全然」
 期待のきの字もないくらい、あっさりと首を振る。
「・・・・そっか」
 力が入った分、脱力も激しい。
 勿論、レムが力を入れたからってどうなるものでもないが・・・・。しかし、マリーヌもカルのこと気にしていたし
「結構、魔術関係の仕事か勉強か何かやってたりしてね。何てったって、五芒星のメダル持ってるくらいだものね。それも、精霊学も、まったく初心者って訳でもないようだし」
 そう言うレムの台詞に、カルが吹き出した。
「まさか。だけどね、何か分からないけど、頭の中をふぅ  と、   んと、何て言えばいいんだろう。何かが頭の中を横切って、あれ? と思った途端、消えちゃうような、・・・そういう感じがする時、時々、あるんだよね」
「ふぅ~ん、それって。もしかして、記憶が戻りかけてるって事?」
「か、なぁ。よく、分からないんだけど」
「そっか、・・・でもね、もし、記憶が戻って、どこかへ帰る時は、帰る前に一言でいいから言ってってね。マリーヌも気にしてたし」
「うん」
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リーフ 33

2008-10-08 21:43:46 | 小説 リーフ
「後は、他に何か対抗策あるの?」
 レムは、半分投げやりな気分になってきた。
「後は、・・・・・般若心経唱えるくらいかな」
 と、また、聞いたことのない言葉がカルの口から出てきた。
「ハンニャシンキョウ?」
「っていう、お経。本当は、摩訶般若波羅密多心経っていうんだって」
「・・・はぁ、そう」
 オキョウって何? と一瞬聞いてみようとしたレムだったが、更に訳の分からない言葉が増えそうだったので、やめた。まぁ、唱えると言うからには、呪文みたいなものだろうか? 
「それじゃ、今度は、あたしが確実に霊や魔物を相手に出来る術、教えてあげる。確か、攻撃精神魔術は初めてよね」
 その台詞に、一瞬固まるカル。しばらくして、恐る恐るといった感じで
「・・・それ、今から?」
 と聞いてくるカルに
「そう、今から」
 レムが、きっぱり言い返した。
「む、無理だよぉ。今からやって覚えられらとしても、出来るようになんてならないよ。ね、そんな不確実な方法とるより、ここから逃げたほうが良いんじゃない? 今夜、一晩くらいどっかで・・・」
 カルの言う不確実な方法というのなら、方法不明な結界やお清めも大して変わりないのだが・・・・。
「逃げるのは、無理ね。もう、仕事として請けてきちゃったもの」
「へ?」
 ぴたっ
 カルがその姿勢のまま、また、固まる。
「う、請けてきちゃったって、いつ?」
「今日、ここの資料とか調べるのに協会に行った時。ほら、不審火があったって言ってたでしょ」
「どこから?」
 おーい、ちょっとカル。頭の回転おかしくなってるわよ。
 どこまでも、マイペースなカルにレムのほうが崩れ気味。
「だ か ら、魔道士協会から。だって、あたし、ただ働きするつもりなんてないもの。それから、カル一人で逃げるのは、なしね。そんな事したら放り出すわよ。その前に火炎球の5・6発は、覚悟しなさいね」
 脅しとも取れるレムの台詞にカルは
「そんな・・・・」
 半泣きで、おろおろと部屋の中を歩き回る。
「そんな歩き回る暇があるなら、何とかして術の一つや二つ覚える努力でもしなさい。こうなったらぶっつけ本番覚悟よ」
「そんな、だって・・」
「だってもへったくれもないの。あたしがやりなさいといったらやるの。わかった?」
 こういうのは、先に言い切ったほうが勝つ。
 カルもレムの勢いに押されたように、こっくりと頷いた。
 よし。
 レムもそれに頷いて
「それじゃ、取りあえず覚えられそうなものから、いこうか」
 後はもう、日没・妖界の門が開くまでが勝負のつけどころ。幽霊だか魔物だか知らないけど、何がなんでもこの仕事成功させて、協会から報酬ふんだくって、あのおかみさんをあっと言わせてやる。
 息も荒く、レムがほえた。
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リーフ 32

