WHOは健康の定義を「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」としている。
単に病を患っていないだけでなく、心身共に充足され、幸福に生きる権利を基本的人権として説いている。
ここで説かれている健康は、意欲関心のあり様を主に説く自己決定理論の大前提とほぼ同じ内容である。
自己決定理論は大前提として、意欲関心は健康な人が扱えるものと定義しているのだ。
自己決定理論は、人間を「活動的で成長志向で、自身の精神を統一させたく、また自身を社会に適応させようとする前向きな生物である(Deci and Ryan 2000)」と仮定している。
また、人間は自身の成長のための活動や学習に喜びを見出せるよう作られているという。
この仮定は自己決定理論が生得的な心理的欲求と定義している自律性・関連性・能力の充足が幸福感や更なる学習をもたらすこと、生得的な心理的欲求が進化学的に説明できることが裏づけとなっている。
生得的な心理的欲求というだけあって、この3つの欲求は人間が生まれた時から備わっている。
自律性は自身の行動に一貫性を持たせようとする生物本来の特性を引き継いだ特性で、自分自身を制御できているときに充足される欲求である。自分がなにをするかを自分で決めれる、生殺与奪の権を握っているときに満たされる。
関連性は社会的生物とされる人間の本能の発展であり、周囲が自分と縁を持てている、交流できていると感じたときに充足される。例えば、自分の意思決定を尊重してくれる友人は対象の関連性を満たし、自分の意思決定を無視し我関せずを貫く人は対象の関連性を満たさない。
能力はオペラント条件付けで説かれる正の強化に近い特性で、自分の行動によって事が動いたときに充足される。自律性と共に自己効力感を構築する要素であり、自分の行動が目に見える結果でもたらされたときにより満たされる。
この3つの欲求は「自身の成長のための活動や学習」を強化するものであり、欲求充足という活動の目的にもなりうる。「自身の成長のための活動や学習に喜びを見出せる」仕組みがこの3つの欲求である。
この3つの欲求により強化された「自身の成長のための活動や学習」、もしくは欲求充足のための自発的な活動を内発的動機づけにより起こった行動といい、「自身の成長のための活動や学習」は意欲関心や興味なんて呼ばれている。
意欲関心は3つの欲求により起こされるものではないが、3つの欲求は意欲関心に基づいた行動によって(特に自律性と能力が)充足されるものであり、欲求充足は意欲関心に拍車をかける。
この欲求充足はWHOが定義する健康のうち、特に精神的に満たされた状態のことを指すのだ。
意欲関心は人間が生まれながらにして持っている性質であり、その意欲関心を維持するための仕組みが自律性・関連性・能力の3つの欲求である。
この欲求が充足できて初めて意欲関心は充分に発揮される。
その欲求充足はWHOが定義する健康に当てはまり、ゆえに、意欲関心は健康な人が扱えるものと言えるのだ。
参考文献
Edward L. Deci &Richard M. Ryan (2000) The What and Why of Goal Pursuits Human Needs and the Self-Determination of Behavior.
Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
Richard M.Ryan and Edward L.Deci (2020) Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective:Definitions, theory, practices, and future directions.
公益社団法人 日本WHO協会 世界保健機関(WHO)憲章とは https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます