お好み夜話-Ver2

完全なる首長竜の日

「砲丸投げ子」嬢が「つまらないけど、読む ? 」と言って、押し付けられるように貸してもらっちゃった文庫本。

それが「完全なる首長竜の日」だった。

表紙の首長竜ープレシオザウルスの絵に惹かれて本屋さんで手にとったことはあるが、買って読むまでには至らなかった。

そのうち、「完全なる首長竜の日」を原作にして「リアル~完全なる首長竜の日~」として映画化された。

テレビのCMでプレシオザウルスがチラッと出てくるのを見て、ちょっとだけ興味を持ったがやはり劇場へ行くようなことはなかった。

原作はともかく、映画の監督が「黒沢清」だったことが、劇場でお金を払って観る気をおこさせなかったのだ。

ピンク映画「神田川淫乱戦争」、「ドレミファ娘の血は騒ぐ」、「スウィートホーム」までは劇場で観たからまあ古いおつき合いってことになろうが、その後の「CURE」や「回路」、「ドッペルゲンガー」「叫」といったいわゆるホラーはビデオで見たがどうも性に合わず好きになれず、それに反して世間では「黒沢清」の名声は天才タケシ並みに高くなって、「どこがぁ (`_´)ゞ」という気持ちもあって敬遠していたからだ。

それに「投げちゃん」には申し訳ないが、主演の「佐藤健」くんをぜんぜんいいと思えないし、「綾瀬はるか」ちゃんだって上手い役者とは思ってないから、見るならDVDで十分なのだ。


いや、映画はこのさいおいといて、原作はなかなかなものだった。

古今東西の文学や映像で格好の題材「胡蝶の夢」を、SF的タッチを抑えながら主人公の女性漫画家「和淳美」の一人称で展開してゆく。

キーワードとなる小道具 ?がいくつも登場する。

南西諸島の小島の磯だまりに立つ竿の先の赤い布、ドックに入った船艇の赤錆を落とす「カンカン虫」、「サリンジャー」の「ナインストーリー」の1編「バナナフィッシュにうってつけの日」に出てくる自動拳銃「オートギス」、そして首長竜ープレシオザウルス。

現実の淡々とした日常にそれらの事物が幾度も繰り返し現れ、それは夢なのか?別の人の意識の中の出来事なのか?主人公の精神が次第に蝕まれてゆく。

自殺未遂を起こし意識不明の弟「浩市」と、SCインターフェースという機器を通じてコミュニケートする最新医療技術「センシング」により彼の意識と対話することも、なにも近未来の出来事としてSFチックに描かれているわけではない。

また「憑依・ポゼッション」という言葉はでるが、ホラー色は微塵も感じさせず、主人公「和淳美」は締め切りに追われ連載を打ち切られる人気の陰りだした漫画家として、些細なことに一喜一憂する40歳目前の女性目線で語る。


人の夢の中、深層意識へアクセスするという話は、先にも述べたとおり古今東西枚挙にいとまがない。

オヤジ的にはつい最近「夢枕獏」の「サイコダイバー・シリーズ」の「新・魔獣狩り13 完結編 倭王の城 下」
を読んだばかりだし、古くは「小松左京」の「ゴルディアスの結び目」も人の精神に潜り込む(ダイブする)話だ。

また映画でも「ジェニファー・ロペス」主演の「ザ・セル」や、「レオナルド・ディカプリオ」主演の「インセプション」がこの題材の映画として記憶に新しい。

このように様々なメディアで格好の題材にされる「胡蝶の夢」なのだが、著者「乾緑郎」は「完全なる首長竜の日」をSFアクションのような見栄えのいい話にはせず、首長竜や他の小道具 ? を狂言回しのように使い、日常を淡々と描き終わりのない迷宮に誘いこませる話の運びが上手いと思った。

「投げちゃん」が「つまらない、わけわかんない」と言ったのは、何度も繰り返されるメタファーに慣れていないせいかもしれない。

オヤジ的にはこの「乾緑郎」さん、今後とも要チェックの作家になるかもしれない。



しかしそれにしても、人から借りた本は得てして読めない性分なのだが、前に彼女から借りた「のぼうの城」もこの「完全なる首長竜の日」も面白く読めた。

ほぼ1日あれば読めてしまう手軽さもいいのかもしれないし、自分では買わなかった本だから、彼女が押し付けてくれたことに感謝している。

「投げちゃん」ありがとネ♡

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