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大内麻紗子の【好きなことを好きなだけ】ブログ

いざ、春画の世界へ

以前のブログ(春画・艶本=エロ本?)で、立命館アカデミーのオンライン講義『【LOVE&ARTS】春画・艶本と出版 ー表現・技術・造本を考える』を受講したというお話をさせていただきました。

それからというもの春画に強く興味を持っていた私は、先日東京へ行ったタイミングで「春の画SHUNGA」「春画先生」という、春画を題材にした映画を2本観ることができました。


ドキュメンタリー映画の「春の画SHUNGA」は、鳥居清長の〝袖の巻〟復刻プロジェクトに始まり、海外のコレクターによる解説、横尾忠則氏や会田誠氏、木村了子氏といったアーティストからの視点、オンライン講義で講師をされていた石上阿希准教授のお話などなど、いろんな角度から春画の説明がされていて、先のオンライン講義では浮世絵の素晴らしい技術面が特に際立って私には面白く感じたのですが、「春の画SHUNGA」ではその部分にプラスして、命と直結していた春画というものの立ち位置に、興味が湧きました。

私が今年取り組んできたアバターというテーマとも繋がるところがあると感じたからです。


その昔、春画は嫁入り道具のひとつでした。

大名家に嫁ぎ男児を産むことが使命だった時代を想像すると、おそらくとても重要な役割を担っており、その重みを考えると息が詰まります。

春画は教本であり子孫繁栄を願うものでもあったのでしょう。

また春画はこうした命を育む行為を絵にしていることから、〝生〟の象徴であり、「勝ち絵」と呼ばれ、戦や戦争の際にはお守りにもなっていました。

横尾忠則氏の、母親が死の床で春画を持っていたというお話は特に、とても考えさせられるものがありました。


〝性〟と〝生〟を結びつける行為は縄文時代にもみられます。

日本では豊穣や出産を願い女性を象った土偶をつくったり、大地という生命の源から収穫した作物を調理する土器に、女性器と思われる造形を施してきました。

また男性は石棒であったり、蛇をシンボル的に用いていたりして、同じように豊穣や出産を願っていたと考えられています。

私は人類が生きるために生み出し、願いや命を込めてきた対象物を指して、それらをアバターと呼んでいます。

壁画に描かれた鹿も、土偶も、ネット上に存在するキャラクターも、その時代時代の人々が生きるために生みだしたアバターたちです。

そして春画も、命と隣接し、様々な願いと共にそこに存在していたことを思うと、アバターとしての意味合いがあったのではないかと感じました。


このように命の象徴とも言える春画ですが、戦がなくなり平和な江戸時代には「笑い絵」と呼ばれ老若男女に親しまれ、浮世絵の技術をこれでもかと盛り込んだ最高傑作が生み出されました。

しかし幕末になると不安な時代を表しているかのようなおどろおどろしい妖怪ものや、血みどろな作品がつくられており、春画には時代を映し出す鏡としての役割もあったのだと気づかされます。

明治時代に欧米化が進んだことで、キリスト教的倫理観が持ち込まれ、〝性〟はタブーとなりました。

こうして春画が影を潜めていったのも、ある意味で時代を映しているといえるのだと思います。


呉善花さんが書かれた「日本の曖昧力」の中に、〝一般に外国人には、日本にはポルノが至るところに氾濫するなど、「性に乱れている」という印象があるようです〝と書かれています。呉善花著『日本の曖昧力ー融合する文化が世界を動かす』PHP新書 2009年より)

また〝変態〟という言葉は「HENTAI」として認知されており、日本のアダルトアニメや成人向け漫画、ギャルゲーやエロゲー、またはその画風を模倣したものを指す時に使われています。

こうした日本のイメージというのは、もしかしたら性におおらかで一般に広く親しまれていた春画の存在が、どこかで影響しているのかもしれませんが、一見倫理道徳が乱れているようでいて、儒教倫理やキリスト教倫理が行き渡っている国々よりも日本は性犯罪の発生率がはるかに低いという事実があります。

〝性〟をタブーとせず、命と直結した大切なものと考えてきた国民性がこうした結果を生んでいるのかもしれません。


時代を映し出してきた春画。

いま春画を新しく制作するとしたらどんなものになるのかとても興味があります。

例えばAIが描いたら?

この時代をどう表現するのでしょうか。

2013年にロンドン・大英博物館で春画展が開催されたのを機に改めて春画が見直され、こうして表舞台に立ち始めているのも、何か時代の変化が起こっている証では?と感じずにはいられません。


一方の「春画先生」は、春画の研究者である春画先生を愛してしまった主人公、春野弓子が、春画を通して春画先生との絆を深めていく偏愛コメディ作品です。

これまで映像化するにあたってボカし加工が必要だった浮世絵春画を、修正無しで商業映画として全国公開したのは、日本映画史上初(【R15+】として指定)だそうです。

とても挑戦的な作品だと感じました。

春画に描かれている世界を実際に再現したらこうなるのかと、その自由な精神におかしみを感じる部分と、現代の感覚では少々追いつけない部分とがあって、自分がどれだけ欧米文化を常識と考え、染まっているのかということに気づかされました。

好みが分かれる作品だとは思いますが、春画をこうした視点で描いているのはとても興味深く、私は自分の価値観を見直すきっかけになりました。


春画の文化に触れてから、ハッとさせられることばかりです。

一説ではピカソがキュビズムを生み出したのは春画による影響があったのではないかと言われているそうで、それだけ見る人に気づきや衝撃を与え続けてきた春画。

知らなくても生活するには困らないけれど、日本の文化や本質を知ることは何か生きていくヒントを与えてくれるような、そんな気がします。



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