2008-10-06 21:41:50 | 小説 リーフ
「あの・・・、お葬式とかでお酒飲んだり塩振りかけてお清めしたりしない? 悪い事があった時、塩まいたりとか」
 そう言われてもねぇ・・・・。レムが首をかしげる。
 だって、オキヨメなんて言葉初めて聞いたし、確かに洗礼や禊・みそぎの儀式には、水や香油・お香使ったりするけど・・・。本当にそんなのが効くのだろうか?
「う~ん。どうなんだろう」
 レムが腕組みをして、記憶を掘り起こしてみる。
 今まで勉強してきそんなのあったっけ? 葬式で塩振りかける? お清めに酒を使う?   聞いたことないわねぇ。もしかして、白魔術の分野かしら? 後で、確認してみよう。
「それじゃ、地鎮祭とかどうすんの?」
「ジチンサイ・・・、って、何それ?」
 やはり、初めて聞く言葉に、レムが首をひねる。
「家建てたりする前に、土地の神様をお祭りするのって知らない?」
「知らない。っていうか、そういうの見たことも聞いたこともない」
 土地の神様? 地霊とかならいるって聞いたことあるけど。
「って事は、もしかして、土地神様にお鎮まりいただいたり、工事の安全祈願とかしないで、いきなり家とか建物たてる工事しちゃったりとか?」
 信じられない。と、驚き顔のカル。
「そうじゃないの? そういうの、あまり良く知らないのよ。もしかしたら、教会で何かやってるのかもしれないけど、そう言うのって、滅多に見られるものじゃないでしょ」
 これ以上、訳の分からない言葉が出てきてはかなわないと思い、レムが強引に話を打ち切る。そして、ふと視線を動かすと、カルが入り口にぶら下げた布が目に入った。
「ところで、どうしてあんなところに、布なんて垂らす訳?」
 カルの行動の意味が分からない。やはり、何か訳があるのだろう?
「あれ? うん、霊って一直線に進むって話を聞いたことがあるような気がしたんで、本当かどうか分からないけど、とりあえず、入り口から一直線に入れないようにしてみた」
 ほんとかよ~。レムが、疑いの目をカルに向ける。
「どこから、仕入れてきたの? そんな話」
「・・・さぁ?」
 のんきに首をかしげるカルにレムはめまいを覚えた。
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家庭菜園2 ゴーヤの花

2008-10-05 21:25:32 | 家庭菜園
 ゴーヤの花です。
 ゴーヤ・苦瓜、夏の定番の筈がまだ花が咲いています。実自体は、ほとんどならなくなっていますが、根性でまだまだ頑張っています。
 本当にこの夏お世話になりました。

