2019年に発表された論文は「自閉症に関するいくつかの研究において、知的障害を考慮しない、もしくはその可能性を排除してしまった、いわゆる選択バイアスに陥った結果を取り上げている」と主張した※。
※全部の論文を調べたわけではないらしいから、参考程度に。
具体的な主張の一部は「今回取り上げた301件の自閉症の性質に関する研究のうち、IQに関する数値を示している165件の研究に参加した人の知的障害保有率は6%であるにも関わらず、IQに関する数値を示している研究の86%が『自閉症患者全体を対象としている』と記述した」となっている。
……この記述だけでは、よほど予備知識がない限り理解も感想も沸かないと思うので、できる範囲で説明させてもらう。
自閉症は「知的障害を持っているか、いないか」を基準にした場合、大きく2つのグループに分けることができる。知的障害(一般的な基準はIQ<70)を持っていないグループは『高機能自閉症』なんて呼ばれることもある。
「自閉症患者の半分は知的障害である」と推測されるぐらいには、自閉症は知的障害と深い関係があるとされている病であり、「知的障害を持っているか、いないか」によって症状の傾向や度合いや、症状への対応が結構違ってくる。知能が高いはずの『高機能自閉症』のほうが深刻であると判断される症例もあったり(Miriam et al. 2001)など、この辺りは非常にややこしい。
なので、「知的障害を持っているか、いないか」で分けられた2つのグループは基本的に対比の関係で分析されたり、あるいは片方を除外した形で行われる。
このようなグループ分けの明確な記述は望まれている、というかほぼ必須。でなければ、例えば「『高機能自閉症』が9割越えのサンプルではかった結果を自閉症全体の傾向として記述してしまい、結果を鵜呑みにした人が知的障害を持つグループにもその情報を当てはめてしまう」とかいう目も当てられない事態を引き起こしかねない。
で、上記の例を実際にやっちゃっている研究がいくつかあるよって調べてくれたのが、今回取り上げた論文の主題。
なお彼らが主張する分には、研究限界として『サンプルの一般性の欠如』『選択バイアス』を取り上げている研究は301件のうち31%だったという。
この論文が検証したことは「『高機能自閉症』に対する、知能指数のみではかった場合生まれる偏見」の発見と同じぐらい重要なもので、この題材を主軸に締めを結んでもいいものだが……
今回私が取り上げたいのは、少し違う視点となる。
ーーー研究や、その結果をまとめた論文も、すべて人間が作っている。
なので、他の同業者からすれば一目瞭然なレベルの失敗が混入している論文もある。今回取り上げた話題は、その一例。
だから、論文だからと言って、論文を取り扱っているからと言って、その情報が正確である保証はどこにもない。
もちろん、私が綴るこの記事も。
論文という権威に、無抵抗になるのは望ましくない。
ーーー『研究限界』が記述されているかどうか。
『研究内容』が一般的かどうか(例えば引用数や、類似の研究など)。
論文の信頼性をはかるコツを、いくつか挙げてみた。参考程度に。
参考文献
Ginny Russell, William Mandy et al. (2019) Selection bias on intellectual ability in autism research: a cross-sectional review and meta-analysis.
Miriam Liss, Brian Harel et al. (2001) Predictors and Correlates of Adaptive Functioning in Children with Developmental Disorders.