話を『礼讃』に戻そう。
この本は木嶋佳苗の自伝的小説として書かれている。
よくただのポルノ小説だと揶揄されている口コミを見る。
確かに行為自体は生々しく書かれてはいるが、もっとどうしようもないものを想像していたせいか、個人的には大して気にならずに済んだ。
ただ初めての彼が詐欺師だとか、これだけ賢い人ならば気づいていたはずである。
けれど全てにおいて都合の悪いことは受け身で書かれているのが引っかかった。
雅也くんが美人の真由ちゃんではなく自分を選んだこと、初潮を早くに迎えて早熟だったことで妊娠を疑われたこと、母親との確執etc.
真由ちゃんへのライバル意識はすごいものだ。
雅也くんに真由ちゃんの印象を悪くするようなことを伝えていてもおかしくない。
初潮がきたのが早いからといって妊娠を疑われた件だって、火のないところに煙は立たないのだ。
疑われるような言動を当時から取っていた可能性だってある。
母親のことも、彼女の視点で書かれている以上、本当のところはわからない。
結局似たもの同士だからこそ、同類嫌悪していただけだったのでは?と読んでいると思えてくる。
そんな彼女がどうして金に執着するようになったのかは、ギャンブル好きであることに触れている他は具体的には書かれていない。
そして周りの男がなぜか次々死んでいく。
書かれていることを全て鵜呑みにするならば、彼女にはやはり魅力があるのだろうと思う。
なんせとてつもない努力家だ。
いろんな意味で。
しかし全てを信じるのはあまりに危険すぎる。
少し離れて客観的に眺めてみると、なんとなくだが自分を正当化するのを自然にやってのけてしまう人で、悪いことをしている自覚がないんじゃないかと個人的には思えた。
いちばんタチが悪いパターンだ。
それゆえサイコパスなどと言われているのかもしれない。
だが一方で支援者がいるのも事実で、驚くことに獄中結婚もしている。
夫である『週刊新潮』の担当デスクには当時妻も子どももいた。
それでも彼女と結婚することを選んでいるのだ。
すでに家庭が冷え切っていたのかもしれない。
死刑が執行された後に彼女の本を出版することで稼ぐつもりだなんていう話もある。
しかしネットの記事だけでは本当のことはわからない。
死刑が執行されると死刑囚に関することがうやむやになって消えてしまうらしい。
それを防ぐためにも死刑囚と家族になるジャーナリストは意外にも多いという。
なるほど。
正義か悪か、0か100かで物事はできていないようだ。
多方面から見ることで想像以上に様々な見え方、捉え方ができるらしい。
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