 定番のゴーヤチャンプル、おひたし、サラダ、てんぷら
 
 産地直送って、おいしい です。


   2008/10/05 撮影
 
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リーフ 31

2008-10-05 21:12:04 | 小説 リーフ
 そして、その事件は、四日目の夜に起きた。
 その日は、満月。妖界の門が開く夜である。
 門が開くと言うことは、道が開くと言うことで
「あぁ、やっぱり、来たわ」
 レムは、昨日協会で仕入れてきたそれを見て、ため息をついた。
「何それ、どうしたの?」
 買い物から帰ってきたカルが、テーブルに荷物を置いてそれを覗き込む。
「あぁ、これ? エネルギー測定石よ。この周りに魔力や妖力の力場・リキバがあるかどうか調べられるの」
 レムが言って、鎖の先についている白と黒のまだらになったそれを、目の前で揺らして見せた。
 それは、一見すると透明な石であるが、強い魔力や妖力触れれば黒く、霊のエネルギーであれば白く、聖力や清力では輝くというものである。他にも染まる色によって、相手の性質を見極めることが出来ると言う優れものもある。しかし・・・。
 ぴしっ・・・・。
 桁違いに、強い力を受けると
   ぱりぃ   ん
「われた、・・・ね」
「割れたわね」
 割れてしまうのである。
    くっすん、高かったのに・・・・。
「   ってことは、その    」
 割れたそれを指差して、カルが顔を引きつらせる。それに対しレムは、
「いるわね。山ほど」
 きっぱり、言い切った。こういう場合、
「良かったわね、カル。面白い体験が出来るわよ。はじめてでしょ、こういうのは」
「あ、ははっは・・・・、あははは」
「・・・・・・あはははっは」
 もう、笑うしかない。
「ところで、それは、なに?」
 笑って笑って笑いまくった後、テーブルの上に袋の中身を出し始めたカルに尋ねるレムに
「これ? 塩 だけど」
「うん。それは、わかる」
 塩の詰まった袋、小皿、コップ、なにやら液体の入った小瓶、大きな厚手の布。
 一体何?  意味の分からないレムは、首を傾げるしかない。
「どこまで効果があるか分からないんだけど、・・・。あと、聖油か香油、じゃなければお香があると良いんだけど」
 塩を盛った小皿を部屋の四隅と入り口の両側に置く。
「ねぇ、レムちゃん。ここ衝立とかないんだっけ?  う・・・ん。これで、間に合うかな」
 衝立の代わり、ということだろうか? 大きな布を広げて椅子を持ってきて入口・ドアの前に吊るした。
 まったく、意味不明のカルの行動に
「ね、ねぇ、カル。何やってんの?」
 そう、聞いたレムに
「うん。結界のつもりなんだけどね。方法が良く分からなくて」
 結界  どこが?
「塩って、お清めなんかに使うから、そこに置いてみたんだけど」
 え、そうなの?
「本当は、朝日を浴びた塩のほうが良いんだけど、今からじゃ間に合わないしね」
 ぶつぶつ言いながら、コップに酒(匂いからすると米酒だわ)とビンに入っている液体をそれぞれ注いでいく。
「それじゃ、これは?」
 レムが指差したのは、液体が入ったコップ。一見すると水のようだが・・・・。
「うん。それ、水だけど」
 をい。
「っていっても、聖堂に湧いていた水もらってきたんだけどね。聖水とはいかなくても、ただの水よりは効果があると思って」
 言いながら、カルは、酒と水の入ったコップを塩と同じ四隅と入り口に置いていく。
「で、何だって、こんな事やるわけ?」
「だって、レムちゃんが、ここ妖道が通っているって言ったから、・・・塩も水もお酒もお清めに使うでしょ。それで、入り口と四隅を固めれば、少しは場を保てるかなって思ったんだけど。・・・・・どうかなぁ」
 何とも頼りないカルの台詞に
「そうなの?」
 と更に頼りないレムの台詞に、今度はカルが固まった。 
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家の庭1 コスモス

2008-10-05 16:58:25 | ウチの庭
今回は、いつもの小説と違う内容のものを…。


 庭の入り口に咲くコスモス。
 現在は、自分の身長と同じくらい。世話しているのは両親で、気が付いたらコスモスが満開、になっていました。

 コスモス 秋桜

 ・・・秋だなぁ。


  2008/10/05 撮影
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リーフ 30

2008-10-05 15:02:21 | 小説 リーフ
 注 ゴメンナサイ。後ろに文章追加しました。


 協会から宿に戻ってきて、レムは荷物を放り出しベッドに飛び込む。その隣でカルは、靴を脱いでからベッドに登った。
 カルは、どういうわけかベッドに乗る時、必ず靴を脱ぐのだ。
 本人いわく“靴を脱がないと、休んだ気にならない”そうである。
「はぁ、やっと、一仕事終わったって感じね」
 レムが、大きく息を吐いて、ごろんとベッドに横たわる。
 魔道士協会の受付で散々待たされて支部長との面会予約が取れたのが、一週間後。そのほかに、滞在中の魔導士としての活動許可も出た。
 最初、十日後にもう一度来てください。と言われたのが、カルの旅券を見せたところ、一週間後に試験を受けられるように手配をしてくれたのだ。
 通常ではこんな風にはいかない。まず、協会に手紙を出して返事が来るまで早くて数日、今度はその面接の日までひたすら待つ。ひどいときは一月もの間、足止めを食う事もあるという。
 地道に学校へ行って昇級試験を受け、という方法もあるがそれには早くて3年、場合によっては十数年。試験に受からなければ、落第だ。
 やっぱり、マリーヌの名前は偉大だわ。その威力の大きさに、改めて感心するレムであった。
 
 ベッドの上でレムがこれからの計画を練る。
 しばらくは、のんびりと市内見物でもして(折角宿に落ち着いたのだから、洗濯もしたい)、旅の疲れを取りたい。ただ、この宿を紹介してくれた協会の事務員の意味ありげな視線が気になると言えば、気になる。
 まぁ、その時はその時で、・・・・何とかなるでしょう。その前に
「カル、どっか食べに行こう。おなかすいた」
 とっくに正午は過ぎている。カルを誘って、宿を出た。

