【真十鏡】についてのご紹介です。
この作品でのモチーフはご依頼された方自身です。
描画や言葉の作業中、私自身は鏡の役割に徹しています。
色を選んだり、どこに何を描くのか決める時、
感覚的には普段日本画を描いている時と変わりはありません。
瞬間的に仕事を進めることを第一としており、
色数を厳選して棒絵具や顔彩で制作しています。
初めて自分自身をカタチにした作品です。
・【真十鏡】の制作ではいつも最初に絵を描きます。
こちらは小さな生成りの和紙に顔彩で彩色しました。
紅で風を描いてから、ずっと雨を描いていました。
雨の先には黄色い光が柔らかく生まれ、
仕上げに紅色には銀が重なりました。
台紙は白くシンプルに、葉書サイズを選びました。
(ここで絵と言葉の配置について見当をつけておきます。)
・完成した絵をみて物語となる言葉を選びます。
描画中の雨の印象が強く、まず『恵の雨』というイメージでした。
そこから『照り輝く樹』『待つ』という言葉が続きました。
しっくりくる言葉を探っていくうちに和歌の形となりました。
『慈雨のあと 光り合ひたる樹に寄りて 香ぐはしき君を 恋ひ渡るかな』
(解釈)
恵の雨が止んだ。
森を見れば、雨粒に陽の光が反射してまるで輝いているかのような樹が立っていた。
樹がキラキラと輝いた時にこの場所で、と約束していた。
静かに佇み、空を仰ぐ。
ただ大切なあなたを待っている。
普段悟りを開いたような心境で暮らしているので…
そんなに情熱的な言葉が表れるとは意外でした。
月並みですが、自分のことは自分ではわかっていないものだと感じました。
この物語で大切なのは『待つ=想う』ことでしょうか。
3月のある日、仕上がった時には切ないなあと涙を流しました。
その後、2ヶ月近く経ちましたが…
昨日ある言葉をきっかけに、その言葉とは違うところで何かを感じて
涙が止まりませんでした。
そんな涙の時を経てようやくこの作品の意味がストンと入りました。
共に歩んできたと思っていたけれど、気づけばそれぞれの道を歩んでいた。
もしかして大切にする想いも少しずつ変わってしまったのだろうか。
心も遠く離れたのか。
測ることもできないくらいに見失ってしまったのかもしれない。
たとえそうだとしても、
あなたの大切にしているものは世界で輝き続けるだろう。
どんなに遠くにあって見えなくてもいつでも感じられる。
樹の元で待ちながら、そんな想いを抱いていたのかもしれません。
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