 のんびり休む、・・・はずが、
 どこで誰に聞いたのか、この宿に現役魔導士が泊まっているといううわさを聞きつけた近所の人たちが、とっかえひっかえ宿に押しかけてきたのである。 うせもの探し・行方不明の人探し・怪我人や病人の治療、中には何を勘違いしたのか、死んだご先祖の霊を呼び出してほしい。などというものまであった。
 そのたびレムは、アドバイスしたり様々な専門所“探偵所・病院、あるいは魔道士協会等”に行くように指示したり、簡単な事なら実際に魔術を使って助け(勿論仕事として、がっちり謝礼を取るのは忘れない)たりもしたが、しまいに切れた。
「あたしは、魔導士であって、医者でも占い師でも交霊士でもないのよ。頼むから、的外れな依頼を持ってこないで」
 簡単に言えば、いい加減にしてくれ。という気分であった。

 問題発言があったのは、三日後だった。
 やはり、腰が痛いだの体がだるいだのと言う的外れの依頼を持ってきた相手をカルにさせ(初日にマッサージをしたところ、毎日通ってくる様になってしまったのだその人は)、レムは、荷物の整理をしながらその人物の話をなんとなく聞いていた。
「それにしても、よくこの部屋を借りましたね。やっぱり、魔導士ともなると普通の人とは違うのでしょうかね」
 その、台詞に“一体、どういうことよ”と詰め寄ろうかとも思ったのだが、レムは、なんとなくその意味の検討はついていた。
 どういうことかというと。
 まず、部屋が暗い。部屋の南側にドアと窓、東側と北側にも窓があり、光は十分入ってくる。それなのに、なぜか、部屋が暗い。
 その上、この部屋に入ってから二人して訳の分からない夢は見るわ、おかしな音はするは、変なものが見えるわ、金縛り(これは、レムだけだが)にはあうわ。カルはカルで、部屋の中が煙くさい。と言い出す始末。
 どう考えても、変である。
 宿のおかみさんに聞いた所で、そうそう素直に教えてくれるとは思えない(魔導士協会からの紹介と言ったら、宿の本館ではなくわざわざこの離れに案内してくれたのも、おかみさんだし。協会とグルだったんだな)。
 そこでレムは、それとなく辺りに探りを入れ、近くの教会や魔道士協会で調べてみると、案の定、ここがとんでもない場所であることが判明した。
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家庭菜園1 とまとの花

2008-10-05 12:20:29 | 家庭菜園
もう、季節外れになりつつあるトマト。まだがんばって、花をつけています。


   2008/10/05 撮影
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リーフ 29

2008-10-03 21:51:29 | 小説 リーフ
 二人が旅券を門番に見せグレン市に入ると、いつも通り華やかでにぎやかな街であった。
「カル、はぐれないようにちゃんとついて来るのよ」
 そう注意するレム。
 まるで子供にでも相手にするような言い様だが、実際すごいのである、カルの方向音痴は。
 初めて行ったところで方向が分からなくなるのが普通の方向音痴だが、いつも歩くところですら外から建物の中に入っただけで方向が分からなくなるのである。
 ここまで窮境の方向音痴は、カル以外いないのではないか、とレムは思っている。
 しかし、何故か帰途能力だけはちゃんと備わっているのだから、不思議なものである。
「ねぇ、レムちゃん。旅券の確認ってあんな簡単に済ませちゃっていいの? 荷物の検査とか何日市内に泊まるとか申請しないで大丈夫なの?」
 小走りに追いついたカルがレムの隣に並ぶ。今まで緊張していた分、ただ旅券を確認しただけで簡単に市内に入れたと言う事が、カルにとって不思議なことらしい。
「うん。まぁ、あたしが正式に魔道士協会に所属しているし、門番にカルの事あたしの連れ立って言ったから。それに、マリーヌの裏書も効いていると思うわよ、何たって彼女、今でこそ静かに(隠居風)魔導師生活なんてやってるけど、若い頃は王室付きの魔導士だった事もあるんだから」
「ふうん。すごい人に裏書してもらったんだ」
 レムの説明を聞いたカルは、首に下げた旅券を大事そうにしまいこんだ。
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リーフ 28

2008-10-02 21:57:41 | 小説 リーフ
「ほら、もうすぐグレンに着くわよ」
 レムが道の向こうにある大きな門を指差して、カルを振り返った。
「あそこで旅券見せて門の中に入れば、グレン市よ」
 地元ではない人がこういう大きな都市に入るには、犯罪防止のための身分証明書が必要となる。例外的にある一定料金を支払う、あるいは緊急事態の場合、旅券がなくても出入りが可能な場合もあるが、レムとしては、その必要もないのに出費を増やしたくないので、正規の方法で入場するつもりだった。
 しかし、門が開く時間は決められている為、たとえ身分証明書や旅券を持っていたとしても、門が閉まっている間はよほどの理由がない限り出入りが出来ない事になっている。
 とは、いうものの、レムが前に来た時は、もっと早い時間に門が開いたと記憶していたのだが・・・・。
「とりあえず、そこらで一休みしましょうか」
 レムは、そう言ってグレン市に来るたび立ち寄る軽食屋に入っていった。
 門の前には、開門待ち・順番待ちの旅人をターゲットにしています、といった感じの店が商店街のごとくずらりと並んでいる。
 実際、大変なのだ。やっとたどり着いた先で閉門になっていたりすると。特に、ここのような宿屋などがないような場合、野宿するしかない。
「ねぇ、前からここの開門てこんなに遅かったけ?」
 空席を見つけたレムが、顔見知りの店員に声をかける。すると、
「あ、その事ですが、ついこの間、市内で火事騒ぎがありましてね。しばらくの間、閉門を早めて開門を遅らせているんですよ」
 お陰で、お客が増えましたがね・・・。と店員が笑いながら教えてくれた。
「火事騒ぎ・・・て、放火?」
「いや、まだ、分からないんですよ。いま、お役人が調べているところです。一区切りつけば、開門時間も元に戻るとおもいますよ」
「そう、ありがとう。それじゃ、お茶と何か軽いもの二人分お願いね」
 店員がテーブルから離れた後、レムが荷物の中から便箋とペンを取り出す。
「どうすんの、それ?」
 興味心身にテーブルに身を乗り出してくるカルに
「今のうちに、魔道士協会の支部長に手紙書いておこうと思って」
 ペン軸で頭をつつきながら答える。
 こういうのって、書き始めが難しいのよね。
 あーでもないこーでもない と、レムが頭をひねっているところに注文したお茶と軽食が運ばれてきた。
「あわてなくていいわよ」
 猫舌でいつも熱いのを口に入れてぴーぴー言うカルに声をかけ、手紙を書き進める。
 それくらい市内に入ってからでも十分ではないかと思うだろうが、レムとしては、グレン市に入ったら速効で長期滞在の出来る宿を探し、今日のうちに協会に出向いてカルの資格試験と、グレン市滞在中の魔導士としての活動許可の申請を済ませてしまいたかったのだ。
 いつものようなちょっとした旅の途中であれば、その地元の支部に顔を出して挨拶すれば済んでしまうのだが、今回は支部長に面接願いを出すのだ。それなりに筋を通さなければならないのである。
 ・・・・・面倒くさいけど。と言うのが、レムの本音ではあるが。
 マリーヌも、カルは間違いなく自分の弟子であるという内容の書付を持たせてくれた上に、前もって協会に推薦状まで送ってくれている。それでも、すぐに面会がかなうわけではないのだが。
 手紙(兼申請書)を書き終わり、やっとお茶を飲むと、すでにぬるくなってしまっていた。
 カルにとっては、ちょうど良いかもしれない。
 お茶を飲んで、一息ついたレム、
「カル、旅券の用意しておいて。そこの門通る時見せるからね」
 と、声をかけ、荷物を担ぎなおした。
 勿論、この出費もレム持ちである。
 以前、カルの買い物で代金立て替えた時、レムが冗談に“後でこの代金返してね。出世払いでいいから”とふざけて言ってみたところ、カルがまじめな顔で“出世、しなかったらどうすんの?”と困っていたことがあった。その時は、真面目なのかふざけているのかと悩んだレムだったが、後に、単にボケているだけだった、と判明した。
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